藍吹伊通りの子供達
全員で五十人ほどおり、半分が日本人だ。下は三歳、上は十五歳と幅が広い。
小学生以上の子供に関しては、
託児所は二十四時間体制を取っており、学校を終えて帰って来た子供も、希望があれば受け入れている。
託児所には宮坂警備保障に勤める女性の子供も預けられており、クラブ活動のような形で柔道や空手を教えている。そして、今日は日々の稽古の成果を発表する日なのである。
パーティー会場には畳が敷かれ、伊吹が胴着姿で正座しており、子供達は緊張感を持ちながら空手の形を披露している。
その中にはマチルダの姿もある。子供達は将来、伊吹を守れる女性になる為に、と武術を習っているが、マチルダは主に体幹を鍛える為に参加している。
子供達が伊吹に対して礼をする。伊吹はそれぞれの顔をじっと見渡し、立ち上がって口を開く。
「僕が悪い大人に襲われていると想定して、君達は僕を助ける事が出来るかどうか試してみようか」
子供達が騒がしくなる。この場にいる大人達は事前に聞いていた為、何も言わない。
「このお姉さん達が僕を攫おうとしているとして、君達はどうやって僕を守るかな?」
「え、お姉さん?」
「おばさんじゃん」
「しっ、聞こえちゃうでしょ!」
「めっちゃ睨んでるよ!」
子供達を睨みつけているのは、普段から伊吹の周辺警護を任されている
栗田が伊吹の腕を掴み、若村と佐井が伊吹の前に立つ。
「始め!」
少し離れたところに立つ
ころんころんと転がされる女児達。中には本気で蹴りを入れてくる少女もいるが、その程度では宮坂警備保障の上級職員は倒せない。女児達と同じように少女も転がされていく。
マチルダはそんな女児や少女に紛れて伊吹へ抱き着こうとするが、若村にしっかり見られており、一本背負いを掛けられる。
普段から教えているマチルダに対しては容赦がない。マチルダもしっかりと受け身を取って立ち上がり、何度も何度も伊吹へと駆け寄るが、その手は届かない。
「助けてー! 連れて行かれたらもう皆に会えなくなっちゃうよ!!」
伊吹がアドリブでそう叫ぶと、子供達の何らかのスイッチが入ってしまい、爪や歯を使った攻撃を仕掛けて来て大変な事になったので、慌てて小杉が中止を宣言し、その場は流れた。
子供達が解散した後、伊吹は室内空中庭園で警備員達を労う為にお茶に誘った。
「すみません、僕が変な事を言ったばっかりに」
「いえ、気にしないで下さい。あのような暴徒が襲ってくる可能性もありますので」
栗田が笑って答える。若村も佐井も、特に怪我らしい怪我は追っていない。
「なぁイブイブ。あれ、この世界でも流行るんちゃう?」
「あれ?」
伊吹はマチルダが言いたい事を想像出来ないでいる。この流れで行くと、空手か柔道か、それとも護身術か。
「戦隊ものやんか! 警護戦隊、マモルンジャー!!」
「あぁ、特撮ヒーローか」
「イブイブがさっきみたいに叫ぶやん? 助けて、マモルンジャー! って。
ほなイブイブの危機を察知した警備員が集まって来て、変身して警備戦隊マモルンジャーになるねん」
二人のやり取りを聞いていた小杉達から横やりが入る。
「いや、危機を察知してでは遅いよ? 常に伊吹様のお隣に控えて、何かあれば自分が盾にならないと」
「あー、確かにそうやねんけどな? その、危機が訪れて助けに来る、ってのがヒーローもののロマンがあるところでな?」
マチルダが四人へ説明をするが、なかなか理解してもらえない。
「なぎなみ動画で流すと、イブイブはこんだけ強い人らに守られてるんやって伝える事が出来るやん!」
「本当に襲われていると勘違いして通報するおばあさんとかいないか?」
「自分も悪の組織? に入って伊吹様を襲いたいと思う奴が出て来る可能性もあるね」
「私ら変身出来ないし」
大人四人から正論でボコボコにされており、マチルダは涙目になっているが、自分の訴えを取り下げるつもりはないらしい。
「特撮ヒーローは絶対にウケるハズやねん!」
テーブルをバンバン叩いて叫ぶマチルダがちょっとかわいそうになり、伊吹が加勢する事にした。
「明らかに作り物っぽい怪人のスーツを作って、戦隊はスーツじゃなくって魔法少女的な可愛いドレス姿にするのは?
で、CGでバンバン魔法を打って怪人を倒すとか。巨大ロボは藍吹伊通り一丁目にはデカ過ぎるからナシにして」
「戦隊ヒーローと魔法少女を合体させるんか……」
「とりあえず何話か撮影して、今日来てた子供達向けに試写会をして反応を窺ってみるのはどう?
ヒーローものだけで行けそうならそっち寄りに修正すれば良いし、魔法少女寄りにするべきならアニメにすれば良いし」
「分かった! ほなちょっと絵コンテ描いてみるわ」
ここまで言って、伊吹は十歳の少女を働かせ過ぎだなと思った。
「マチルダの脳内を再現するチームを編成しないとだな……」
そんな伊吹の呟きが聞こえないほどの集中力を見せ、マチルダがスケッチブックに絵コンテを描いていくのだった。
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