断章その11:いつかはあなたの意思で

 死者が出なかったのは、奇跡だと言われた。

 私もそう思うし、一方で仕組まれてるようにも思えてしまう。

 誰が?

 きっと色んな誰かが、それぞれのやりたい事をやって、だからこの結末に来れた。

 私はそう思っている。

 

 兎に角、重要なのはススム君の事だ。

 彼が戦ったモンスターの特徴と、回収しておいたコアの純度から、どうやら一人でZ型を倒したらしい。

 流石ススム君だ。本当に誇りに思う。

 彼の偉業を証明する戦利品として、コアも捨て置かず拾っておいた、そんな私にも「GJグッジョブ」と言いたい。



 だけどどんなに強くなっても、

 私から逃げられるなんて、もう思わない事だ。


 

 私の深化については、他の誰にも明かさず隠蔽した。

 ガバカメも意図的に破壊して、記録の一切を残さなかった。

 今回が異常事態だった事と、日頃の優等生的行いが幸いして、全く疑われずに乗り切れた。


 これは私が、ススム君の為に残した奥の手であり、切り札。

 簡単に周知されてはいけない。

 敵にとっての予想外は、出来るだけ多い方が良い。

 私を舐めてくれるなら、全然望む所。

 

 ススム君が奪われる可能性を、少しでも下げる。

 それが何よりも優先される。

 彼が居ないと、私の夢が叶わない。

 私の幸せに届かない。

 死神にだって、譲る気は無い。


 ススム君と直に会って、青春を共有して、友達として隣に立って、

 それでも彼は、私にとって“モノ”のままだった。

 私の幸せ、それを叶える為の鍵。

 嗜好品的コンテンツ。

 彼を私の物にしたい、取り込んで一つになりたい。

 そんな本心から、本質から、もう目を逸らせない。




 ううん、逸らさない。




 帰りの新幹線の中で、ススム君が信じられない事を言った。

 手足が無くなってもディーパーは続けられるって、今回の負傷を軽々しく考えているみたいだった。


 自分のからだを大事にしない悪い子には、少しお灸を据えてあげないと、ね?

 

 私は両手で、彼の左手を閉じ込める。


 慌ててる慌ててる。

 じめったく分泌される汗と、腕越しに左胸から伝わる鼓動の速さ。

 それが彼の余裕の無さを示している。

 良かった。

 こんな初歩も初歩な色仕掛けでも、このひとにはまだ通じるみたい。

 いつまでも純心ピュアな彼の痴態を、隅々まで目で犯す。

 瞳孔がふるふると小刻みに怯えているのを見て、こっちの中枢神経系がやられそうになる。


 ふと、

 右の蝶形骨ちょうけいこつ辺りに、日射しの温かさを感じる。

 その源に目を向けると、背凭れの上に腕を乗せ、頭を寝かせている彼女。


 私の行動にどう思ってるのか。

 余裕があるのか。

 どうでもいいのか。

 本心はどこからも漏れ聞こえない。


 だけど、何でもいい。

 今は私が仕掛ける番だ。

 うかうかしてるなら、そうさせる。

 泥棒猫でも女狐でも、罵られたってもう知らない。


 私の視線を利用して、ススム君が逃れようとしたのを、直感が目敏く捉えてくれた。

 両手で頭の向きを固定して、スレスレまで急接近して、

 私以外の全部、意識から締め出させる。


 籠った媚熱びねつが指を融かして、蝋のように彼と癒着させる。

 

 顔と顔までくっつきそうで、けれど決してくっつかない。


 半端な気持ちで私の唇を奪うような、そんな人じゃない。

 だから今もあと少しで、事故を装って事に及べてしまうのに、踏み止まっている。

 

 まだ彼は、この薄布一枚を超えてはくれない。

 だけどいつか、彼の意志で超えさせて見せる。

 

 絶対に彼から口を付けさせる。


 世界一の魔性じゃなくて、私を選ばせてやる。


 出来るわけないって?


 だめだめ♪それは禁句。


 物は試し。


 それが私、


 詠訵三四だから。

























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日頃の御愛読、星やいいね、ご感想等の反応ありがとうございます。

拙作に頂いた、皆様のお手間を惜しまぬ応援には、日々頭が上がらない思いです。


さて、常であれば作品世界の余韻を壊してまで、このような形で文章を残す事は避けるべきなのですが、(このまま予定通りに行けば)全体の折り返し辺りとなる点を通過したというキリの良いタイミングな事もあり、前々からの懸念点をこの機に確認しておきたいと、不粋を承知で質問させて頂きます。


筆者としましては、この作品の一番のセールスポイントは、「なんか理屈が通ってるっぽく見える熱いバトル描写」にあると思っています。所々に存在する疑問点を、ハッタリと勢いで有耶無耶にして、一見すると納得出来るように作った、“つもり”です。

世界観やキャラクター等は、そのバトル展開をより頷ける物にする為に作っている、と言うと乱暴ですが、優先順位の話をすると、戦闘のカッコ良さが上になるのは確かです。


ただ何事にも言えることですが、客観視というのは難しいものです。

「言うてバトルに納得した事はない」「理屈っぽ過ぎて盛り上がりに欠ける」「他はいいけどこれについては無理があると思う」「それよりもこの部分が魅力的に映った」等、読者諸賢におかれましては、言いたい事が多々山積みだと思われます。


そこで今回、このように急な話にはなりましたが、「ちょっと気になった」「ここは良くない」というご指摘や、逆に「全然納得してる」「ここが盛り上がった」「ここを作品の強みとして押し出すべき」等御座いましたら、一言で大丈夫ですので、改めてここまでを総括したご感想を頂きたく思います。


軽いアンケートであり、これで後々の展開が大きく変わる、この後に本編が滑り散らかした時にそれを読者の皆様の責とする、といった事は決して御座いません。ただ今後、どの角度からの描写に凝るか、その指針にする、くらいのものです。


一言「面白かった」等でも、「じゃあこのままガンガンやっていいか」という判断材料になる為、勝手にはなりますが是非ともお願いしたく思います。ご感想をどのように反映させるのかも、全て私の責任で決定されますので、感じたままを書いて頂ければ問題ありません。

作品の根本を曲げるような事をしないだけのエゴは持っているつもりです。


ちなみに筆者の腹の中で、探られると特に痛む箇所は、「ディーパーの社会的地位が高いか低いかイマイチ分からん!」「流石に明胤生に大人顔負けのヤバイ奴多過ぎだろ」「国際法の縛りがあるのに一部のチャンピオン自由過ぎだろ」、とかです。

「特に書く事ないな…」となったら、この辺りを指摘していただければ。


駄文に長々とお付き合い頂きありがとうございます。

今後とも拙作を追って頂ければ、至上の幸いです。

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