第22話 妖魔軍団と謎の影
黄緑の快進撃は止まらない。
その後も、多くの妖魔が襲いかかってくるものの、全員相手にならない。
秒殺秒殺秒殺。
能力持ちも中にはいたが、黄緑に傷一つ負わせる事もできないでいた。
倒された妖魔の数はざっと30体あまり。
それだけ相手にしても、黄緑はろくに疲弊すらしていない。
黄緑の能力は身体強化。
パワーや速力の強化だけではなく、無尽蔵なスタミナ、魔力の質や量の向上まで可能。
それゆえに疲れ知らずなため、数の暴力になど屈しないのだ。
つまり、雑魚が何人束になろうが黄緑には勝てない。
その事に気づいた下っ端の妖魔達が慌て出していた。子供みたいな背丈に浅黒い肌で鼻がとんがった、ゴブリンみたいな妖魔だった。
「ど、どうなってんだ!?弱い方をまず、罠にかけたってボスはおっしゃってたろ!?」
「化け物じゃねえか!?おれらじゃ到底かなわねえぞ!?」
残る妖魔は数えるほどしか残っていなかった。
青春が確認した廃ビルの妖魔達もこちらに合流していたにもかかわらずだ。
「ふん。どうせあんたら女だからと甘くみたんだろう?あたしらが始末してきたるわ」
女の妖魔が言った。
見た目は人間の女と大差ない上に美人だ。
とはいえ妖魔だから危険な存在なのは間違いないだろう。
「姉御、奴は身体強化系……となるとおそらく魔力の属性は金か土ですぜ」
声がキンキンと高く響く、手に翼の生えた青白い肌をしてる半人半鳥の女妖魔が言った。種族はハーピーと言った所だろうか?
青春や黄緑の特殊な力は魔力という、人なら誰しもが少なからず秘めている特殊なパワー。
そんな魔力は全て属性がつく。五行と同じ、火、金、木、土、水。そしてそれぞれ相性がある。水は火に弱いなど。
ちなみに青春はそのどれでもない特質三大属性の闇だ。
こちらは闇、光、雷。これらもまた相性関係はある。
「金なら、火のあたい。土なら木のあんたで倒せばいいわけね」
金は火に弱く、土は木に弱いからだろう。
黄緑が本当にそのどちらかなら、片方とは相性悪いことになる。
「た、頼むぜてめえら。実力者の小僧を倒しに行った奴ら除けば、もう、おれ達しかいねえんだからよ!」
うろたえてたゴブリン系の妖魔が言った。
どうやら青春の元に向かった妖魔もいるようだ。
女妖魔は見下すような視線を向ける。
「なに?あんたらはこないつもり?」
「いや、だってお前が自分で行くって……」
「あたいらに全部任せようって態度がうざいんだよ!」
女妖魔は、目を見開く。
するとゴブリン妖魔達は突然発火!
「うぎゃあああああ!!」
全員一瞬のうちに黒こげ、断末魔をあげながら灰と化した。
ハーピー型妖魔は焼け焦げた妖魔から異臭に鼻をつまむ。
「あーあ。殺しちゃった。もう、ウチらしかいなくなっちゃいましたよ姉御」
もうこの場には二人だけ。後はどこかにいるボスしかいないわけだ。
「所詮烏合の衆。いてもいなくとも同じ。強い方に向かった連中は始末したら戻ってくるだろうし」
「あの女より強い相手じゃそっちも殺られてるかもよ?」
「そん時はそん時だ。行くよ!」
女妖魔とハーピーは黄緑の進行を食い止めるため出陣……
「えいっ」
しようとする前に、二人の潜んでいた部屋に、カワイイ掛け声をだしながら、扉を蹴り飛ばして侵入する人物が現れた。
――無論、夏野黄緑その人だった。
怒涛の勢いで、奴らのアジトにあっさりと侵入してきたのだ。
「くっさ。なにこの匂い……」
不快な表情を見せる黄緑。そして敵の女妖魔二人を確認。
「へえ、女か。でも残念ね。ワタシはありがちな物語みたいに、美人な敵だからって、情けかけたり見逃したりなんてしないよ?」
容赦なくぶち殺すよと、言いたげにシャドーボクシングする黄緑。
「同性だ。そんなこと期待しちゃいねーよ。ま、死ぬのはてめえだけどなあ」
女妖魔はハーピーに首を動かし、行けと合図。
ハーピーは頷き、空を飛び、黄緑の頭上へ……
「空中戦とは、卑怯なり」
黄緑はどこからともなく、金色のボールを取り出し、ハーピーに投擲!
時速500キロオーバーな速度。
「げっ!?危な!」
突然の不意討ちだったが、なんとか回避するハーピー。
ボールは天井をぶち抜いていった。
「当たるまで何発も投げるよ」
「ちい!!」
ハーピーは黄緑めがけて突撃してきた。
近寄って来るなら都合がいいと黄緑は思い、拳を握る。
(バカめ!あの小娘ハーピーに単純に殴りかかる気だな?)
