河本多恵子・岡野美羽
「その格好は何? 黒い布テープを巻き付けてるの?」
「服として機能していないように見える」
「うわ、再現度高いな。
マチルダ、琵琶湖行って撮ってきたら? 巨大扇風機を手配しておくから」
様子を見に来た伊吹がマチルダへ茶々を入れる。
「マチルダ的にはオールオッケーやけど?」
二人は楽しそうにやり取りをするが、多恵子も美羽も何の話か分からないでいる。
「あぁ、えっと。
マチルダの格好は前世の世界で大人気だった男性アーティストのコスプレなんだよ。あの衣装を来て音楽番組で歌ってたんだ」
伊吹の説明を受けて、多恵子も美羽も衝撃を受けている。男性がこのような格好をして、音楽番組で歌を披露するなど、この世界では考えられない事だ。
「イブイブ用にも作ってもらおか?」
「いや、俺でも恥ずかしいから止めてくれ。
それにあの人の歌は好きだけど難し過ぎる」
伊吹はマチルダのお誘いを断り、多恵子と美羽の衣装に目をやる。
二人とも、反物の端切れをつなぎ合わせたようなワンピースを着ている。
「へぇ、和装をイメージした洋服なのか」
「はい、お兄様。侍女さん達が、最近は洋服ばかりで若い人は和服を着ないから、少しずつ広めていきたいと仰ってました」
多恵子の説明を聞いて、伊吹がさらに尋ねる。
「って事は、二人もコスプレ写真を撮って公開するつもり?」
「はい、顔だけ多恵ちゃんが加工して隠してくれる予定です」
美羽はすっかり多恵子と仲良くなっている。多恵子はVCスタジオの責任者、美羽はVCうたかたラボの責任者として、外の企業と打ち合わせをしたりする都合上、あまり顔を公開するのは良くないだろうという判断だ。
しかし、実際は二人の顔を公開しているかどうかなど関係なく、あの企業の責任者なのであれば、伊吹のお手付きなのだろうという噂が一人歩きし、割と噂の対象になっているので、顔を隠す意味はなかったりする。
「そっか、じゃあこれはコスプレってよりも和装を広めたい侍女さんの為の衣装モデルって事か」
和装自体は
洋服に比べて和服はとにかく高く、数が少ない。一度に量産出来ないというのが理由だ。
「反物を卸しが右から左にするだけで値段が膨れ上がっていくからなぁ。あれを何とかするだけで値段は押さえられるんやけど」
何やら事情を知っていそうなマチルダがそう呟く。
「まぁそれは追々何とかするとして、和装をどう流行らすかだな」
伊吹はこの世界に生まれてから、普段着は和装が多い。ご近所さんだと思っていた伊吹の侍女が、伊吹の為にせっせと作ってくれていたからだ。
その分馴染みもあり、親しみも感じている。自分の侍女が和装を流行らせたいと言うのなら、伊吹は協力したいと思っている。
「えー、めっちゃ簡単やん。バチバチに斎服で決めた副社長と十二単を来たうちらが一緒に写真撮って拡散するだけで世界中から買い手が集まるで」
「それ
伊吹のツッコミを受けて、マチルダが斜め上を見上げて鳴らない口笛を吹く。
「お兄様、ぜひともお写真を撮らせて下さい!」
「顔出しで大丈夫だから!」
多恵子と美羽が伊吹の腕を取ってせがむ。すでに周りの侍女達がスマートフォンで結婚の儀の時の衣装の確認を始めている。
「あー、分かった。けど、あの時の斎服も十二単も特別な意味があるからな。
全く同じものを作ってしまうと多方面から色んな事言われそうだから、柄とかは違う感じにしてほしい」
伊吹のその言葉を受けて、マチルダと多恵子と美羽が飛んで喜ぶ。
「ついにお兄様と結ばれる時が……」
「はぁ、胸がドキドキしてきた……」
「あれ?」
マチルダが伊吹へと歩み寄り、伊吹を二人へ押し出す。
「大事なんは衣装の再現やなく、結婚の儀の再現やからな。
ほら、二人連れてさっさとラブホ部屋行ってきぃ」
「あっ!? 謀ったなマチルダ!!」
「何かややこしいなぁそれ」
★★★ ★★★ ★★★
ここまでお読み頂きありがとうございます。
オチにマチルダ使いがち。
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