第16話 初めての町の散策

 護衛二人を伴い街へ繰り出す。昼過ぎと言うこともあって行き交う人は多い。昼から飲んでいる集団もいるのかにぎやかな空間もある。


「なんか街の雰囲気? 匂いが違う」


 王都以外の街に来たことがなかったロルカにとってよその街というのは新鮮にうつった。


「ロルカ殿、外の街は初めてなのですか?」


 よろいではなく普通の服を着た護衛、もといアーキナが声をかけてくる。


「わざわざ都会から田舎に来たい人って少ないでしょうねー?」


 どことなく軽い雰囲気を出しているのはマーシャ。今日の護衛担当はこの二人だ。進行や哨戒そしてロルカの護衛はローテーション制で日替わりとなっているらしい。


「王都以外の街は初めてです。なんというか少し離れただけでも雰囲気が全然ちがうんですね」

「あー初めてだとそう感じるかもですねー」

「自分たちは任務でよく出るのでなかなかそういった感覚はうすくなってますね。でも違う国に行くと似たような気持になります。遠くにきたなって」


 店があるから王都を離れて違う街に来るとは思いもしなかった。孤児として生きていた時は冒険者にでもなっていろいろな場所を見てみたいと考えたりしたこともあったが、今となっては店を捨ててまで他の仕事に就きたいとは思いもしない。



「あのハゲにむかつくけど、こうやって他の街を見られたことには感謝かな」 

「もしかしてハゲって宰相ですかー?」


 不真面目そうなマーシャに尋ねられるもロルカは黙秘した。真面目そうなアーキナはこの話題には触れてこなかった。


 せっかく外にきたのならそこのものを楽しむ、そんな割り切りった考えのロルカは素材屋をハシゴしていた。

 ただ、さすがに王都から一日目の範囲なのでこれといって珍しいものはなかったが王都とは異なる点に気づく。


「王都と品質は変わらなくても安いものが多い。なんでだろ?」

「ロルカ殿、それは単純です。近くで量が取れれば安くなるものです」

「需要と供給ってやつですよー」


 なるほど。確かに言われてみればそうかと納得する。王都周辺は魔物の間引きが定期的にされているし、強い魔物が現れることはほとんどいない。

 それに街それぞれに冒険者組合はあるし、王都から離れれば離れる程に潤沢に素材があるということ、逆もしかりで治安も悪くなっていく。王都は物価が高いという事実に驚いたロルカだった。


 陽は傾き暗くなってきたところ、街灯に光が灯り始める。王都と違い暗くなると余計に違う街だと認識できる。王都は街灯も多く住宅が密集しているため夜でも明るい。

 だけど、ここでは少し路地に入るだけで星が見えるほど暗い。


「あんまり暗いところには近づかないようにしてほしいです」


 ロルカが珍しさにフラフラしていると後ろから注意が飛ぶ。浮かれていた自覚があったロルカは気をつけようと思った。


「そういえばお二人は食事はどうするのですか?」


 ふと気になり護衛してくれている二人に尋ねる。


「われわれの事は気にせずに大丈夫です」

「私たち仕事中なんで」


 真面目だなぁと内心思うも、護衛任務にいい加減な人をそもそもつけないかと一人納得する。


「あんまり付き合わせてもなんですし宿に戻りますか」


 恐らくロルカがまだいろいろな店を物色しても何も二人は言わないだろう。現に素材屋を巡っているときも口を挟まなかったし。早く休ませてあげようと思った。


 宿につくと晩御飯を部屋までお願いでないかと聞くと大丈夫とのことだった。晩御飯を食べて少しゆっくりしてからお風呂に入りに行こうと軽く予定を立てる。


 寝てる時間が長かったロルカはあまり疲れていなかった。かばんに入れて持ってきた魔道具の作製道具を取り出しいろいろ弄りながら過ごしていた。


 そろそろ風呂に入るかと思った時に衝撃を受ける。


「風呂、どこ?」


 旅をしたことのないロルカにとって風呂はあって当たり前だった。ところが部屋を見回しても風呂どころかシャワーすらない。


 仕方無しに宿の従業員へ聞くべく部屋を後にする。


「お風呂なんて貴族様じゃありませんしないですよ」


 何いってんだこいつ、と言わんばかりの態度の従業員だった。風呂はなくて当たり前、そんな事実をこの歳まで知らなかったなんて世間知らずなのかもと軽くショックを受ける。


 部屋に戻る途中隣の部屋をノックする。


「どなたですか?」

「ロルカです。お風呂に行きたくて」

「わかりました。すぐにいきましょう」

「待ってたよー」


 準備万端の状態の二人が出てきてロルカは驚いた。



「いつお風呂に行くか心配だったんですよー」

「申し訳ないです、お風呂が普通ないなんて知らなくて」

「家にお風呂がある方が珍しいですからね、貴族ならともかく」


 ロルカの側を離れることができない護衛の二人は今か今かと待っていたそうだ。えらい遅いね、もう寝たのかなと二人で会話していたという。


「まさかお風呂があるもんだと油断していただけなんて」

「師の残してくれた店には普通にお風呂があったので」

「そちらの方が珍しいですからね」


 多くの人は大衆浴場で汗を流す。大衆浴場の注意点をレクチャーしてもらって落ち着きなく何度も周りを見渡していたが問題なく入ることができた。



「家で入るのとはまた違った感じ」

「すっごくさっぱりー」


 他人の裸なんて全く見たことのないロルカにとって裸で入る事に抵抗はあったものの、やはり風呂はいいものだと結論付けた。特に印象深かったのは獣人の付け根。


「そういったマナーを教えてもらって助かりました」


 尻尾の付け根や耳の生え際など注視するのはマナー違反らしい。事前に言われなかったらきっと注視していただろ。


「同じ兵士にも数人いるのですが、じろじろ見られるのは気分が悪くなると言っていましたよ」


 獣人は耳や尻尾に獣のような特徴をもつ種族だ。ほとんど人と変わりないが、迫害を受けていた過去があり露骨な目線を嫌がる獣人は多いそうだ。


「そういった事がしれただけでもいい経験になりました」


 遅くなったがお風呂に入ってさっぱりし、明日へと備える。

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