人知れずの妖魔

第17話  殺人鬼のニュース

 ――前回までの闇夜の少年挽歌。


 200年もの間、人を喰らいヒッソリと生きていた、旧校舎に住まう悪魔様。

 そんな悪魔様はどんな願いも叶えてくれるという噂を信じ、いじめっこの始末を頼んだ桃泉和花。対価は命。


 いじめっこと和花の命を守るため、青春と黄緑のコンビは悪魔様ことサイクロプスと相対し、無事仕留めたのであった。



 ♢



 ――それから2ヶ月後……


「あ、姐さん!裏路地の方に逃げやした!」


 少年は青春のパートナー、夏野黄緑なつのきみどりに血相変えながら教えた。


 黄緑は指示通り裏路地に向かう。

 そこには行き止まりであたふたしている妖魔の姿があった。


「はい、お仕舞い!」


 裏路地に逃げた小さい鬼のような、ゴブリンのような妖魔の顔面に渾身のストレート!

 妖魔はあっけなく爆散した。


「しゅーりょー」


 黄緑は拳をハンカチでふく。


「姐さん!お疲れ様です!」


 少年は、冷たい缶ジュースを黄緑に渡す。


「ご苦労、二号」


 と、言って缶ジュースを受けとる黄緑。

 二号……前の学園妖魔騒動で助けた、いじめっこ三人の内の一人だ。


 いじめっこ三人は今までの償いとして、青春の仕事のサポートをさせられているのだ。

 黄緑はそれプラス、パシらせている。


 最初は奴隷一号二号三号と呼んでたが、青春に窘められたため、奴隷とは言わなくなった。


 サポートと言っても、三人は力もないから情報収集とかの雑用が基本。今はたまたま黄緑の視界から逃げた、敵の居場所を指示できてたが。


「あれ?終わった感じ?」


 二人の元に青春がやってくる。

 他の悪ガキ一号三号と共に。


「あ!青くん!蹴散らしたよ!」


 黄緑は二号に見せてた不遜な態度を一変、満面の笑みで青春に抱きつく。そしてそのまま頭を撫で撫で。


 青春はされるがまま。


「お姉さん、どんどん強くなってきてるよね。ヒルダの力プラス、お姉さんの魔力も上昇しているみたいだし。そこらの妖魔じゃ相手になってない」

「いや~ん!青くんに褒められちゃった!チューしていい!?」

「……でも最近妖魔が活発だな。ここんとこ毎夜出没してるし」


 完全に無視する青春。


 すると、悪ガキリーダーの茶谷こと、現一号が聞く。


「なあ、闇野」

「さん、でしょ」


 ニコニコだった黄緑が一号を睨みつけた。

 冷や汗ダラダラになって震え上がる一号は訂正して続ける。


「や、闇野さん。妖魔って夜にしか出ないんスか?呼び出しいつも夜だし……」

「基本はね。この前のサイクロプスみたいに昼夜関係ないのもいるけど。妖魔は基本夜に力発揮するからだいたい行動は夜にしてるみたいだよ」


 ちなみに今は七時。夜中ではない。


「三人はもう帰ってもいいよ。夜中まで付き合わせるわけにもいかないし」

「青くん、いつもすぐ帰らせてるけどいいの?もっと長い時間こき使わなくてさ」


 黄緑としては、年がら年中こき使ってやりたいらしい。

 ……相当青春をいじめてたのが許せないようだ。


「僕達中学生だし、そんな夜中までいたら補導されちゃうよ。僕一人ならうまく隠れられるけど。ちなみにお姉さんも夜中まで付き合う必要ないよ」

「いやいや、お姉ちゃんとしては青くんが心配だし」

「心配って、夜の僕の力見たでしょ?」


 先日のサイクロプスに限らず、夜に力を発揮する青春の強さは黄緑はこの数ヶ月でよく見ている。


 単独で危険な目に会うことなどまず考えられない。


「そもそもお姉さんに会うまで単独行動してたし、危険な目にも会った事ないよ」

「油断は命取りだよ?」


 青春は鱗が落ちた。

 至極真っ当な意見だったから。


(確かに、僕には油断があるかもしれない。またサイクロプス並みの強大な妖魔が現れるかもしれないし……)


