嵐の前には静けさを

閑話. 楽しい里帰り

「よ!じいちゃん!可愛い進が遊びに来たよー!」

「ふん、無駄に元気が有り余っておるな。こんな老いれの顔を見に来て何が楽しいんだか………」


 夏休み期間中、居住区にあるじいちゃんの部屋にお邪魔している。

 寮暮らしとなってから、めっきり会わなくなってしまったけど、俺にとっては家族同然の人だ。折に触れて、訪問しておきたい。


「またまたあ、そう言って、じいちゃんが結構喜んでるの、俺知ってるんだから」

「喜んどるのはお前じゃろうが!」


 そう言いながら、卓袱台とテレビくらいしか目立つ物が無い、シンプルな内装のそこには、ちゃんとスナック菓子やら夕食の材料やらが置かれていた。


「っていうかじいちゃんって、思ったよりジャンキーだよね」

「何の話じゃ」

「いや、こういう時、もっと醤油せんべいとかの、コッテコテのおやつが出て来るんじゃない?じいちゃんの好みって、何か今風じゃん。スマホ普通に使ってるし」

「年寄りを馬鹿にするなよ?若いモンを相手にするなら、それに合わせるくらいは出来る!元社会人をナメるんじゃあない!」

「つまりちゃんと、俺の為に準備してくれてたって事か。ウッキウキじゃあん」

「夕飯抜きにするぞ?」

「ええええ!?ここに来て横暴の極み!?俺それだけを楽しみにじいちゃんに来たまであるのに!」

「人を食事処か何かと勘違いしとるじゃろ!」

「そんな事ないよ。所で水とメニューはまだ出ないの?」

「おいこら!」

「あははは!」


 やっぱり楽しい。

 このノリも懐かしくなってた所だ。

 

「今日は何するの?」

「流石に反射神経は鈍ってきたから、テレビゲームは出来んが……」


 マスクを外し、手を洗って、じいちゃんに預けてた、唯一残った家族写真に挨拶してから床に座ると、台を挟んで向かい側に、箱が幾つか置かれる。

 

「二人で出来るボードゲームを用意した」

「無茶苦茶楽しみにしてんじゃん」


 しかも有名どころだけじゃなくて、最近になって生まれたマイナーなカードゲームまで用意してある。


「これだけあれば、夕食を作り始める時間までは潰せるじゃろ」

「ふーん?俺が全てで瞬殺すれば、そうとは限らないんじゃなーい?」

「ほほう?せいぜいやってみることじゃな」

「どれどれ~………、あ、これ前にTooTubeで見たヤツ!」

「うむ、だから勝ったんじゃ」


 このおじいちゃん、ほんとに適応力が高いな。




「どうじゃススム、友達とか出来たか?」


 悪手を打つたびに、後ろから笑い混じりに、「どういう意図で今の選択を?」、って煽ってくるカンナにイラッとしながら、何戦か勝ったり負けたりして、そろそろいい頃合いだとパスタを茹で始めた辺りで、じいちゃんはそう聞いてきた。


「心配してくれてんじゃん」

「何を生意気な事を。どうせ一人寂しく教室の隅に追い遣られているカワイソーな小僧を、笑ってやろうと言うだけじゃ」

「って言うか、WIREでいつも連絡してるでしょ。友達も出来たって俺言ったよね?」

「強がらなくたって良いんじゃぞ?」

「いや嘘ついてるわけじゃないって!」


 どうしてそんなに俺がボッチになる事を確定事項みたいに……いや確定事項だったわ。ミヨちゃん居ないと割と詰んでたわ。じゃあ仕方ないな。


「大丈夫だって!本当に、良い人達に会えたんだよ」

「うむ、どうやらそのようじゃ」

「はや!?そんなにあっさり納得するなら、文字で言われた時点で信じてよ」

「SNS上ならともかく、面と向かって人を騙せる程、器用な奴じゃあないからな」

「俺が分かり易い奴みたいに……」

「分かり易いじゃろうが!」

「そ、そんな事ないから!この前だって、相手を引っ掛けて、あっと驚かせてたし!」

「ほーう?どんな奴だった?」

「えーと、最近だと——」

 

 プロトさん、は小学生だし、それ騙して自慢するのはちょっとな。

 三都葉先輩、は六本木さんの案で誘導したんだっけ。

 ニークト先輩、にはズル使ったし、後半は狼男状態で正気を失ってた。

 エイティット先生、との試験は他言厳禁で、しかも相手の方が上手うわてだった。


「………あれ?」

「ほれ見ろ」

 

 俺、もしかして、心理戦弱者か?

 なんか珍しい動きしてるから勝ててるだけで、対策されたら対人戦雑魚か?


「い、いや、ディーパーって、モンスターと戦うのがメインだし!嘘吐くの上手くてもあんま意味ないから!」

「はいはい、そうじゃな」


 く、このぉ……。


(((同じ事が、イリーガルの皆さん相手に、言えるでしょうか?)))


 く、このぉ……。




 と、会話しながらもじいちゃんの手は止まらず、

 “クサバスペシャルセット”なる二品が、パパッと完成、並べられた。

 麦茶と一緒に頂きます。


(((そうそう、これですこれ。矢張り、草葉おうのナポリタンが、最も良い味わいを出します)))

(え、そうなの?カンナの事だから、もっと値段が高い料理が好きなんだと思ってたけど)

(((高級コース料理等は、まだ未経験なので判然としませんが、現時点では、これが最上です。恐らく、ススムくん越しに感じる、“思い出補正”です)))


 「実態以上に、美味に感じているのでしょう」、という言い方は失礼だと思う一方、無性に嬉しくなった。

 俺の中で、一番美味しい料理が、他でもないこれだって事が、温かみを持つ真実なのだ。

 

(ありがとな、カンナ)

(((あれ、感謝される筋合いだらけですが、何故今に?)))

(自信が凄い……。いや、何て言うか、俺だけだと、気付けなかったからさ)


 誰かが俺の中を覗いてくれなければ、そういう主観って、分からないものだ。


(((己の想いすら不明瞭。人間の自我とは、掴み所が無いですね)))

(まったくな)


 他人について、自分について、

 これからもっと、知っていこう。


「そう言えばススム、今日は泊まるそうじゃが」

「あ、うん、ごめんね?狭いのに」

「それは構わんが、どこか行くのか?」

「うん、ちょっと遠くに、城社ぎしゃ県まで行こうと思って」

「随分北じゃな。旅行か?」

「それもあるんだけど、会いたい人達が居るんだ」


 最近、色んな人と、正面からぶつかって、様々な気付きを得た。

 ならばあの人達とも、向き合わないといけない、と思ったのだ。


「スリや置き引きに気をつけるんじゃよ?」

「外国行くんじゃないんだから」


 大袈裟なじいちゃんは、

 結局心配してくれている。


「ま、パッと行って、何事もなく帰って来るよ。会ってみたら、時間が解決してくれてるかもしれないし」


 何とかなる。

 有耶無耶にしてた借金を、返しに行くような物だが、

 悪い想像ばかりで行かないより、思い切った方がいいだろう!

 

「戦場でそういう事言うのはフラグじゃぞ?」

「いつからここは戦場になったんだよ」


 ちょっと、

 人が折角決意を固めてたのに。


 こういう良い感じの雰囲気の時は、オチとか要らないからね?

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