結婚指輪
「こんな事
悩みながらも、
「俺の前いた世界だと、結婚すると夫婦お揃いの指輪を左手の薬指にするんだ。こっちの世界ではどうなんだろうと思って」
伊吹の母親である
少なくとも咲弥は例のDVDに映っていた男性が咲弥の恋人であり、その男性との間に生まれたのが自分だと伊吹は思っているが、婚姻関係には至っていなかったのだろうと予想している。
美哉の母親である
「結婚指輪というものは存在してるけど、実際は男性が面倒臭がってしてくれない事が多いって習った」
「事前に申し出ておけば結婚式の時に指輪交換の時間が用意される」
侍女になる為の勉強として、二人はそういう知識も学んでいる。
「今回結婚式をするのはあーちゃんととこちゃんの二人だけだけど、そう遠くないうちに二人とも式を挙げたいからさ、今のうちに俺の分と八人分の指輪を用意しときたいんだけど、どう思う?」
美哉と橘香に確認する自分が酷く情けない男のような気がする伊吹だが、自分で用意しようにも一人で外を出歩かせてもらえない以上、こうして誰かに頼るしかない。
「そういう相談は、まずは
「私達は聞かなかった事にするから、明日朝一で確認しよ」
そう諭されて、伊吹は藍子へ相談する事にした。
「あー、最近急がしてくてそこまで考えられてなかったよ」
「ごめんなさい」
翌朝、朝食後にオフィスで藍子へ話を切り出した伊吹が頭を下げる。
藍子が忙しいのは伊吹のせいなので、素直に謝罪する。ごめんなさいついでに昨日美哉と橘香に伝えた内容をそのまま藍子にも伝える。
「来月の結婚式は藍子と燈子の二人どだけだけど、いずれは美哉と橘香、
だから、今から僕自身の分と、八人の分の指輪を用意しておきたいなって思って」
伊吹の申し出を喜び、さっそく百貨店の外商担当を呼び出す事になった。
「ご結婚、誠におめでとうございます」
落ち着いた雰囲気の女性が伊吹達にお祝いの言葉を述べる。外商としてオフィスへ訪れたのは三人で、それぞれ大きなトランクケースを開けてテーブルに指輪を取り出して並べていく。
「そう言えば婚約指輪はええの?」
テーブルいっぱいに広げられた結婚指輪を見てキャーキャー騒いでいたマチルダが、伊吹へ質問する。
「それが、日本には婚約指輪自体が浸透してないみたいなんだ。って言ってももう婚約済みだから、今さらって感じではあるんだけど」
美哉も橘香も婚約指輪については詳しくなかったし、藍子も伊吹に対して必要ないと答えている。
「さて、こういうのはまず女性陣が見るべきだ。皆こっちに来て、手に取って見せてもらって」
伊吹が藍子と燈子、美哉と橘香、紫乃と翠と琥珀、そして智枝に指輪を選ぶよう促す。皆は遠慮がちに、しかしとても嬉しそうな表情で指輪を眺める。
「なぁ、うちは?」
「十歳の女の子と婚約した覚えはないな。けどこれから頑張ってもらう前払い分として、アクセサリーとしてならプレゼントしよう」
とは言ったものの、十歳の女の子の指に合う指輪があるかどうか、伊吹には分からなかったが。
マチルダは喜んで選んでいると、外商の女性がマチルダの指のサイズを計り、取り寄せであれば用意出来ると答えたので問題はないようだ。
「いっくんは指輪してくれるの?」
「もちろん。けど八人分全部を左手の薬指に嵌められないのがなぁ」
「大丈夫、八人で一つの種類を選ぶから」
燈子が皆に声を掛け、どうせなら妻達で統一しようと持ち掛けたのだ。それぞれ好みのデザインの指輪を選ぶよりも、伊吹とお揃いの指輪の方が良いと皆が思ったからだ。
「同じデザインの指輪をファングッズとして売り出したら大儲け出来そうやな」
いやらしい笑みを浮かべるマチルダに、伊吹が現在準備中の計画を伝える。
「イベントをやるって言ってただろ? 同人誌即売会みたいな。あの決済用に、スマートリングを開発してもらってるんだ」
伊吹は最初、
それを思い出したからこそ、今こうして結婚指輪を選んでいるという流れに繋がったのだが。
「スマホのアプリでクレジットカードと連携させてスマートリングでクレジット決済が出来るようにする、って事か」
「そう。この話を持ち込んだら
スマートリングが普及すればクレカを使ってくれる人が増えるだろうって張り切ってるみたい。今から非接触型の決済機器を準備して全国に配布するらしい」
「そのスマートリング、四兄弟で色分けして四種類用意するやろ? ほんで、イベントごとに新しいデザインを発表してやればガンガン売れるで」
「連携させるリングは一つに絞っておいて、その日その日でペアリングし直せばリングが手元にいくつあろうが問題にはならなさそうだな」
妻達が結婚指輪を選んでいる中、伊吹は新しいビジネスの考案に勤しむのだった。
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