第4話 男には癒やされたい時がある

 衝撃の晩餐会が終わって朝になった。

 俺、カトーはあの日の料理がコーラからヒントを貰ったと聞き、ハカセとイチローの元へ向かった。


「コーラについての調査は以上になります」


 ハカセが得意げな顔をしている。

 コーラの美味さを解明できたことが余程嬉しかったのだろう。

 

「な、俺の言った通り、宇宙一の飲み物だっただろ?」


 イチローまで得意げな顔をしている。

 お前のせいで、昨晩はえらい目にあったというのに……。

 サクラなんて助走を付けてイチローを殴ってたもんな……恐ろしい。


「イチローを褒めている訳じゃないから勘違いしないでよね……」


 今の心境としては、どっちも褒めたくはないな……。

 しかし、この2人は本当によく似ている。

 性格は正反対なのに、異なる形のパズルがピタリとハマるように……一緒になってとんでもないことをしでかすからだ。

 サクラが言っていた【ハカセが暴走するときは絶対イチローの仕業】というのも頷ける。


 ハカセはあんなに頭がいいのに、なぜイチローが関わると凄いレベルの暴走をするのだろうか。

 やはりまだまだ子供なんだろうか……。


 色々と疑問は残るが、まずはコーラを飲んでから考えることとしよう。


「イチロー、例のコーラというものを俺にも一杯もらえるかい?」


「カトー氏……今飲んでいるので最後だったよ。ごめん」


「いや待てよ、昨日も両手一杯に抱えて帰還したって聞いたぞ。もう全部飲んだのか?」


「コーラは入る所が別なんだよ……。毎日買わないと足りないかもね」


 なんだよ、入る所って……。サクラも同じような事をよく言ってるぞ……。

 やっぱりイチローはどこか変わっている。ナチュラルに暴走している感じだろうか。


「そうだ、今日はカトー氏も一緒に秋葉原へ行こうよ。それなら飲み放題みたいなもんじゃないかな」


「うむ。惑星の屑作戦(※ カトーが勝手に命名した)成就の為には敵情視察も必要ということか……」


「よく分からないけど、そんな感じかな」


「炭酸バカがもう一人増えなきゃいいんだけど……」


 ハカセがため息混じりで呟いた。


 ――


 ハカセが転送装置のボタンを押すと、瞬時に風景が切り替わった。

 すごい……これが転送というものか……。


 イチローは毎日の事なので、すっかり慣れた様子で歩き始めた。


「もうお昼だね。この間カトー氏が好きそうな店を発見したので、案内してもいいかな?」


「今日はイチローに任せるよ」


 その言葉通り、今日はイチローに全部任せてみようと思う。

 そうすれば、イチローの謎を少しは理解できるかもしれない……。


 イチローに付いていったところ、【メイド喫茶 からめるどりーむ】と書かれた店までやってきた。

 なんだ?【メイド喫茶】って?


「おかえりなさいませ、ご主人様!」


 俺とイチローの2人を迎えたのは、【からめるどりーむ】一番人気の「かすみ」という地球人女だった。


「イチロー様、本日もご帰宅ありがとうございます♪」


「おい、あの子、『本日も』って言ったぞ。まさか毎日来てるのか?」


 イチローに小声で確認をする。


「今週は8回目だったかな……」


「毎日どころか、1日に複数回来てるじゃねえか……一体どうなってるんだよ……」


 やはりイチローからは目が離せない。

 余裕で想像の斜め上を超えていく……。


「初めてご帰宅されるご主人様ですね♪かすみです。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言うと、かすみという地球人女は俺の目をしっかり見ながら挨拶してきた。

 なんだこの子は……すごく……かわいいじゃないか!


