第26話
食事が終わると、ガイトとオリエールの見送りを受けて、リントたち四人は学園へ向かうことになった。
以前診察したクローバーキャトルの様子を見に行くためである。
飼育小屋の前に辿り着くと、前と同じようにリリノールが小屋の鍵をもらいに行ってくれた。
しばらく待っていると、以前にも会ったマリネ教員と一緒にリリノールが帰ってきた。
「ようこそ~、おいでくださいました~」
深々と頭を下げられて、こちらもついそれに倣ってしまう。
それにしてもこの穏やかな顔立ちと間延びした喋り方。ここで会う前にどこか別のところで会っていたような気もするが思い出せない。
記憶の片隅に引っかかってモヤモヤしながら彼女をジ~ッと見ていると、突然彼女がサッと目を俯かせて頬を紅潮させてしまう。
「そんなに見られると照れちゃいますよ~」
「! あ、ああすみません!」
「先生? 女性の顔をジッと見つめるのは頂けないのであります!」
「わ、悪かったってば!」
グイッと腕を引っ張られて、強制的にマリネから距離を取らされた。
(まあ、思い出せねえなら別にいっか)
そう思い、小屋の扉を開けてもらうように頼んだ。
中を確認してみると、ちゃんと換気もしているようで、熱気がこもっているといった様子はない。
寝床の藁もしっかり変えてくれているようで汚れ切っていることもなさそうだ。
問題のご飯に関しても、乾草だけでなく、そこにトウモロコシや大豆などを混ぜた配合飼料を食事にしてくれている。
〝――あ、先生!〟
頭の中に直接響いてきた声。
意識を向けると、以前具合の悪かったクローバーキャトルだった。
〝また来てくれたんだね、嬉しいよ!〟
「やあ、見たところ元気そうだけど、問題ない?」
リントは近づいてコミュニケーションを図る。
〝うん。あれから変なものも食べさせられてもいないよ〟
「元気そうで良かった」
〝今日はどうしたの?〟
「今日はちょっと様子を見に来ただけ。一応身体を見させてもらってもいいかな?」
〝いいよー〟
了承をもらうと、クローバーキャトルがいる柵の中へと入っていく。
触診させてもらって、身体に異常がないか確かめる。
「…………うん。健康状態良好。問題ないな」
「良かったです~。他の子も診てくれますか~?」
「はい。そのつもりですから」
そうしてすべてのクローバーキャトルに触診して、問題を抱えている子がいないことを知ってホッと息を吐いた。これなら今後も問題なく過ごしているだろう。
これで学園での用事が済んだ、と思いきや、
「あの~、少しお願いごとがあるのですが~」
マリネが若干眉を寄せつつ近づいてきた。
「お願いごと……ですか?」
「はい。実は最近〝ギルド〟の方たちによってモンスターが討伐されたのです~」
「っ……討伐?」
スッと反射的に目を細めてしまう。こんな世界だから、討伐されるモンスターなど珍しくはないが、職業柄かやはり良い気分ではない。
「そうです~。モンスターの種類は――エレファントライナー」
「「!?」」
大げさにハッとなったのはランテとリリノールである。
何故なら先日にも彼女たちは、そのモンスターに襲われたのだから反応してしまうのも無理はない。
彼女たちの反応を見たあと、マリネが微かに顎を引いて言う。
「ランテさんたちも無関係ではないですよ~」
「「……え?」」
「その討伐されたエレファントライナーは、【アルトーゴの森】にいたモンスターですから~」
彼女たちを襲ったエレファントライナーこそ、その森に棲んでいたモンスターだ。
「ちょ……ほ、本当なんですか? 討伐……〝ギルド〟にですか?」
ランテが目を大きく見開きながら問うと、マリネはコクンと頷いて続ける。
「エレファントライナーが森で見境なく暴れてしまい、他のモンスターたちが逃げ出した結果、近くの集落を逃げ出したモンスターたちが襲うという被害があったため、これ以上被害を広げないためにもと、〝ギルド〟から討伐依頼が出されたようなのです~」
あの森に元々住んでいたのはBランク以下のモンスターだ。そこへ突如、凶暴なAランクモンスターであるエレファントライナーが現れた。
リントも、それで生態系が変わるかもしれないと思っていたが、まさか見境なく暴れ回っているとは思いもしなかった。
(けど……暴れた? 見境なく?)
少し引っかかるが、環境が変わればいきなり暴れるモンスターもいるので稀なことではない。
「で、でも暴れていたエレファントライナーは討伐されて問題が解決したんですよね?」
しかしランテの問いにマリネが首を左右に振った。
「実はそのエレファントライナーは身ごもっていたらしく、森のある場所で卵を産んでいたのです~」
エレファントライナーは像のような生物ではあるが、哺乳類のように出産するのではなく、鳥類のように卵を産んで子を成すのである。
「……無精卵なのでは?」
今まで黙っていたニュウが、疑問を投げかける。リントも問いかけようとしていた質問だったため手間が省けた。
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