第9話 第二章 2
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紙くずが、困った行動をとるようになった。
「散歩に行って来るから、留守番頼むぞ」、塚本が、そんな言葉をかけて出て行こうとすると、玄関の上がり口まで転がって来るようになったのである。買い物に行く時にはそうしない。散歩の時だけそうするようになったのである。
見送りをしてくれているのか、そう考えると嬉しい気持ちになったが、紙くずには、リビングを家にして欲しかった。塚本は、そっと掬(すく)いあげ、いつもいる、場所に置いて、両掌を前に伸ばした。
「お留守番、頼むな」
と。
紙くずは、塚本の言うことを聞いてくれ、追いかけることはしなかった。
塚本は、念のため、ベッドルームに通じる唐紙を閉めて散歩に出掛けた。
塚本が希望した紙くずのリビングでのお留守番は、二日しかもたなかった。
三日目には、あがり口にとどまらず、下のタタキに落ちたのだった。
明らかに、一緒に散歩に行きたいという意思表示である、と塚本は思った。だが、紙くずを連れて散歩に行くわけにはいかない。
紙くずジイサンと奇異な目で見られるのも嫌なことである。公園までは舗装された道だが、汚れるのは確実である。長い距離を転がっても破れることがないまでに変質出来るのか。見た目だけで言うならば、公園に着くまでにボロボロになってしまいそうである。
塚本は、タタキに落ちた紙くずを両手で掬い上げると、指定席の部屋の隅まで運んで「待て」と両掌を広げて前に突き出した。前の二日のようにうまく言うことを聞いてくれなかった。
塚本の後を追いかけ、また、タタキに落ちるのだった。
「頼むから言うことを聞いてくれ」
塚本は、玄関とリビングを再び往復することになった。さらに、もう一度。
散歩に出掛ける前の玄関とリビングの三度の往復、数日間に渡って、これが繰り返された。
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