落合玲実・百瀬明里・小泉美樹子
「ふぇいくどきゅめんたりぃ?」
「あー、偽物の実録映像って意味ね」
相手は
「実録なのに偽物なんですー?」
「そう、むっちゃんにはカメラマン役をやってもらいたい。
で、れーちゃんはアシスタントディレクター役」
「あたしは?」
「はーちゃんは金属バットを持ったディレクター役」
「どんな役なのよ」
伊吹は素人でも比較的手っ取り早く簡単に撮れる、フェイクドキュメンタリーを広めようと考えた。スマートフォンさえあれば、あとはアイディア次第で誰でも映画が作れるジャンルだ。
演技が上手くなくとも、カメラの取り扱いが上手でなくても、ある程度見れるものが撮影出来る。
なぎなみ動画内で流行すれば、映像制作に興味を持つ若者が増え、映画文化の発展が期待出来るのではと伊吹は期待している。
「で、どんな実録映像を撮ればいいんですか?」
玲夢が伊吹へ尋ねる。
「
そこにろくろ首が住み着いているって設定で映像を撮ってきてほしい」
その日本家屋には現在誰も住んでおらず、伊吹の侍女達が定期的に換気や掃除を行っている。
藍吹伊通り一丁目はそんな無人の家が多く、映画を撮るには絶好の屋外スタジオであると言って良い。
「ろくろ首? あの、首が伸びるお化け?」
葉月が嫌そうな表情を浮かべる。
「ろくろ首は技術スタッフに後付けで映像に入れてもらう。あと、三人の姿はアバターに変えるから。
で、台本はこれね」
三人が伊吹から渡された台本に目を通す。
夜な夜な宙に首が浮いているという目撃情報を掴んだ映像制作会社が、三人で現場へ向かい取材する。
そして、ある日本家屋の庭で宙に浮いた首を発見。念の為持参していた金属バットで首を殴りつけると、首が日本家屋の中へと帰って行く。
後を追いかけて日本家屋の中へ入り込むと、畳が剥がされた床下に、地下へ続く階段があるのを発見。
恐る恐る階段を降りて、懐中電灯を頼りに進んでいくと、大きな地下道に突き当たり、さらに進むと河童が歩いているのを発見。
三人は怖くなって地上へ引き返す。その途中、ろくろ首に見つかり追いかけられるが、またも金属バットで殴り、何とか逃げ切る。
「えーっと、これって面白いんですか?」
玲夢が何とも言えない表情で伊吹を見つめる。
この台本は、伊吹は前世で見たフェイクドキュメンタリーもののホラー映画を記憶を頼りに書き上げたものだ。
「僕が見た映画は面白かったんだけどね」
伊吹自身、台本を読む限り面白いものが出来る気がしない。もう少し手直しが必要であると伊吹も感じている。
「この映画撮るより信長と光秀の生配信した方が喜ばれるんじゃない?」
「ちょ、ちょっとはーちゃん!?」
伊吹への葉月のツッコミを聞いて、睦月が慌てて止める。
「いや、確かにそうなんだけど、それって僕と玲夢じゃないと出来ない事じゃない?
こっちの映画は、スマホと台本とやる気さえあれば、誰でも同じように映画が撮れるんだ。
大勢の人が気軽に映画を撮るようになれば、どんどん良い物が出来上がっていくと思わない?」
「なるほど……」
「なぎなみ動画に気軽に投稿出来て、気軽に見る事が出来る。
これって結構すごい事なんだよね。撮影にお金が掛からないし、映画館で上映する訳じゃないから、失敗しても誰も不幸にならない」
自分が思っているよりも評価されず、がっかりする事はあるだろうが、破産したり住む家がなくなったりする事はない。
「でも、アバターが映ってたら実録って雰囲気じゃなくなるんじゃない?」
葉月が伊吹へツッコミを入れる。
「それはそうなんだけど、実写だと顔が映っちゃうし」
「あたしは別に良いけど、顔が映っても」
葉月の言葉を受けて、睦月が思案顔になる。
「まぁ、私は顔どころか全裸が映ったけど……」
「れーちゃんは自業自得ではー?
でも、私も実写でもいいかなー」
睦月も実写、つまり顔出しで映画に出演しても良いと思い始めている。
ちなみに、伊吹の台本では睦月の顔が映る予定はないのだが、まだ睦月はその事に気付いていない。
「割と皆ノリが良いな。でも実写の方が現実味が出てより怖い映画が出来上がりそうだけど」
そう話す伊吹の顔をじっと見つめ、睦月が質問する。
「副社長。私達、やります。だから、私達の事も可愛がって下さい」
いつもと違う口調で睦月に迫られ、伊吹が苦笑いを浮かべる。
「三人が望むなら、僕は応えるつもりでいるよ」
「だって。良かったね、れーちゃん」
「……バカな私でも頑張ってたら報われる時が来るんだね」
さめざめと涙する玲夢を、睦月が抱き締めて宥める。
「あたしもついに副社長の女になるのか」
「はーちゃん、嫌なら嫌って言っていいんだぞ?」
「嫌な訳ないだろ、バットで殴るぞ」
「さっそく役作りしてんじゃん」
★★★ ★★★ ★★★
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次話より新章です。
今後ともよろしくお願いします。
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