第10話 ジパングという所に辿り着き、いととおし・その五


「ヴィオラ殿、この度は本当にありがとうございました!」


 ゲンブ様が深く頭を下げられます。


「ゲンブ様、頭を上げてください。私はやるべきことをやっただけです。あんな冒険者ギルドでは、政の邪魔になるばかりですから」


 あの後、見つかった書類は、不正の塊でした。

 ギルド依頼料についても、依頼料が異常に高くそして、イガロによる中抜きが酷いものでした。

 冒険者も他の国よりも貰っているとはいえ、そこまでの額ではありませんでした。

 また、冒険者ギルド自体の金も横領していた様で、正直とても悲惨な状況であることが明らかになりました。


 職員たちは、色んな理由で、いわゆるとばされてきた人たちで、イガロに逆らいクビになるわけにはいかなかった為に従い続けていた様です。

 イガロの悪行の数々が明らかになり、しかも、ギルド自体が破綻しかけていたことを知り、漸く危機感を取り戻したのか、彼らは心を入れ替え冒険者ギルドとして真面目にやっていくよう誓ってくれました。

 まあ、本部には手紙を送るよう手配したので、何かしらのおしかりはあるでしょうが、それは覚悟していただきましょう。


「いえ、本来であれば、我々が対等に彼らと向かい合うべきところ。お恥ずかしい限りです」


 その後、ゲンブ様の持つお屋敷に招待され、ヤスケ様と何人かの配下の方を含め、お話を伺っています。


「理由は、察しておりますが。お話いただけますでしょうか? 落ち着くことが出来ましたし、ゆっくりお話しいただければ……」

「はい。では、改めて。ジパングと呼ばれるこの地は、北から、シラユキ、マツバ、アヤメ、エド、クレナイ、サクラ、ツルバミ、オウニ、アオイという国々で構成されています」


 ゲンブ殿が広げられた地図には、北の島をシラユキ、中心にある最も大きな島に、マツバ、アヤメ、エド、クレナイ、サクラ、ツルバミ、小さな島がオウニ、そして、南にある島をアオイ、それぞれの名が書かれているようでした。


「そして、それぞれが王を立て、この地を治めるべく争いを繰り広げていました。ですが、十年前、魔物がこの地に発生し始めてから状況が変わります」

「人族同士の争いどころでなくなったというわけですね」


 ゲンブ殿は頷くと、話を続けられます。


「その通りです。魔物は、会話が出来ない恐ろしい存在として、アヤカシやヨウカイ等とこの地では呼び、それを退治し、国を落ち着かせることが最優先となりました。そして、同盟を結びました。当時はまだ、ジパングという名はなく、九頭同盟という名でしたが」


 どこの国でも聞く話です。

 ですが、不可解なのは、


「それまで魔物の被害というのはなかったのですか?」

「ええ。アヤカシやヨウカイ自体はいたのですが、ほとんどが害する者ものがおらず、むしろ、守ってくれるものという認識でした。ですが、十年前から現れた魔物達は、好戦的で我々の知っているものではなかった。そして、魔物を撃退し続け五年ほど経ったころに起きたのです。大襲撃スタンピードが」


 大襲撃スタンピードは、様々な説がありますが、魔物が増えすぎて、魔物が餌とする魔力が自身のテリトリーだけでは賄えなくなって大移動を始める説が濃厚と言われています。


「ジパングの北と東を襲ったその大襲撃によって、シラユキは国交が途絶え分かりませんが、マツバ、アヤメ、エドは大きな被害を受けました。そして、他の国々も魔物の棲家と、ダンジョンとなってしまったところが多く存在するようになってしまいました」


 人族にも魔力はあり、人が暮らしていた場所には魔力が溜まる。

 それを餌にしようと襲い掛かってくることは少なくありません。

 それ故、生贄などと言った風習もグロンブーツ王国付近では見られました。


「それまでなんとか魔物に対抗していたものの大きく均衡が崩れ、これまでかと思った時に提案されたのです。クレナイから『海の外の国の力を借りよう』と。それ自体は誰も反対する者はおりませんでした。ですが、クレナイに任せたその交渉は圧倒的にクレナイだけが優遇された約束だったのです」

「自国の利を優先すること自体は当然の事とは思います。ですが、」

「ええ。今は、魔物を倒し、民の為に平穏を手に入れることが最優先にもかかわらず、クレナイは、他国を従えようとしたのです。そして、武力や金をどんどんクレナイに吸い取られていったのです。さらに、信用の証ということで」


 ゲンブ殿は自身の服を脱いで上半身を露にします。

 そこには、黒い紋様がびっしりと書き込まれていたのでした。


「王の血筋の誰か、姫であれば嫁がせる、王子であればこの呪紋を受け入れるよう言ってきたのです」

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