『🌳黒木青葉と秘密の夢🌳🐀💤』虹恋🌈シリーズ【短編】
虹うた🌈
第一話 秘密の夢
恋……?
その不安な気持ちを、
……そんな資格、私には無いじゃないですか?
その理由を、私は知っているじゃないですか?
ガタンガタンと走り抜ける地下鉄に乗りながら、黒木青葉は向かいの席に座る彼にチラリと視線を向ける。今は部活動中で、ある依頼を受けて二人で行動を共にしているところだ。
「………黒木先輩。珈琲、飲みますか?」
突然話し掛けられて驚いたが、青葉は彼から差し出された缶珈琲を受け取った。
「今日は少し肌寒いです。あったまりますよ?珈琲は淹れ立てが一番美味しいんですけど、その缶珈琲だけは、俺好きなんですよね。ブラックですけど良かったらどうぞ」
……ありがとう。小さく礼を言って、受け取った缶珈琲は温かかった。
「何で私が、珈琲好きなの知っているんですか?」
「昨日、家にお邪魔した時、先輩だけ珈琲だったから好きなのかなって思っただけです。珈琲好きなら良かったです」
青葉は蓋をゆっくり回し、少し香りを楽しんでから一口、口に含んだ。
「好きです。缶珈琲なら、この銘柄が一番好き」
「そうですか、良かったです」
そう言ってぎこちない微笑みを浮かべた彼と知り合ったのは、たった三日前だ。
――― 三日前 ―――
「行ってまいります」
「
「気持ちいいわね、空があんなに遠くて青い……」
姉は気持ち良さそうにお日様の光を浴び、
青葉は、長く伸びた夜色の髪を揺らしながら空を仰いだ。確かに姉の言う通り今日の空は青く澄んで、5月だというのに初夏の様にどこまでも高く澄み渡っていた。
眩しさに眼を細めると、青葉は小さく溜息をついた。明るい場所は、あまり得意ではないのだ。
寺を出て角を曲がると、直ぐに
「おっはよ~!
そして、もう一人……
車椅子に座りながら、この天気よりも輝いた笑顔で二人を迎えてくれた人がいる。
同じ明るさでも、青葉はこの人の笑顔は大好きだった。今日も一日が始まったんだなって改めて思える、生きている事を実感出来る笑顔。
私の名前は、
……どうぞ、よろしくお願いします。
隣で優しく髪を揺らしながら、鳶色の瞳を輝かせているのが一つ年上の紅葉姉さん。そしてこの笑顔が素敵な人は、私たちの親友の
実は、私には秘密があるんです。
それは……ね。
「………………」
「どうしたの、青葉?」
二人が挨拶を交わしている横で、私の視線はいずみちゃんの背後で止まりました。
「……姉さん、いずみちゃん。先に行っていて下さい。私は、ちょっと忘れ物してしまいました」
「……え? 青葉ちゃん、とってきなよ。私たち待ってるよ?」
いずみちゃんが、ポカンとした顔で私を見ています。
「……いずみちゃん、先に行ってましょう。青葉、私たちゆっくり駅に向かっているから、あなたも用事が済んだら追い付いて来てね」
「………はい」
姉さんが察して、いずみちゃんの車椅子の背中を押しながら歩き始めます。
「ちょっ、ちょっと!紅葉ちゃん! あ、青葉ちゃん!先に行ってるけど、直ぐ追い付いて来てね!待ってるからね!」
いずみちゃんがこちらを振り返りながら、私に声を掛けてくれました。本当は嬉しくって、笑顔っていう顔を返したかったけど上手く出来なかった。
「………………」
二人の姿が見えなくなるのを待って、私は掴んでいた腕を離しました。
「な、なんだ!? さっきから何なんだ!?あ、あんた俺のことが視えるのか?」
「……ええ。視えますし、聴こえてますよ。それに掴む事も出来ます。あなたは何で、いずみちゃんにくっついてるんですか?」
「い、いや、何でって別に…… 可愛いから、つい…… ひっ!」
中年の男の人の姿をした幽霊は、私の顔を見て酷く怯えた顔をしました。
「今、直ぐに離れて下さい。さもないと、 ……消しますよ?」
それは……ね。
その秘密はね。私には普通に幽霊が視えて、話せて、触ることが出来んです。
でも、もうひとつ……ね。
私には家族も知らない、もう一つの秘密があるんですよ。
何で今日は、こんなに沢山いるんだろう?
