第15話 戻りつつある日常
「柚季に何したの?」
1日だけ休んだあと、僕はここ数日普通に学校へと通っている。
何事もなく過ごしながら、会長との交際をおおっぴらにはしていないそんな中、他のクラスの女子がこの日の昼休み、僕のもとを訪ねてきた。
その子は、柚季の友人の1人だった。
名前は知らない。
「柚季もう学校に何日も来てないじゃん。連絡も無視されるし、何したわけ?」
「別に何もしてないさ。むしろ僕はされた方だ」
購買の列に並びながら、何を買おうか迷っている。
今日はカレーパンでいいか。
「されたって、何を?」
「浮気。相手は大学生だった。多分、君らの誰かが合コンか何かで紹介したんだろ?」
チクリとつつくように言ってやると、彼女は決まりの悪そうな表情でうつむいた。
その様子を見れば、まぁ案の定なんだろうな。
「で、浮気を知った僕はもう柚季とは別れた。心配するような間柄は終わってる。柚季が不登校になってる理由なんて僕は知らない。興味もない」
もう、どうでもいい。
「……それが元彼の台詞?」
「一度繋がりを持ったら面倒見ろって? なら君こそ友達として家にでも押し掛けて事情をさぐればいいだろ? 柚季が不登校になってからの数日間、なんで君はそれを行動に移してないんだ?」
「それは……」
「君はただ、友達の心配をする自分に酔ってるだけだ。本当は柚季のことなんてどうでもいいんだろ? だから家を訪ねることもせず、僕を責めて正義感に酔いしれているんだ」
そう言ってやると、彼女は再び黙ってしまった。
図星だったらしい。
僕の番がやってきたのでカレーパンを購入する。
まだ佇んでいた彼女に一応こう告げておく。
「もう突っかかってこないでくれ」
※
「そういえば、お父さんからって何か連絡来てたりします?」
購買を離れたあと、僕は生徒会室に移動して会長と顔を合わせていた。昼休みの生徒会室は基本的に何にも使われない。だからこうして会長とお昼を食べる場として、先日から利用し始めている。
ちなみに会長のお昼は、カロリーメイトだった。僕が渡しているお昼代はもっと良いモノを食べられる金額だけど、ほぼ毎日それ。そうやって質素に過ごすのは会長なりの気遣いなのかもしれない。そんなに遠慮しなくていいんだけど、会長がそうしたいなら僕はそれを尊重する。
「父からの連絡は……一応、あるわね」
「……あるんですか?」
「ええ。1日1回、寝る前くらいの時間帯に……『無事なんだな?』ってLINEが届くの」
それは、なんだろう……。
「一応、心配してるんですかね……?」
「多分、保身のためでしょうね。私が自殺でもしていたら面倒でしょう? だから生存確認をして、返事があるたびにホッとしてるんじゃない?」
「じゃあ……無理に連れ戻そう、って動きはない感じですか?」
「ないわね。そんな真似をして性的被害を表に出されるのが、父にしてみれば一番イヤでしょうから」
「そういえば……襲われたことを警察には言ってないんですよね?」
「言おうと思ったけど、それで父が豚箱にぶち込まれて困るのは結局私なのよ。片親な以上、今の私はまだ父を生命線にしないといけない……学費とかを払ってくれているのは、父なわけでね」
難儀だけど、そういうことになるのか……。
子供に自由はない。
今だって自由に見えて、会長の首には鎖が繋げられているらしい。
「色々聞いてくるけど、霧島くんこそどうなの?」
「僕ですか……?」
「私を部屋に招き入れて、後悔してない?」
「そりゃ、するわけないですよ」
「……一緒に生き延びて、正解だった?」
「愚問過ぎるんではいともいいえとも言わないでおきます」
「ふふ……了解したわ」
会長は嬉しそうにカロリーメイトを囓ってみせた。
そんな姿さえ絵になる会長を見ているだけで、僕は癒やしが貰えるようだった。
でも一方で、ふと柚季のことが脳裏をよぎって気が滅入る。
不登校の状態を心配してはいないが、もし自殺を考えているんだったらイヤだなと思う。
死んで欲しくない……のではない。
一度自殺を考えた人間が言うのもアレだが、自殺は逃げだからやめて欲しい。
業を背負って生き続けろ。
僕はただ、そう思っているだけだ。
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