第27話 不本意ながら

「とりあえず見てみたい」


 そんな宰相の発言から、現在店へ向かう途中である。そのまま来られると目立ち迷惑なので一般市民に見える格好をしてもらっている。なお、一人だとさすがに外出の許可が下りなかったためニル隊長も私服で同行している。


「店主よ、私は道を覚える自信がないのだが」

「気合で覚えてください」


 どうやらサティスがロルカを呼ぶときは店主で固定されたらしい。変にちゃん付けなどされないくらいの距離感がちょうどいいのかもしれない。


「気にはなっていたがこのタイミングで店に行くことになるとは……」

「別に来なくていいんだけど?」

「世界樹が動くと聞くとみてみたくなるのは仕方なかろう」


 何度したかわからないくらいこのやり取りを道中繰り返している。店の存在を知られているとはいえ、実際に見られるとなるとなぜか嫌な気持ちになる。


「ここです」

「ロルカ嬢、これまた随分奥まったところにあるのだな」

「喧嘩売ってます?」

「いやいや、勝てない喧嘩は売らないよ」


 宰相ははっはっはと笑っているが一々癇に障る男だ。

 ロルカは札を営業中へとかえ鍵を開ける。


「怪しそうな店内だ」

「うむ、怪しそうだ」


 異口同音が聞こえ護衛としてついてきているニルがため息をつく。ロルカ的には見慣れた店内ではあるが、初見さんにとっては怪しく映るものなのかもしれない。それでも店主の前で堂々と言い放つのはどうかと思う。冷めた目で何とか言ってほしいと思いニルを見つめるが、その視線にニルが気づくことはなかった。


「とりあえずあれです」


 店の入り口から中へと入るように促し、宙吊りになってもがいている物体を指さす。店から出る前と状況は少し変わっており、動きが緩慢になっているように見える。見た目的には一本の真っすぐな枝から二股の太い根が生えており、ところどころひげ根のような小さい根も生えている。


「始めてみたなこのような生き物?」

「聖なる気配を感じるのだが懐かしき気配は父の魔力だったんだな」


 ロルカにはわからないことだが、さすがに肉親の魔力くらい覚えていてほしいものだ。

 とはいえ、この蛮族は家族の魔力を忘れるくらい長い年月を冒険者として生活しているのだろうか? 森人は人間と比べると寿命がはるかに長いと言われている。人の寿命の五倍ほどは生きられるというが、何年くらい里に帰っていないのだろうか。


「こうなった原因はなにかあるのかな?」

「一応説明すると、何をやっても擦り潰せそうになかったから試しに植えてみようと思って、植えて水を掛けたら急に葉っぱが生えてきて呪いの物かと思って慌てて引っこ抜いて今に至る」

「確かにそういった呪いの類は存在すると聞いたことはあるが……」

「この聖なる気配が呪いの物だなんてとんでもない!」


 サティスは一貫として聖なる気配というがロルカには全くわからない。


「二人は聖なる気配というのわかります?」

「いやわからん」

「わかりません」


 魔力がある人であればひょっとすると聖なる気配とやらわかるのか? と思っていたがそうでもないようだ。森人だからわかるのか、サティスだからわかるのか他にも森人がいたらわかるのに予測がつかない。だがそうするとますますわからない物体になってくる。


「城に行く前に比べると元気がなくなっているように見えます。恐らく栄養エネルギーが切れかかっているのかも」

「ふむ、そういうもんなのかね」

「まぁ人間でも食べ物がないと動けなくなるし、間違いじゃないかと」


 ロルカの予想通り枝の動きがみるみる小さくなっていき、やがて止まってしまう。根の部分は下へと垂れ下がり元気のない様相を呈している。


「それで、これをどうする?なんなら今から違うものと替えてもも良いが」

「んー植えた時に生えてきた葉っぱを調べたんだけど、よくわからなくて。興味本位では植えてみたい気もするけど……」

「サティス殿、これは街に害がある物ですかな?」

「そんなことはないと思うぞ、多分。ただこの気配は呪いの類では絶対ない」

「ふーむ、植えるとどうなる?」

「わからん!」


 宰相は顔を俯かせ考えるように黙り込む。


「ちなみに世界樹の葉ってどんな性質があるんですか?」

「私が小さいころに聞かされた話では、葉を煎じて飲むと死者が生き返ると聞いたことがある。まぁさすがにそれは嘘だと思っているが。そもそも世界樹を見つけた森人は存在しないので実際はわからない」

「さすがに死者蘇生となるとうさん臭くはなりますね」

「少なくともこの聖なる気配が大きくなれば周囲の魔物の被害は少なくなるだろう」


 宰相はその魔物の被害との単語を聞き顔を上げる。


「よし、植えてみよう」

「正気?」

「その代わりいろいろと調べてからだな。呪いの物ではないことはわかる。どういった性質のものか調べてみよう。有益なものであればぜひとも活かしてほしい」

「いや、調べられないから困ってるんだけどね」

「王城預かりとする」

「……どうぞ」


 ロルカは項垂れるような根をしている枝を紐から外し、根の部分を触る。


「ちょっと根を切り取っても?」

「ロルカ嬢の物なんだ、好きにしてもらっていい」


 枝の部分に比べ根は少し柔らかそうだった。作業台へと持っていき、ナイフで切ると難なく切り離すことができた。本体をそのまま宰相へと渡す。


「確かに預かった。次は二人の話はいいかな?」

「あーそうですね。サティスさん。先ほどの話で、私が提示した素材を取ってもらう感じでいいですか? 冒険者組合で一緒に出来そうな依頼を受けてもらって全然かまいませんので」

「そうだな、それでいい!」

「一応後でこの店から大通りまでの道案内しますね」

「助かる」

「うん、ではわれわれはこれで失礼しよう」

「失礼します」


 そう言って宰相とニルは店を後にした。


「じゃ案内しましょうか」

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