第46話 ふわふわ熱々の丸いお菓子

「よし、じゃあ次はボクの番だね」


 ルーとノインが和解する様子を見ていたメルは、姉が取って来た大量のアポルを使って料理を始める。


 まずはアポルを小さく切って鍋に入れると、そこに砂糖とバターを加えて煮詰めていく。


 水分がなくなるまでしっかりと煮詰め、アポルのコンポートを完成させたところで、メルはドラゴンとなったルーの背中の上で作っていた生地を取り出す。


「おおっ、柔らかそう……これって大きくなってるんだよね?」

「そうだよ、発酵が進むと二倍ぐらいに膨れ上がるからね。これから生地を切り分けていくから、よかったらルー姉も包むの手伝って」

「わかった」


 ルーが頷くのを見たメルは、発酵して大きくなった生地を、薄力粉を振ったまな板の上に取り出し、転がして棒状になるように伸ばして包丁で均等に切っていく。


 均等に斬った生地に薄力粉を振り、手の平で潰した後、麺棒を使って円盤の形になるように伸ばしていく。


「はい、ルー姉、お願い」

「任された」


 メルから生地を受け取ったルーは、スプーンでアポルのコンポートを適当に取って生地に乗せると、手で転がすように包んでいく。


「こんな感じでいい?」

「うん、充分。ルー姉、こういう作業得意だよね」

「メルのパパに教わっていっぱい練習したからね」


 得意気に胸を張りながらルーは続けて二個、三個と生アポルのコンポートを生地で包んでいく。


「じゃあ、後はこれを蒸していこうか」

「わかった。用意する」


 メルがステンレス製の蒸し器を用意し、下に洗った葉を敷いて丸い饅頭を並べている間に、ルーが薪を組んでブレスで火を熾し、蒸し器を置くための竈を用意する。


「メル、できたよ」

「こっちもできたよ。それじゃあ、蒸していこう」


 メルは火の上に置かれた網の上に蒸し器を置くと、火の様子を見ながら饅頭を蒸していった。




 およそ十五分かけてじっくりと蒸している間に、フェーは五個ものアポルを食べていた。


「ピピッ、ピイイイイィィ!」

「ええ、まだ食べるの……」


 すっかり元気になった様子のフェーを見て、ノインは困ったように笑いながら次のアポルへと手を伸ばす。


「……あれ?」


 だが、ノインの伸ばした手はアポルを掴むことなく空を切る。


「ルーさんから貰ったアポルなくなっちゃったみたい」

「ピィ、ピィ!」

「うん、わかってるよ。ちょっと待ってね」


 早くとせがんでくるフェーの期待に応えるため、再び木に登ろうとするノインであったが、


「フフフ、ノインちゃん。ちょっと待って」


 そこへ蒸し器を手にしたメルが現れて待ったをかける。


「アポルを使った料理ができたから、よかったらフェーちゃんにこれをあげて」


 そう言ってメルが蒸し器の蓋を開けると、ぶわっ、と大量の蒸気が中から溢れ出して視界を奪う。


「わわっ!?」


 驚きの声は一瞬、すぐさま視界は晴れてノインの眼前にふっくらと蒸しあがった白い饅頭が姿を現す。


「わぁ、おいしそう」

「よかったらノインちゃんも一緒にどうぞ。お腹空いたでしょ?」

「あっ、はい、それじゃあ遠慮なく」


 ノインは蒸し器の中から饅頭を一つ取ると、真ん中で二つに割ってみる。


「わぁ、中からアポルの甘い匂いが溢れてきます」


 本当は真っ先にフェーにあげるべきなのだろうが、甘い匂いの誘惑に負けたノインは「ふーっ、ふーっ」と中身を冷ましてから頬張る。


「はふっ、はふっはふっ……」


 十分に冷ましたつもりでもまだ熱かったのか、ノインは口内に空気を送りながら咀嚼する。


 ほんのり甘い皮と、煮詰めたことで甘味が凝縮されたアポルの濃厚な旨味に、ノインの目尻が喜びで下がっていく。


「すっごくおいしい……ほら、フェーちゃんも食べてみてよ」


 フェーが火傷しないようにと饅頭の中身を十分に冷ましたノインは、大きく開いて待っているくちばしの中に饅頭を放る。


「どう、おいしいでしょ?」

「ピィ、ピイイイイィィ!」

「でしょ? おいしいよね」


 激しく羽根を動かして全身で喜びを表すフェーに、ノインは残った饅頭を食べて幸せそうな笑みを浮かべる。


「メルさん、これ、とってもおいしいです」

「でしょ? 実は物見の間でアポルの匂いを嗅いだ時から、アポルで饅頭を作ったら絶対においしいと思ったんだよね」


 メルも饅頭を一つ取ると、大きな口を開けて一気に頬張る。


「う~ん、おいしい。やっぱり寒い日は肉まんが食べたくなるよね」

「中に入っているのは肉じゃないけどね……うん、おいしい」


 指に付いたアポルのコンポートをペロリと舐めたルーは、妙案が思い付いたように顔を上げる。


「メル、今からそこら辺にいる肉を獲って来るから、それで肉まんを作ろう」

「ええっ!? 嫌だよ、そもそもボク、野生動物を解体することなんてできないよ?」

「大丈夫、肉をちょっと取るだけなら私ができる」


 鼻息荒く捲し立てるルーであったが、メルの表情は優れない。


「だから嫌だって、お肉を一から調理していたら朝になっちゃうよ」

「ううっ、メル……お腹空いたよ」

「だからこのアポルまんで我慢してよ……あっ、でもフェーちゃんたちの分もあるから全部食べちゃダメだからね」


 その後もメルとルーは姦しく騒ぎながら、作ったアポルの饅頭を残らず平らげていった。

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