人間も幽霊も……
授業中、席に座りながら青葉は眠くて仕方が無かった。
今だって教室の中には席に座っている人達が30人くらいと、ウロウロしている幽霊たちが50人くらい居た。黒板なんて見えやしなかったし、先生の話なんて
色々な霊臭が雑じっていて臭いし、口の中が変な味がして気持ちが悪い。
こういう時は睡魔が襲って来る。意識をシャットダウンしろと脳が警告してきているんだろう。授業中に眠り込むのは一生懸命に教えてくれている先生に申し訳ないけど、ちょっと我慢出来そうにない。
―――――――――――――――――――――
気が付くと、青葉は眠りに落ちていた。
夢の中で視る風景は、いつもの風景だった。
そして……
いつもの人達……
―――――――――――――――――――――
長く暗い階段を上っていくと、アーチ形をした扉が見えてきた。
外に繋がる出口だ。
石段を上りきって扉を開けると、眩しさで一瞬目を開けていられなくなった。
眩しさに目が慣れてくると、そこに広がっているのは青々とした草原の様な広場と風に揺れる野花たち…… そして、世界樹の大きな樹影。
天空庭園……… カエルムだ。
この庭園は天に向かってそびえ立つ巨大な塔の頂上にあり、世界中の植物が生存する世界一の植物園だ。
強固な建造物としての作りと、強力な守護の魔法がかかったこの塔は、建造から千年以上経つというのに、いまだ古寂びた様子もなく神々しくそこに立っている。
今、男が立っているこの塔はシルウァ王国の中心にそびえ立ち、足元に広がる首都アルボル・ウルプスには約八百万人の国民が営みを行っている。この塔は王国の王城としての役割と、有事の際の国民の食糧の貯蔵庫や避難場所としての役割も担っているのだ。
「……どうしたシアン?あの方に逢えるのが、そんなに嬉しいのか?」
男は肩の上で忙しなく動き回る小さな生き物に声を掛けた。男の肩には小さな鼠が一匹、嬉しそうに走り回っている。
その姿を愛おし気に見つめてから、男は空に視線を移した。その視線には、不安の色が見受けられる。
最近、世界樹の樹勢があまりよくない。……元気が、無いのだ。
塔の天辺に、この木が植えられてから約千年が経つという。世界に数本しかない世界樹の中でもっとも古く、この国のシンボルでもある大きな木だ。
庭園には強力なシールドが張られていて、出入り出来るのは許された一部の人だけだし、気温や湿度が調節され世界樹が育つのに適した環境が保たれている筈だ。だがここ十年の間に、この木は段々と弱ってきている。
そんな不安な気持ちで、男がその大きな木を見つめていた時のこと……
ホーホー……
上空をゆっくりと旋回する鳥影が段々と近付いて来て、目の前の草原に着地した梟。その体長10メートルはあろうかという梟の背中には、一人の男の子が乗っている。色白の肌に薔薇色のほっぺ、輝く金髪が眩しい男の子だ。
「相変わらず早いね。今日は僕が一番だと思ったんだけど……」
もふもふの羽毛に体を半分埋めながら、男の子は青色の瞳をキラキラさせて、太陽みたいな笑顔を見せる。
「おはよう、レイ」
男はそう挨拶をすると肩の上の小さな生き物を優しく手の平に収め、胸ポケットに入れた。以前からこの小さな友人が、目の前の大きな梟のことを怖がっているのを知っていたからだ。
天空の庭と呼ばれるこの庭園に出入り出来るのは、たった四人だけ。
その四人の内の一人、この輝く金髪と青色の瞳が美しい男の子はレイ・ジョンブリアンという。でも男の幼馴染で親友でもある彼に、男の子と言うのはちょっと違っていた。
こう見えて彼は、れっきとした大人の男性だ。それどころか、今はこの国の経済と外交を取り仕切っている人物でもある。
彼がこの要職についてから、この国の経済は飛躍的に伸び安定した。ほとんど貿易を行っていなかったこの国を、世界貿易の要所にまで押し上げたのだ。
商人をしながら世界中を旅した、冒険者レイ・ジョンブリアンの物語を知らない人は、この世界にはいない。彼が世界中を旅して培った経験と人脈、そして何より人間性が多くの人達を惹きつける。そしてその中には、世界中の王族や大商人達も含まれているのだ。
「おはようソレイユ。シアン……怖かったかい?この梟は君を食べたりしないから大丈夫だよ」
