ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~
@D-S-L
『ダンジョン配信~現代のパンとサーカス~』から抜粋
(前略)
このようにコロッセオとは、傾いた帝政ローマ財政における、再建への切り
札であった。
この娯楽施設は半年も掛けずに、何百もの剣闘士、何千ものモンスターの血
を、そして市民の莫大な時間を吸い上げた。生存欲求が満たされ、死の不安
が無くなったにも拘らず、彼らは足繫く殺し合いを見に行ったのだ。死が持
つ魅力とは抗い難い。それは幾度も証明されており、わざわざここで論ずる
までもないだろう。
一方で、彼らは自分達の暮らしの土台、国を動かす政治への関心を、急速に
薄れさせていく。安全圏から死を眺める事に病み付き、安定的に生きる事の
困難さを忘却し、自分達の生活を豊かにする努力を放棄し、気付けば貧富の
拡大や政治的執行力の喪失など、様々な歪みに絡め捕られている。
それは生きる事からの逃避であり、死や破滅を近づける事に繋がるものであ
る。
彼らは死を見ているようで、その実は死を忘れているのだ。
死を愉しみ、支配した気になっていれば、自らは不滅なのだと、高を括って
いられたのだ。
このコロッセオが剣闘士競技の最中、突如ダンジョンに呑まれたという歴史
に、筆者は示唆的なものを感じてならない。
(後略)
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