147.やっていい事とダメな事がある part2

 彼らの視線を集めた、次なる来訪者は、二人。

 パンチャ・シャンと、星宿三。


「な、なあ…!?」

「お前、今、教師という立場を使って、生徒を黙らせようとしたか?」

「い、いや、それは…!」

「枢衍先生、確かに聞かせて頂きました。貴方の発言は、教師の在り方を揺るがす大問題です」

「ま、待て、今のは別に、生徒を威圧する目的で、言ったわけでは」

「よう先生、俺達おれたちゃ恐ろしくて、夜も眠れねえぜ?」

「センセー、メチャこわたんでしたー」

「シャン先生~、枢衍先生が虐めますぅ~」

「な!?」

「あなた達には誇りとか無いのかしら……」

「うるせえ、今はだあってろ」


 シャンだけなら、教師や政府に、お荷物と認識されている彼だけなら、枢衍は受けて立っただろう。

 だが、


「“理事長室バックランク”にも、、しっかりと報告させて頂きます!」

「ぐ……」


 星宿が居るのが、彼にとっては宜しく無かった。

 正直さ、真っ直ぐさで言えば、この学園の誰よりも、信頼されている人物。

 真実が恩師を不利にする内容でも、彼女は嘘を吐けないだろう。

 

「それと、校内大会での不正についても、お話頂きます!」

「不正…?何の話だ…!」

「惚けないで下さい…!Kキングポジションが、想定されていない人物であれば、会場設備を通じて、合図を送る手筈だったと、実行役の職員から伺っています!」

「な、んだとお…!」

 

 何処から漏れた?彼は口から転がり出しそうだったその言葉を飲み下しながら、相手の戦力を再検討し、


「ルカイオスの、従者…!」


 一人の心当たりに行き着く。


「お、お前、あれに魔法を使わせたな…!?」

「はて、どうだかな?」


 シャンからは引き出せないと考えた彼は、問題の、生徒ですらない部外者を持ち込んだ、“主人”の方を見る。

「お前はこれまでだ!縄につけ!」

 が、その青年は、この場で一番偉そうな、尊大な態度のまま変化無し。


「数々の横暴と職権しょっけん濫用らんよう!言い逃れは出来ませんよ!」

「だよなあ………」

「そうです!……え?なんでシャン先生がそこで落ち込むんですか?」

「いや、言いにくいんだがな?」


 そこでシャンは、出し抜けに枢衍の肩を組み、


「ちょっと俺達、盛り上がり過ぎた、っつーか」

「………は?」


 「こっわ」。

 いつも実直で一部生徒から慕われ、他にはナメられている彼女が、生徒の前では出した事がない、冷ややかな声と表情筋の形。

 それを前に、生徒一同、そう思ってしまった。

 何ならシャンの心の声も、それに混ざっていた。


「何言ってやがるんですか?」

「い、いやー、実はな?お互いの生徒に、『予想外の事もあるぞー』って、そう学ばせる為に、色々と策略を準備しておこうって、そう話し合ったんだ……よなあ?」

「う、うむ?」

「よなあ!」

「あ、ああ、そうだな、そうだそうだ」


 冷えつく空気の中、必死の弁明が続く。


「だけどお互い、流石に仕掛けが混み入り過ぎた、ってか、ちょっとだけ、焚き付け過ぎた、ってか、ちょっとアイディアに凝り過ぎたってか……なあ!?」

「あ、ああ!そうだなその通り!」

「本当はもっとこう、『学びにしていこうぜ』、で終わらせるつもりだったんだけどよお!思ったより大事になって、引くに引けなくなっちまったんだ………よなあ!?」

「そうだそうだ。つまりはそういう事なのだ!」


 いい歳した男二人による茶番劇を前に、

 星宿三は、


「ハア~?」


 と、至極真っ当な感想の後、


「本当にやり過ぎですよ!私の心労を返して下さい!」

 

 「ちょっろ」。

 彼女と気絶した日魅在以外の全員が、心配になる程簡単に言いくるめられた。


「今回は、ちょっとその、俺達教員の判断で、互いに同意の上、魔法攻撃や盤外戦術が行われた、っていう形なんだよ。な?例外として、見逃してくれねえか?」

「はあ……」


 「頭が痛い」、と全身から訴えた後に、


「それでも、朱雀大路君から日魅在君への攻撃や、枢衍先生の先ほどの発言が、問題である事には変わりありません。お二人が生徒同士に、追い詰めるような、過剰な騙し合いを強いた事も含め、そこはキッチリと、報告させて頂きますので!」

「お、おう、それは仕方ない、よなあ!?」

「あ、ああ、そうだな、仕方ないな、うむ」


「おい、そこの馬鹿が、日魅在からった私物も返させろよ?」


「………盗んだんですか?」

「せ、精神的な揺さぶりの一つとしてな。言うまでもなく、終了と同時に返却させるつもりだった」

「………」

「………」

「………」


 緊張の一瞬。


「……分かりました。そういう事でしたら、それについては不問とします」

「た、助かるぜ。なあ?」

「うむ、うむうむうむ」

「大会が終わった後に報告書を提出しますので、その時はお二人に最大限働いて頂きますから!」

「そのつもりだぜ!」

「うむ!大いに!」

「良い返事してもこれ以上の減刑はありませんからね!?」


 「失礼します!」、彼女が出て行って、一分程置いてから、シャンが外を窺って、


「よし、行ったぞ」

 

 それでほぼ全員が、一安心と息を吐いた。

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