第二十二章:働く女性と休む女性

ひとりでできるんだからねっ:日常パート

「はい、今日の家庭科の授業はみんなで『ひとりでできるんだからねっ』を見たいと思います。

 この動画を見た後、動画の通りにお料理をしますので、良く良く見て下さい。必要だと思ったら、メモを取って下さいね。

 いいですか?」


「「「はーーーい!!!」」」


 ある地方にある小学校。各教室に一台用意してある大きなディスプレイに、なぎなみ動画に投稿されている動画が再生される。

 この「ひとりでできるんだからねっ」は小学生向けに制作された実写の料理番組で、一話が投稿されて以来爆発的な人気を集め、今では小学生の教材としても使用されている。

 VividColorsヴィヴィッドカラーズから教育機関へと専用のアカウントが提供されており、完全無料で適切な動画のみ見れるように設定されている。


『もうっ! 今日も可愛い妹を残してお兄様達はみぃんなお仕事!

 やんなっちゃうわっ!』


真智まちちゃん可哀そうぉ」

「でもお兄様達がお仕事してくれないと私達が困っちゃうよ?」

「真智ちゃんもお仕事頑張ってるもんね」

「私なら大人しく待ってるなぁ。で、お帰りになられたらぎゅーって抱き締めて頂くの。あぁ……、翔太様っ!!」

「黙って見てなよ」


 真智はランドセルを背負い、玄関の鍵を開けて自宅へ入り、すぐに鍵を閉める。

 靴を揃えて脇に移動させ、脱衣所で洗濯物を出した後、洗面所で手洗いうがいをする。


「指の付け根、爪の間、手首、優しくしっかり泡で洗おう♪」


 自宅に帰ったらすぐに施錠する、靴を揃える、洗濯物は自分で出す。真智ちゃんがやっているのだから私もしよう、と思わせるような作りになっている。

 正しい手の洗い方、正しいうがいの仕方を歌に乗せ、子供達に分かりやすいように映されている。

 ちなみに安藤家で使われている液体石鹼は宮坂製薬の商品だ。


 そして真智は、自室に戻ってすぐに宿題を始める。


「真智ちゃんは学童に通ってないんだね」

「そう言われれば」

「私達は学童で宿題するもんね」


 一般的な小学生はほぼ学童へ通っており、小学校から直接自宅へ帰る真智は比較的珍しいのだが、これは動画の制作上の都合になる。


『はい、宿題終わりっと。

 はぁ、お腹すいちゃったわ。何か食べるものあるかしら』


 真智が自室を出て、台所へおやつを探しに行く。が、何も見当たらない。


『もうっ! 何もないじゃない!

 お腹が空いたお腹が空いたお腹が空いた!!』


 真智が台所の床に仰向けに寝そべって駄々をこねる。スカートがはだけて安藤家の家紋が入ったパンツが見えてしまっている。


『あらあら、はしたにゃいお姫様だこと』


 床に寝そべっている真智の元に、黒猫が歩み寄って来た。


「ヴィヴィだ!」

「可愛いなぁ」

「お母さんに猫は飼えませんって言われちゃったんだよねぇ」

「私は猫より犬の方が良いな」

「あんなにかしこい猫はいないのよ?」


 ヴィヴィと呼ばれた黒猫は、魔法の世界から来た特別な猫で、魔法の世界から狙われている安藤家の護衛を務めている。


『ヴィヴィ、私はお腹が空いたわっ。

 貴女、私の護衛なのだから何かおやつちょーだい!』


『私は男性の護衛だから、厳密に言うと真智ちゃんは対象外にゃのよねぇ』


『ひどいっ! 女性差別よっ!!』


「仕方ないよね、サラウゾーンは男の子しか狙わないもの」

「ヴィヴィは真智ちゃんからも四兄弟を守っているって掲示板に書いてあったよ」

「でもお兄様達みんなお外にいるのに、何でヴィヴィはおうちにいるのかしら」

「……真智ちゃんがお兄様達のお部屋に勝手に入らないように見張ってるんじゃ?」

「「「あーーー」」」


『おやつは出してあげられにゃいけど、にゃにか簡単にゃお料理を教えてあげましょうか?』


『お料理? お菓子が良いわ』


『お菓子の材料があれば良いけど、多分にゃいと思うわよ?』


 真智が台所にある戸棚やカゴを漁るが、お菓子作りに必要な小麦粉はなかった。

 見つかったのはジャガイモ、キュウリ、ニンジンのみ。

 ここで先生が動画を一時停止して、子供達に声を掛ける。


「はい、ジャガイモとキュウリとニンジンで出来るお料理は、何があると思いますか?」


「おみそ汁!」

「コロッケ!」

「キュウリってみそ汁に入れる?」

「コロッケ食べたい……」

「ジャガイモは切って油であげたらフライドポテトになるよ」

「キュウリとニンジンはたてに切ってマヨネーズつけて食べる!」


「はい、それでは正解を見てみましょうね」


 先生が一時停止していた動画を再生する。


『ジャガイモとキュウリとニンジンがあるから、ポテトサラダが出来るわね』


『お菓子じゃないのね……。

 でもポテトサラダを作ってお夕食で出せば、お兄様達が喜んで下さるかも知れないわっ!』


「ポテトサラダかぁ」

「おいしいよね」

「真智ちゃんに作れるのかなぁ」


 ヴィヴィがカメラ目線になって、見ているであろう子供達へと語り掛ける。


『良い子のみんにゃ、いつも見てくれてありがとう。今回の調理法は四人前にゃにょで、参考にしてね。

 今回のお料理は包丁を使うから、気を付けて作ってね』


「「「はーーーい!!!」」」

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