「あ、どうも。イチローの友人のカトーです」


 なんだか胸が締め付けられるような……そんな気分になりながら俺も挨拶をした。

 イチローのやつ、こんなかわいい子と毎日のように遊んでやがるのか……許せん……。


「もうお昼なので、お給仕してもよろしいでしょうか?」


 かすみが満面の笑みでそう言った。

 もう何を言ってもかわいい。


「じゃあ、『いつもの』を2人分ね」


 イチローがそう言う。

 『いつもの』が通じるって相当の関係だぞ……。


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 しばらくして、かすみがオムライスセットを俺たちのテーブルに置いた。

 ケチャップで器用に【イチロー様だいすき♥】、【カトー様だいすき♥】とそれぞれ書いてある。

 くそう、いちいちかわいいじゃないか!


「それでは、おいしくなる魔法をかけますのでご主人様もご一緒にお願いしますね♪」


「え……?魔法……?地球人ってそんな事ができるのか?」


 イチローに小声で聞いてみた。


「そりゃあもう……なんか色々すごいぞ……」


「それではいきますね。もえもえきゅんきゅん、おいしくな~れ♪」


 手でハートを作りながら魔法を掛けていくかすみ。


「もえもえきゅんきゅん、おいしくな~れ♪」

「モエモエキュンキュン、オイシクナーレ……」


 ノリノリで繰り返すイチロー。

 こいつの順応性は本当に恐ろしい。

 俺は……なんだか恥ずかしくてカタコトになってしまった……。


「どうぞ召し上がれ♪」


 かすみちゃんにそう言われ、スプーンに掬ったオムライスを口に運ぶ……。

 なんだこれは!


「う、うめえ!」


 冗談ではなく本気で美味い。

 【昨晩のアレ】を相殺してもおつりがくる美味さだ。


「こんな美味い食事は久しぶりかもしれん……。イチロー、この星の住民はどうなっているんだ?」


 我を忘れ、次々にオムライスを口に運んだ。

 そういえば……昔は軍でストイックな生活を求められてきたし、現在近くにいる女性といえば……乱暴な女と時々暴走する少女だもんな……。

 食事は誰とするのかが重要な要素なのだと、眼の前のかすみちゃんに気付かされた。


「この星は我々の想像の斜め上を行った発展を遂げているんだよ」


 本当にそうだよな……。

 お前の行動も想像の斜め上を行っているけどな。


「このドリンクもなかなかいいよ。ドクペって言われているらしい。コーラとはちょっと違うけど、俺はこっちの方が好きかも」


 そう言われて飲んでみたが、確かに悪くない。

 不思議な味わいだったが、優しい甘さに包まれているようだ……。


「なんか薬みたいな味だけど、確かにクセになるな……」


「そういえばハカセも薬みたいな味とか言ってた気がするよ。20種類以上のフルーツフレーバーと謳ってるのになあ……」


「20種類以上って、随分と曖昧だな……。『いろんな味が混ざってる感じだから20種類以上とか適当な感じにしとくか?』みたいなノリで書いたんじゃないか?」


「あはは、そうかもね。でもさ、そういう曖昧さも俺は好きだな。具体的にアレとコレの味がしますって書いてあったら、確かめようとする人いそうだし。純粋に楽しむには曖昧なくらいで丁度いいんだよ」


「なるほどな……イチローって色々適当だと思ってたけど、適度な曖昧さってのも人生の奥行きに必要なのかもしれないな。今日一緒に行動してみて少し理解できた気がするよ」


「そうでしょ。ハカセなんてすぐに分析しようとするんだから……もう少し適当に楽しめばいいのに」


 ――


 その後、メイドと談笑したり、ステージライブを見るなど楽しみ尽くした。

 俺は久しぶりの楽しさに興奮が収まらないのだが、イチローは飲み物やお菓子を買い漁っている。

 イチロー、お前は本当にブレないな。


「楽しんでもらえて良かったよ」


 イチローは笑顔でそう言った。


「それにしても、かすみちゃんはかわいいな……俺の側にいる女といえば……あの凶暴女だもんな……魔法というより呪いをかけるんじゃないか!」


「カトー氏、上手いこと言うな~」


「でも、こんな姿をサクラやハカセに見られたら何を言われるか分からんよな」


「想像するだけで恐怖だよな……あはは」

 

 俺達2人の大爆笑が秋葉原の夜に響いていた。

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