女妖魔は笑みを浮かべた。
(ハーピーの能力は受けた一撃を倍にしてはね返す反射攻撃だ!渾身の一撃で来るなら好都合!始末しろハーピー!)
ハーピーは羽を前にだし、黄緑の一撃に備える。
……女妖魔もハーピーも、勝ちを確信しているだろう。
だが、ハーピーの能力に穴があることに二人は気づいてなかった。
倍返しは、あくまでも一撃を受ける必要があるのだ。
――何が言いたいかというと……
その一撃で絶命したら意味がないって事だ。
「えいっ」
黄緑の放つ拳は、ハーピーの翼と腕を貫き、そのまま腹部をぶち抜いた!
「ごばあ!?」
ハーピーは大量の吐血。
目は一瞬で白目を向く。
「わっ、汚な」
黄緑は拳を手刀に変え、貫いてる右腕でハーピーの体を膾切りにした。
よって、ハーピーはバラバラになり、消滅した。
「なんか拭くものないかな……」
ついた返り血が不快だったのか黄緑は辺りを見回す。
「あ、ポケットテイッシュあったんだった」
まだ敵は残っているのに、腕の血を拭き取りだす。
あからさまに眼中にないと言った態度。
――残された女妖魔は冷静だった。
(ああも簡単に殺られたとなると、土じゃなくて金属性っぽいな)
女妖魔は魔力を放出。
すると周囲が熱気に包まれる。
「暑っ!」
黄緑は急な体温変化に驚く。
周囲の熱は火山の火口と思われるほどの高温高熱に囲まれる。
そして女妖魔の足は人魚のように変貌、そして全身に溶岩か流れ出る。
種族としてはラミアといった所だろうか?
海ではなく、溶岩の海を泳ぐ人魚なわけだ。
「あたいのマグマで何もかも溶かしてやるわ」
全身溶岩人魚。殴りかかればこちらの腕が溶ける、誰もがそう思うだろう。
「うわ、熱そう。さすがに素手じゃ殴れないかな?……そういえば青くんが言ってたっけ、ワタシは体を硬質化できるって」
黄緑は自らの腕を黄金色に変色させた。まさに金属のよう。
(やはり!金属性!勝ったな)
女妖魔は余裕の笑みを浮かべた。
属性相性的に火は金に強い。確かにその通りだ。
だが、またも失態をおかしていることに気づいていない。
相性は所詮相性だということだ。
例えるなら、山火事現場にじょうろの水をかけるくらいで消火できるだろうか?
当然無理な話だ。
何が言いたいかというと……
「えいっ。
「――!?」
魔力の差がでかすぎるなら、相性などひっくり返せるって事だ。
硬質化した黄緑の拳は巨大化、女妖魔の全身より大きくなる。
そんな、まさに金属の塊のような物体が、女妖魔に直撃する!
「ぼはっ!?」
すさまじく重い一発。一瞬で気を失いかけてしまう。
――が、なんとか耐え反撃をこころみるが……
「頭上にご注意くださいね~」
黄緑の発言の後、女妖魔の頭上から鉛の重りが落下してきた!
女妖魔は今の一発で身動きがとれずに……
――押し潰された。
「ぎぃやああああ!!」
黄緑は自らの拳を見る。
「わあ、本当に出来たよ。ちょっと溶けちゃったけど」
金属の拳は溶岩を殴ったことで、わずかに溶け始めていた。しかし拳を元の姿に戻すと、なにもなかったかのように綺麗な拳に戻る。
ダメージはほぼないに等しかった。
「でも金属性って本当に魔力の物質化できるんだね。ぶっつけ本番なのに上手くいったよ」
どうやら重り攻撃は今初めてやったことのようだ。
魔力の物質化など一朝一夕でできるものではない。
黄緑の戦闘センスはそれだけ優れているということだろう。
「名前どうしよう……またエンジェルってつけようかな?」
「な、に……が、エンジェルだよ」
女妖魔は擦りきれそうな声をなんとかだしていた。
ちなみに溶岩は消えている。あまりのダメージで魔力がなくなったのかも。
「天使……?悪魔の間違いだろこの、化け物女……」
「うっさい」
黄緑は唾を女妖魔に吐き捨てた。
……敵とはいえ女に唾を吐き捨てるヒロインなどいるのだろうか?
「もう、安全だから入ってきていいよ先輩」
黄緑がそういうと、部屋に恐る恐る秋葉が入ってくる。
「な、なんかすごい戦いだったみたいでござるね……」
「まあね。――さて、とどめさそうかな……」
と、黄緑が思った矢先――
パチパチと、大きな拍手が鳴り響く。
「見事、素晴らしい実力だね。お嬢さん」
気配もなく、部屋の片隅に人の影。渋い、ダンディーな男がそこにはいた。
「誰?おじさん」
つづく。
「おじさんとかどうでもいいから青くんに会いたい……」
「次回 第3勢力?いや、どうでもいいし……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます