黄泉国物語 * 死返玉。(まかるがえしのたま)

猫野 尻尾

第1話:紅の許婚者。

親が無理やり決めた許婚から逃げるため鬼の国、オニガーシマ国を逃げ出して

俺と出会うことになった鬼のお姫様。


「名前は「紅姫べにひめ」」


紅姫は歳の頃なら17歳。

鬼ったって、文献に出てくる怖〜い鬼と違って、顔も赤くもないし青くもない

人間と同じ肌色をしている。

髪は長く、色は村明るい金髪で頭にはやっぱり鬼だって証拠のツノが2本生えて

いた。


紅姫は鬼の国から地獄を通って黄泉の国へ・・・現世と黄泉のとの境女にある

女妊洞にょにんどうってところ抜けて黄泉比良坂を通り人間界へやってきた。


その女妊洞を抜けるためには「身護守玉みごもりのたま」って宝珠がいる。

紅姫は夜中に玉を盗んで「みごもり とどめよ もごもり」と繰り返しながら

その女妊洞を通ってきた。


まあ、神通力の強い鬼なら女妊娠洞くらいならもしかしたら通れるかも

しれない・・・。


そんなこんなで、俺は田舎の祖父の法事の帰り、道に飛び出してきた紅姫を車で

ひき殺しそうになった。


で、そこから、行くあてのない彼女と関わっていくことになるんだな。


俺の名前は「安倍 福太郎あべ ふくたろう


そして俺は紅姫のことをべにって呼び、紅は俺のことをふくちゃんって呼ぶ。


それから俺たちは紅が無くした「身護守玉みごもりのたま」を巡って黄泉国よもつくにって死者の魂が徘徊する世界に行くことになる。


黄泉国で正塚婆しょうづかのばばや俺のご先祖様の阿部 晴明さんや鴻鈞道人こうきんどうじんって妖怪のじいさんたちの力を借りて無事黄泉国での一件に決着をつけた俺たちは、今は俺の親父の店「蓬莱山ほうらいさん」って中華料理屋で平和に暮らしてる。


さてオーニガシマ国では行方不明になってる紅姫が人間界にいるってことが

判明したことで紅の許婚が人間界にやってくることになった。


その許婚の名前は「天婦羅童子てんぷらどうじ」れっきとした男の鬼。


その名前の通り格好や外見だけで中身が伴わない紳士や学生のことを

「テンプラ紳士」とか「テンプラ学生」と揶揄するように彼もご多分にもれず

テンプラな鬼なんだろうかって想像してしまう。


まあ紅が気に要らなかいんだから、おおよその天婦羅童子の人格は知れてるだろう。


ある日のこと俺は厨房で紅は接客に、じいさんはお昼寝してる時に店を訪ねて

一人の男が・・・いや鬼がやってきた。


「お邪魔・・・」


「いらっしゃい・・・」


そこまで言った紅はそいつを見て固まった。


「おお、紅姫・・・ビンゴだったぞい・・・探し当てた通りこの店にいたんだ」


「天婦羅・・・まじで?」

「もしかして私を連れ戻しに来たんですか?」


紅の声が高ぶってるのを聞いて俺は厨房から店内に出て行った。


「紅・・・お客さん?」


「福ちゃん・・・どうしよう」


「なになに?お客さんじゃないの」


そう言いながら訪ねて来た人を俺は見た。

そいつは小太りで背が低くなんとも情けなさそう顔をしていた。

で、よく見たら頭に角が生えてるじゃん


「まさかの鬼?」


その鬼を見て俺はピンと来た。

そいつは紅の許婚でオニーガシマ国から紅を迎えに来たに違いないって。


「紅・・・この人?・・・この鬼は?」


「天婦羅童子っていう私の許婚・・・じゃなくて無理やりくっつけられそうに

なった人・・・てか鬼」

「はっきり言って許婚じゃないし・・・」


「紅姫・・・私はなたのご両親のお墨付きですよ」

「もう決められた縁なんですから私と一緒にオニーガシマ国へ帰りましょう」


「そこのお兄さん紅姫がずいぶんお世話になったようですが・・・」

「気の毒と思うが紅姫は私の許嫁・・・あんたに渡すわけにはいかん」


「なに、言ってるの・・・そんな勝手な」


「私は帰らないからね・・・テンプラさんひとりでとっとと帰って」

「あのね、私と福ちゃんはもう切っても切れない仲になっちゃってるの」

「とっくに契りを結んでるし・・・」


「おえっ、契りだと・・・なんてことを・・・しかも人間風情と」


「風情たぁなんだよ・・・失礼なやつだな、テンプラ」


「やかましい、おまえが全部悪いんだな人間め!!」

「死んでしまえ!!」


そう言うと天婦羅童子てんぷらどうじは俺に向かって雷を一発落とした。


雷なんか食らった俺は感電してバタンキューで一瞬にあの世に行ってしまった

・・・あっけなく。


「キャ〜〜〜〜〜福ちゃん」

「テンプラ、なんてことするの、バカ」


そう言って紅は俺に駆け寄った。


「福ちゃん、福ちゃん・・・大丈夫?」

「まずいよ〜福ちゃん息してないよ・・・死んじゃってるじゃん」


「これで思い残すことはなかろう・・・相手がおらんではな」


「それって逆だよ・・・こんなことして私がオニーガシマ国に帰るって思ってる?」

「もう、あんたとは完全絶縁・・・顔もみたくない」

「とっととオニーガシマ国に帰って!!」


「だが、その男が死んでおるでは他に選択の余地などなかろう?」


「あるよ・・・私、黄泉国まで行って福ちゃんを連れ戻して来る」


「そのようなことはできるわけなかろうが・・・」


「できるよ・・・黄泉国なら一度いて行ってるからもうなんなくいけるよ」


「だが、一度死んでしまった者を生き返らせることなどできんぞ?」

「神様でもな」


「あるよ・・・一つだけ方法が・・・でもあんたには教えない、絶対」


「テンプラバカ・・・オニガーシマ国に帰らないと。今度はあんたが死ぬ

ことになるよ」


「こっちには前鬼の兄さんと後鬼の姉さんがついてるんだからね」


つづく。



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