落ちこぼれトナカイとサンタクロース

まめでんきゅう–ねこ

めちゃくちゃ嫌味を言ってくるサンタクロース

「ぼーっと立ってないで、少しは練習したらどうだい?

そうやって無駄な時間を過ごすのが夢なのかい?」


サンタクロースが、待機部屋でぼーっとしている落ちこぼれトナカイのランに無線で言った。


ランは仕方なく、剣の練習をし始める。


彼が今いる所は、サンタクロース率いる〝クリスマススター〟という組織の派遣先へ向かうヘリを待機する部屋。

魔王軍が奪おうと企む幻のおもちゃ〝世の王〟を守るため、魔王軍が侵攻してくる場所へ、これから彼ともう3人の合計4人は、派遣されるのだ。



「ヘリが到着しました!

派遣トナカイは、すぐヘリに乗りこみなさい」


アナウンスが部屋中に響き渡る。


ランを始めとした4人のトナカイがヘリへ乗った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




世の王がある丘〝王世界の座〟へ、ヘリが到着。


トナカイたちは丘へ降り立った。



あと10秒ほどで魔王軍の前線部隊がやって来る。



「さぁ、なんとしてでも世の王を守るのだ」


サンタクロースが言うと、地面の下から青い花が現れた。


この花こそが、世の王であり、全ての王となる〝おもちゃ〟である。

世界でも特に危険な物の1つで、この丘に封印されていたのだが、魔王軍がそれを奪いに来たのだ。


下手に使うと、世界そのものが、この花に支配されてしまう。



だから、サンタクロースは組織を形成して守る必要があった。



「さあ、来たな魔王軍」


サンタクロースがスピーカーから叫んだ。

ランが魔王軍に向かって走り出し、剣を振る!



豚のようなモンスターを連れて、巨大な蛇のモンスターが、ランに噛みついた!


彼は急いで距離を取る。


「今の蛇はどう見ても君を狙っていただろう。

どこに目がついているのかね、君は」


ランは落ち着いて、魔法を唱え、蛇を始末した。


しかし軍勢は、丘の上にある世の王に向かってどんどん攻めてくる。

サンタクロースはまた彼に言った。


「ラン、君は足が遅いな。ネズミの魔物に抜けられているではないか」


ランの背後には、小さなネズミが素早く走り、世の王を掴み取る!


その直後、味方のトナカイが、ネズミを魔法で倒した。


「君はもう少し、仲間に恵まれていると思った方が良いね」



ランは不服そうな顔をして、また来たネズミを、正面から攻撃する!


しかし、また抜けられてしまったようだ。


「再放送かな?」



「チッ」


「おいラン、今 舌打ちしたな?あまり調子に乗るな。

成績も高くないくせに」



ピュンピュンピュン


突然ミサイルが飛んできて、ランの足元に落下し爆発する!


「運良くぶつからなかっただけだ。ミサイルに感謝しなさい」


ランは剣からビームを撃ち、ミサイルを飛ばしている鳥へ攻撃した!




しかし…………ビームが当たらない。



「だから練習しなさいと言ったんだ。

明日は私が直々に稽古してあげるから、申し訳なく思いなさい」


「チッ」


「だからその、高いプライドをどうにかしたらどうだい」


「……」


「無視するな。明日は今日よりも、みっちり働いてもらうからな」



鳥は、ランがビーム撃つのを下手だと確信すると、彼を煽りまくった。


ランは冷静さを失い、鳥に向かって剣をぶん投げる!


サンタクロースは怒鳴った。


「何をしている、ラン!

落ち着け。少しは頭を冷やせ。お前は頭も使わないと、魔物と渡り合えないバカなんだぞ!

私が指導しているから、まだ生き残ってはいるものの…」


「うるさい」


「は?今なんて言った?」



「…………」


「私はもう君の監視遊びに疲れた。

君、今日の給料は無しで良いね?」


「……ごめんなさい」


「ごめんなさいが聞こえない」



「ごめんなさい」


「すみませんでした…と言うべきではないか?

上司に向かって、ごめんなさいとか…。

まぁ君の頭じゃ、その程度が限界だろうね。

私が頑張って限界を伸ばしてやっているのに……」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




魔王軍の軍勢を撃退した派遣トナカイたち。

ランだけが息切れしている。


「ふぅ、なんとか世の王を守り抜く事ができたね。

さぁ、早く帰ってきなさい」



デーーデーーデーーデーー!



「おや、警告音だ。もしや…」



ズバァァァァァァァァァァァァン



突然、地面を突き破って、巨大なカニが現れた!

サンタクロースが焦る。


「ヤバいな…魔王軍の最強生物セブンの1人、カニドーラクだ。

ちょっと、残業 頼むよ。君たちでカニから世の王を守るのだ!」


他のトナカイたちは、カニへ突撃していった。


しかしランは動かない。



「どうした、ラン。早くカニドーラクを倒しに行きなさい。

まさか怖くて足が動かないのかね?