 さすが先輩、さすが女子高生と、年上としての尊敬を感じる青春。


「……そうだね。油断大敵って言うしね」

「あと、青くん多分人には危害加えないでしょ?だから心配だよ~変態に目をつけられないか~」

「へ、変態?」

「そう!わりと人多い繁華街周辺も、一人になったら見回ってるんでしょ?」


 さすがに女性と子供を引き連れ繁華街は行けないな、と思い、そういう所にいく時は青春は一人で探索、もといパトロールをしてる。


 ――青春も子供だろってツッコミがはいるかもしれないが。


「青くんかわいいし、変態が寄ってきそうで心配なんだもん!」

「……僕は男だよ?」

「変態には性別気にしないヤベーのもいるから!」


 そういう者なの?と、疑問を感じる青春。

 中学生というのもあり、そういう事には疎いのだ。


 でも危険ならなおさら黄緑はつれていけないだろと思う青春。

 とはいえ今の黄緑なら変態など一発KO、下手したら殺しかねないのだが。


「まあ、気をつけるよ。危険ならなおさらお姉さんは連れていけないしね」

「青くん好き!」


 また抱きつかれる青春。

 ち、力が強い。


「とりあえず今日はここまでにしてお家帰ろ!泊まっていきなよ!」


 強引に、人さらいのように黄緑は青春を担いで走り出す。


「ちょ、ちょっとお姉さん!ああもう!帰っていいからね三人共!」


 青春はさらわれながら悪ガキ三人に帰宅するよう叫び、つれてかれた。


 ――ポツンと、取り残された三人は言う。


「「姐さんがその変態なんじゃねえのかな……」」




 ♢




 無事、黄緑の家に誘拐された青春。

 今は黄緑の部屋に招かれてる。


 二人は小さいテーブルを前にし、隣あって座り、テレビを見てる状況。

 青春は反対側に座ろうとしたのだが、黄緑に無理やり座らされた。


 黄緑はニコニコして言う。


「晩御飯まだかな?青くんの好物だといいね!」

「なんか、サキさんにも悪い気がする。僕しょっちゅう来てるし」


 サキ?

 その言葉に黄緑は頬をひくひくさせる。


「誰その女……?青くんに名前で呼ばれてるとかムカつくんだけど……」

「話の文脈で察してよ……お姉さんのお母さんでしょうが」


 黄緑の母はむらさき

 だからサキさん。紫本人の要望で、青春はそう呼んでる。最初はちゃん付けを要求されてたが。

 ※6話参照。


「はあ?あの若作り、青くんに名前で呼ばせてるの?まったく……」


 突然部屋のドアが開く。


「黄緑ちゃん?なんか言った?若?」

「ママ!若い!綺麗!とても50代には見えない!」

「――まだママ、50にはなってないんだけど?」


 冷や汗が洪水のように流れる黄緑。


「青春くんがいるから今日は何もしないけど……今度お説教ね?あと二人共、お風呂入っちゃいなさい」


 バタンとドアが強くしまった。

 相当お怒りなようだった。


 黄緑は母がいなくなったのを確認するとすぐに青春を見て言う。


「……お風呂だって」

「うん。聞いてたけど……お先にどうぞ」

「一緒に入る?」

「……遠慮しとく」


 青春は顔をそらす。照れてるのかもしれない。

 黄緑は笑顔で青春に抱きつく。


「照れてるの!いやん!可愛い!!」

「ち、違うって離れて……そもそも中学生と風呂一緒に入るとかありえないでしょ」

「ワタシは青くんなら気にしないよ!」

「僕が気にするって……もういいよ、僕が一人で先に入る――」


 青春はテレビに目がいく。


『昨夜未明、東京都内〇〇地区で起きた猟奇殺人事件の犯人が逮捕されました』


「猟奇殺人事件?」

「ああ、なんかあったみたいだね〜でも人のやった事だし妖魔は関係ないでしょ。逮捕もされたみたいだし、死刑だろうね」

「……」


『なお容疑者は犯行を否定、覚えがない、何も知らない。化け物を退治しただけなどと供述しており――』


「化け物を……退治?」

「……カメラとかどこかにないかな……」


 ――つづく。


「カメラなんてどうするんだって?フフフナイショー」


「次回 調査 なにを?」


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