第34話 歓迎会 (下)


「青葉ちゃんのバカ。私まだ食べたかったのに・」


「呆れたわね。あなたは、どれだけ底無しなのかしら?」


 金森も紅葉も開いた口が塞がらない、といった様子だ。そんな二人の視線に耐えかねたのか、青葉が消えりそうな声で謝罪の気持ちを二人に告げる。


「……御免なさい」



「まあ!まあ!俺、また今度買ってきますから!」


 下を向いてシュンとしてしまった青葉を可哀そうに感じて、ユウは助け舟を入れることにした。しかし頭の片隅には、やはりこの女は人間ではないのでは?と感じている自分もいるのも確かだ。


 コホンと、咳払いをしてから紅葉が話をし始めたのは、チーズケーキの件で、場の雰囲気がすっかり盛り下がってしまったからだろう。


「では、今後の部の活動について話しておきます。明日は二件の依頼が来ているわ。一つは相談の案件でもう一つは占いね。明日の放課後に依頼者と会う約束をしているから、二人共4時に部室に集合してね」


 頷くユウと青葉。


「如月君は初めてだから勝手が分からないと思うけれど、分からない事があったら私か青葉に遠慮なく聞いてね。青葉も部の先輩として如月君が早く部に慣れる様に協力してあげて。二人には暫く一緒に行動してもらうつもりだから、宜しくね」


「先輩、宜しくおねがいします」と、ユウは軽く頭を下げた。新入部員である以上、特に異論は無い。しかし青葉からは、特に反応は返って来なかった。



「それと如月君は、PCは使える?」


「一般的な事なら何とか。自信はありませんが……」


 情報処理の授業でも特に苦手意識はなかったのでそう答えた。きっと記憶を忘れる前も使っていたんだろう。


「そう、なら問題はないわね。レポートを書いたり、メールのやり取りが出来れば大丈夫よ。

 私達の部では依頼を受けた場合、必ず最終結果を依頼主に文章で提出するの。その依頼が解決しても、しなくてもね。依頼が終了したらレポートにまとめて私に提出して下さい。如月君に使ってもらうノート型のPCを用意してあるから、後で渡すわね。

 それから如月君は催眠についての勉強も始めるから、忙しくなる。覚悟はしておいてね。……それでは私からは以上よ。二人とも何か質問はある?」


 そして二人を交互に見つめる紅葉。明日の依頼というのが気になったが、明日に依頼者から詳しく話があるんだろう。少ない情報だけで憶測しても不安になるだけだ。


「……何も無いみたいね。じゃあ、この話はこれで終しまい」


「いいなぁ…… 私だけ仲間外れって感じで、なんか寂しいよ」


 オカルト研究部についての話を終わらせた紅葉に金森が呟きを入れると、それを聞いていた紅葉が小さく首を横に振る。その顔は、なんだか寂し気だ。


「ふふっ、何を言っているの?いずみちゃんには美術部があるじゃない。あなたは絵本作家になるんだから、絶対に美術部で頑張った方がいい……」


「……うん、そうだよね。私は美術部に憧れて城西に入学したんだもん。美術部で頑張らなきゃね」


 そしてそれに答えている金森も、寂しそうだった。


「でも、いつでも部に遊びに来て。……本当に待っているから」


「うん!遠慮なくお邪魔するね。如月くんの件に関しては、私も全力で協力する!」


「ありがとう金森。これからも頼りにしてもいいかな?」


「う、うん!」


「ふふっ決まりね。如月君の件は、いずみちゃんにも協力して貰えると助かるわ」


 少し顔を赤くしながら頷いた金森が、嬉しそうに微笑んでいる。そしてそんな金森をもっと嬉しそうな顔で見つめていたのが紅葉だった。その二人の様子が、ユウを十分過ぎるほどに温かくする。


「それはそうと、如月君。今から私の部屋に一緒に来てくれない?貴方に話しておきたい事があるの。ねえ、いずみちゃん。少しだけ如月君をお借りしてもいい?」


「なっ何で!? 何で私に聞くの紅葉ちゃん!? 如月くんさえよかったら、私は別に……!」


「ふふっ何となく、いずみちゃんに許可を貰った方が、いいかと思って」



 だが結局、その二人の温かいやり取りは、その人の悪戯心をくすぐってしまったようだ。……どうもその人には、素直じゃない天邪鬼的な一面があるように思えた。

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