全く、君の精神性には心底呆れたよ。

どうして私が君のような失敗作を帰らせないかわからないか?

私は、君に期待しているからだよ」


ランはビクっとし、剣を握り締めた。


そして、カニに向けて魔法の弾を撃つ!


ズドォンズドォンズドォン



しかしカニの体を覆う殻は、魔法の弾ごときでは通用しない。むしろ跳ね返されてしまった。

もっと強い魔法を当てる必要がありそうだ。


そうこうしている内に、他のトナカイたちは、カニの巨大なハサミで吹き飛ばされてしまった。


そして、目からビームを、ランに向けて発射!



ズドォォォォォォォォォン


ランの右足に、ビームが命中してしまった!


シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


彼の足が焼ける。


「ラン、君の目はどこについてるんだい?

敵の動きをよく見るんだ。君なら見えるはずだ。

カニドーラクはビームを撃つ時、目が赤く光る。そうなったら、物影に隠れるようにしなさい。

まだ時間はある、頑張れ」


ランは魔法を唱えながら、カニによるハサミの薙ぎ払いを避け始めた。


範囲が広く、これだけでも大岩を砕くほどの威力。



トナカイたちは、そんな攻撃をスレスレで躱し、カニの口元に爆発魔法を入れた。


しかしその時…!



ボワボワボワ……


カニの口の中から、巨大な泡が複数放たれた!

トナカイたちは、その巨大な泡に捕まってしまう。



残ったのはランだけだ。サンタクロースは叫ぶ。


「ラン、今 仲間を助けにカニの近くまで行くと、君も泡に捕まってしまうぞ。

今回ばかりは、彼らが奴の気を引いている隙に逃げなさい。彼らは明日、他のトナカイたちに救出するよう頼む!

君じゃ、彼らを救う事は難しいぞ!」



しかしランは、サンタクロースの言う事を無視して、カニにビームの魔法を撃った。


ガツンッ



そのビームが、カニの殻に反射して、トナカイたちが閉じ込められている泡にぶつかった!


おかげで泡が割れて、トナカイたちが解放される。

サンタクロースは驚愕した。


「なるほど、奴の硬い殻を利用して、仲間たちを救出したか。

よくやった、ラン。しかしまだ油断するな⁉︎

カニドーラクを倒すまでが仕事だ。君ならそれができる!」


ランは小さく頷き、魔法の弾をカニの目に撃ちまくる。



しかし突然、カニが大きくジャンプしてきた!


ランを踏み潰すつもりだ。



サンタクロースが注意しようとしたが、ランは予測していたのか、すぐさま後ろへジャンプし、カニのボディプレスを避ける。


ドォォォォォォォン


「(カニドーラクの行動を予測していたのか⁉︎私ですら、今のはわからなかった…さすがだ)

よし、カニドーラクの殻も攻撃を浴びせ続ければいつかは壊れるな。そのまま順調に攻撃していきなさい」



ランは焦りながらも、魔法の弾をカニに撃ち続けた。


カニは池の中に入り、ハサミを振り回す。


シュッッ


ランは、一瞬 足を止めた。奴のハサミが鼻に掠ったからだ。

ここで止まっていなければ、頭を持っていかれた事だろう。


「(まだ冷静だ。夜遅くまで自主練している成果が出ているな。私は知っている)」



ランは剣を縦に振った!


その直後、ハサミの右目が吹き飛ぶ!

どうやら、を放ったらしい。


「(ここで私が稽古した、飛ぶ斬撃を使うとは、しっかりしているな)

おおっ、カニドーラクの殻の一部が取れたぞ。奴の体へ直接 攻撃できる!

皆んな、最後の攻防だ!」



サンタクロースが叫ぶと、ランと他のトナカイたちが、カニの殻の取れた部分に向けて、攻撃を繰り出した!


「グォォォォォン」


カニがその事に気づき、逃げようと試みる。



「(あぁ、逃げられてしまう!早く奴を倒さなければ!)」


その時、ランがカニの前に現れ、奴の足を切った。


ブシャァァァァァァァ


「グォォ⁉︎」


カニが転倒する!



ズドォォォォォォォォォン



「(よくやったラン!)」



他のトナカイたちはカニに攻撃の雨を浴びせ続け、ランは魔法を唱えた。


そして、唱え終わると、剣をカニの心臓に向けて、光を発射!!



ズバァァァァァァァァァァァァン



カニの体は、光に飲まれて爆散した。


「よっしゃッッ」


サンタクロースが思わず叫ぶ。


「(声が大きかったかな…)」




なんとか、カニを倒したランたち。

サンタクロースは安心すると、トナカイたちに言った。


「さぁ皆んな、帰っておいで」



ランは、少しニヤつきながら、ヘリに乗る。

頑張った甲斐があったようだ。

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