第414話

「…ああ、誰だ。俺と姉上の実名を言える奴は?」


「可笑しいのう、我らの実名は限られた者以外知らぬし、知っていても本来なら恐れおおくて口にもできん筈じゃが…?」


レイちゃんの言う言葉に反応し、周りを見渡す二人。そして…俺の隣にいたレイちゃんを見つけ、信じられない様な表情をした。


「はぁ!?嘘だろ、アンタ…レイさんか!?」


「…有り得ぬ、お主、本当にレイか?なら何故レイが生きておる、お主は国を枕に自国と心中したのではないのか!?」


そう言うと二人は走ってこちらに近づいてきて、レイちゃんは俺から離れてから前に出ると兵士達に赤ん坊を預かる様に命令をする。

そして向かってくる男性から兵士達が赤ん坊を預かっている隙に女性の方がレイちゃんを抱きしめた。


「温かい…生きておる、生きておるな…生きて…生き残ってくれていたのか…あの大災害から、よく生き残ってくれた…お主の『幼馴染』として嬉しいぞレイよ!」


「はい、生きています。兄様が城下町で死に、お父様が最後の作戦を決行する前に私とシロエとクロエを含めた54人をシモン兄さんの遺品で眠らせ、私達3人の王族を獣人の未来を託したんです。今は散り散りになった残りの同胞達を探しつつ獣人の繁栄に尽力している所ですね」


抱きついて涙を流す彼女の背中をレイちゃんがそう言いながら優しく撫でる。


「そうか…そうか…カムイ殿はキチンと獣人の未来の為に手をうってから国の為に戦いなさったのだな…カムイ殿の事は非常に残念だが、お主や妹君達が無事で良かった、本当に良かった…!」


「すまねぇ姉上にレイさん、赤ん坊預けてたから遅くなっちまった!今はどういう状況だ!?何故姉上が泣いているんだ!?!?」


「ふふふ、相変わらずのお熱い性格で安心しますよ豪鬼様。大丈夫です、もう一度説明いたしますから」


そんな二人に赤ん坊を預けた男性が近づき、レイちゃんの話を聞くと…その場で両手を上げて叫んだ。


「流石はカムイ殿。その生き様、正に真の武士にして国を背負うべき総大将!この豪鬼、貴方様の名は決して忘れぬ…決して!!」


その叫び声と共に涙を流す男性、そしてレイちゃんに抱きついていた彼女もまた涙を流していた。

そんな中、レイちゃんは笑顔を崩さずに彼女の頭を撫でていて、本当にあの場に踏み込める雰囲気では無かった。そんな無粋で無神経な奴はこの場には…


「ほら、メンソール配合のボディーシートあげるから顔を拭きなさいな…って、あらやだ。間近で見たら更にすごいわこの筋肉、コレならコシだけで顎を砕けるうどんが作れるんじゃないかしら?」


「ミリアさん!?」


しまった、この場には面白さ最優先のミリアさんがいた。いつのまにか近づいたミリアさんは泣きまくる男性に某会社のボディーシートを差し出しながら甚平からでも分かる左胸の胸筋を笑顔で指で突っついている。

そんなミリアさんを男性は目線を下にして見る。


「…」


「…あら、どうしたの筋肉魔人さん?」


するとどうだ、男性は一気に泣き止み、ミリアさんをガン見しだす、その様子にミリアさんは首を傾げレイちゃんと女性は異変に気づいて離れてミリアさん達二人を見始めた。そして俺達もまた何が起きたのか分からずにその様子を見ていて、遂に男性が動きミリアさんの左手を両手で優しくを握る。














「一目惚れしました、運命を感じたので是非俺と結婚してください」


「あらやだ大胆♪」


「「「…は?」」」


おい、何が起きた?…ミリアさんがいきなり告白された…告白された?…告白された!?


「ダンジョンで宝をを持ち帰れと所望するなら数十日あれば単騎でダンジョンを制覇できる実績もあります、ドラゴンや巨大な猿のモンスターなどの最下層のモンスターを殴り倒して持ち帰れと所望されたならばいくらでも屍を積み上げて山にしてでも貴方が満足するまで献上しましょう。

俺は貴方の望む物やお願いならこの身で全て叶える自信しかありません、ですので是非俺の嫁として嫁いではくれませんか?」


「あら、コレは…もしかしてガチの告白?」


「いや、普通にガチの告白だから!?」


待て待て待て!コレ普通にガチの告白じゃないか!?あの面白さ優先のおふざけを体現した存在であるミリアさんに一目惚れからの即座に告白だって?正気なのかあの人は!?


「愚弟よ、流石に時と場合を…


「皆さん、注目して下さい!」


…おや、また知らぬ人が来たの」


そんな超カオスな状況で女性の声を遮る様に叫んで現れたのはばっちりとスーツを着た渡辺さんだった。


「只今の時刻は19時に近いですので、この場での話はご好意により今日と明日は桐城邸をお借りできる様に話はついています、ですのでそこで話しましょう!」


「おやおや、中々話が早い御仁であったか…だそうだ愚弟、いい加減にその方の手を離さぬか。移動ができぬではないか」


「いっつ!?」


渡辺さんはそう言うと帰還用ポータルのある場所を指差した。どうやら外では送迎の準備ができていて、俺達を呼びに来てくれたらしい。

それを聞いた女性は慣れた手つきで男性の尻に向けて正拳突きを放つと男性は痛がりながらミリアさんの手を離して女性の方を振り向いた。


「姉上、流石に酷いぞ!?俺の一世一代の告白を邪魔するとは!!」


「だまれ愚弟、そもそも自己紹介がまだではないか。それなのに一方的に愛の告白などとは片腹痛いわ」


痛がる男性の叫びを他所に女性はそう言って呆れつつミリアさんの方を向いた。


「すまぬな、この愚弟は実力は本物じゃが頭が筋肉に汚染されておっての。考え方が基本的に『単身突撃からの当たって砕けろ』なんじゃよ」


「何それ最高に面白いわね」


ミリアさんに彼女はそう言い、頭を下げる。ミリアさんはミリアさんで的外れな事を言うが次の彼女の言葉に固まってしまった。


「改めて自己紹介をさせてもらおう。

妾の名は『月鬼』、真の名は『皐鬼 月詠』。『鬼ヶ列島連合国 日本』を統べる一二鬼月家、京都から霊山富士までを統治する皐鬼家の長女じゃ。これからもよしなに」


「イツツ…ああ、姉上が自己紹介をしたなら俺もしないとな。

俺の名は『紫鬼』、真の名は『皐鬼 豪鬼』。同じく皐鬼家の次男で次期当初筆頭だ。故に家柄もいいので是非結婚して下さいお嬢さん」

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