何があろうともやることは変わらない。


「まず、既に魔物による脅威は去った」


 問題なく魔物を倒し切った僕が次に警戒しなければならないのこの後、こちらへと侵攻する手筈となっていた隣国の動向である。

 ここで何もなければよいし、魔物によって敵をぐちゃぐちゃにするという目論見がご破算になった以上、動くかはわからないが……それでも警戒をしておくに越したことはないだろう。


「ゆえに、もう最初の峠は去った。ひとまずは安心してくれていい」


 僕は一度は退却させ、再び砦へと戻ってこさせた面々。

 その中でも位の高い者たちへと今度の策略を共有していた。


「この短時間で……流石はノア様にございます。我々を鼓舞し、誰よりも前に立って勇敢に戦っておられた指揮官殿もこれで浮かべるでしょう」


「……ッ、そ、そうか……あぁ、爺やは素晴らしい御仁だったよ」


 こんなところで死なせてはいけない人物だった。


「……話は、戻すけどっ。僕たちが警戒しないのは隣国の動向だ。抗魔結界などは確実に隣国が張ったものだろう。既に相手はこちらへの侵攻準備が出来ると思っていいと思う。魔物を相手にした後で、大変だとは思うけど……今度は人相手に戦ってもらうことになる。難しいだろうけど、任せたい」


「もちろんにございます」


「周りにいる予備兵たちにも砦の方に集まるように命令を出しているから、人は更に増えるし、物資も増える。しっかりと敵は跳ね返してほしい……だけど、全滅に追い込まれるまでは耐える必要ない。相手の規模によっては一度引き、態勢を立て直してからの反転攻勢に出ても良い。柔軟にね」


「ハッ」


「……それと、爺やの遺体は丁重に扱うように。エスカルチャ家へと誰か運んでくれ」


「ハッ」


 僕の命令へと爺やの残した部下たちは確固たる信頼の元で頷き、こちらの指示に従ってくれる。

 あぁ……、爺や。


「ふぅー」


 思考がくだらない方へと向いてしまった僕は一度、息を吐く。

 今さら、僕に過去を見る余裕などないだろうに。


「それじゃあ、僕はひとまず王都の方に戻るよ」


 この後、王都の方でもまだ一波乱ある。

 というより、辺境のここはゲームの本筋ではない。ここが地獄と化している中で、主人公は王都の方で地獄を見ていたのだ。

 王都の方でももう敵が動いていることはわかっている。


「了解いたしました。こちらの方はお任せください」


「あぁ……爺やの残した君たちの一人一人を僕は信頼している。健闘を信じている」


 僕はその場から飛び上がり、ずいぶんと少なくなってしまった魔力を用いて空を突き進んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る