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メールに文章はなかったけど、たった一枚の写真は私の心をひどく動揺させた。誰がメールを送ってきたのか、その理由はなんなのか。そしてどうして旭と小夏ちゃんが一緒に写っているのか。
旭の方はせいぜい片目しか覗えない角度だったけど、特に変哲のない普段通りの表情だった。だけど、彼と向かい合っている小夏ちゃんは眩しい笑顔で、とても赤の他人同士とは思えなかった。なんで。どうして、彼女はこんなに笑っているの。ただの友だち同士? だけど、そんな話、一度も聞いたことがない。旭と小夏ちゃんはどういう関係? そもそも誰が何の目的で、私にこの写真を送ったの?
「どしたん」
旭の声に、私は我に返った。借りる本を選ぶために本棚の前に立ったまま、つい考えにふけっていた。
「ううん……」
なんでもないのかもしれない。二人は前から知り合いだったのかもしれない。だけど、追及する勇気が出ない。
そもそも私は、旭の彼女でもなんでもない。友だちの一人にすぎない。仮に彼が誰かと付き合ったとしても、それを止める権利はない。
私はわがままだ。
「この前、誰と会った?」
「この前?」
意味不明な台詞に、彼は意味が分からないという顔をする。あっと思ったけど、そもそもあの写真がいつ撮られたものなのか、私にはわからない。小夏ちゃんの名前を出すべきだろうか。そこまで踏み入っていいものなんだろうか。
「なんの話や」
「えっと、その……あ、旭はさ、仲良しの女の子っている? 私以外でよく話す子とか」
「いや、おらへんよ。そもそも俺、ろくに友だちもおらんし」
ほっとする反面、本当だろうかと疑ってしまう。あの小夏ちゃんの笑顔は、真っ赤な他人に向けるようなものじゃないと思う。旭は私を騙すようなことはしない。わかってる。わかってるのに……。
「なんや、急に」
「ちょっと、気になって……」
「変なやつやな」いつもと変わりなく笑う彼は、ふと背後の窓に目をやった。一面の窓ガラスからは中庭が見渡せて、彼が指さした方向には見覚えのある猫がいる。「話しにいかへん?」ベンチの上で日向ぼっこをしているぷちを指さすのに、私は何も言えずに頷いた。
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