梟から軽々と飛び降りたレイは、軽やかな足取りで駆け寄って来るとお日様みたいに優しく微笑んだ。
「でもレイ。一番早くこの庭に来たのは私じゃないよ。ほらそこに…… 兄さん、おはようございます」
草陰で私達の様子を伺っていたのは、一匹の黒猫だ。お行儀よく横になりながら、眠そうに目を細めている。
「……なんだ、知っていたなら早く声を掛けてよ。眠くなっちゃったじゃない」
黒猫はそう言ってから眠そうに起き上がり、ゆっくりと私達に歩み寄ってきた。そして近付くにつれて影の様に形を変え、いつの間にか男性の姿になっている。
「ふふっ、おはよう。レイ、ソレイユ。それにシアンも…… 皆、遅かったね」
彼は
二人目はこの男性、大魔法使いスカーレット・アルシャーク。ソレイユの実の兄でもある。
他に類を見ない強大な魔力と、宇宙のすべての情報が保管されているという宇宙図書館、アカシックレコードと繋がっているとも言われている膨大な知識を持って、全世界の魔法使いの頂点に君臨しているのが彼だ。
軍師としての功績も伝説級で、たった千人の兵士を引いて十万人の大兵団を降伏させた「無血の勝利」と呼ばれる闘いは、今も語り継がれている。
今はこの国の
この二人は、正に生きる伝説だ。世界中に、その名を轟かせている二人なのだ。
そして三人目は、このソレイユ・アルシャーク。
世界最高の大魔法使いスカーレット・アルシャークの弟で、伝説の冒険者レイ・ジョンブリアンの幼馴染。
常勝の大将軍とか蒼色のパラディンなどど国民からは持てはやされているが、二人の活躍に比べればどうと言う事も無いと自分では思っている。
私達は幼い頃から一緒に野原を駆け回った仲で、今の三人は、この国の
そんな私達が天空の庭を他愛無い会話をしながらゆっくりと進んでいくと、大きな屋根付きの白いパーゴラが目に入ってきた。
そこにはいつものお気に入り席に座りながら、こちらを優し気な眼差しで見つめている一人の女性が座っておられた。
「おはよう、みんな。相変わらず仲良しね。……私も、混ぜてよ」
そして四人目、最後のお一人が……
私達の唯一無二の主にして、この国の女王。ハルス47世女王陛下だ。
☆☆☆ 関連する作品のご紹介 ☆☆☆
この物語に関連する小説をご紹介させて下さい。
・「虹恋、オカルテット」
作品へのリンク:https://kakuyomu.jp/works/16817330668484486685
🌼あらすじ🌼
如月ユウ、金森いずみ、黒木紅葉、黒木青葉の四人が奏でる青春ラブストーリー。
交通事故で記憶を失ってしまった高校二年生の如月ユウは、真っ白な青春を過ごしていた。
しかしそんな日々の中で、ユウはある車椅子の少女と出逢う。そしてその少女…金森いずみの紹介で知り合ったのが、「城西の魔女」こと黒木紅葉と、その妹「氷雪の女神」こと黒木青葉だった。
記憶を取り戻す為に魔女と女神の所属するオカルト研究部に入部することにしたユウだったが、彼を待ち受けていたのは想像もしていなかったオカルトすぎる恋と青春の日々だった。
この物語は、2024年6月2日現在も連載中なのです(*^^)v
只今、第65話を公開中💕
毎週木曜日と日曜日のAM:6時30分に更新していますので、ぜひ立ち寄ってみてくださいね!(^_-)-☆
・「初恋」
作品へのリンク:https://kakuyomu.jp/works/16817330668508282055
🌼あらすじ🌼
高校二年生の金森いずみには、最近ずっと気にかかっている人がいる。それはクラスメイトの如月ユウだ。彼に話しかけたくてもそれが出来ず、悶々とした日々を過ごしていたいずみだが、ある日学校の近くのバス停で偶然彼の姿を見かけたのだった。
その時いずみは、彼に話し掛けようと決意をする。
この一話完結の短編小説は、只今連載中の「虹恋、オカルテット」のサイドストーリーです。初めての恋に戸惑う、一人の女の子の心の内を綴った物語なのです。
☆ 他の作品も、どうぞ宜しくお願い致します(*- -)ペコリ ☆
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