第6話 俯瞰二週間

 ゲームに取り込まれてから、2週間。

 俺は戦って戦って戦いまくっていた。


 『ガーデン』は時計に見立てられた世界だ。

 1時から12時までのピザ状に切り分けられた12エリアから成る構造であり、敵の分布もエリアごとに全く違う。


 敵となるモンスターは1が一番弱く12に行くほど強くなる。

 そして各エリアにはボスが存在し、魔針体と呼称されている。


 各エリアは、必ずしも順番にクリアする必要はないが、魔針体討伐時の入手武器のレアリティを考えると順に攻略するのが一番楽だ。


 これまでに、1時から4時までの魔針体が討伐されており、2時の魔針体・『巨人ウォークライダー』を倒したのは†クロスファイア・クロス・クルセイド†――クロスだという。


 有名プレイヤーはこちらでも実力者ということか。敵の挙動を熟知しているというのは相当な強みだろうから、当然か。


 ともあれ、現在はまだ半分も攻略されていないわけだ。


 5時の魔針体、首無し騎士の『首狩りサンシャイン』は一撃死の攻撃を持つため、みなが二の足を踏むのもわかる。

 そこにこの2週間、ずっと挑戦していたわけだ。


 幸い、仕様を完全把握しているのと長時間に渡るデバッグで攻略法はわかっている。


 即死攻撃である大槍・大貫き丸――「だいつらぬきまる」のつもりが、「おおぬきまる」とプレイヤーに呼ばれているうえ、「なんで首狩りなのに鎌じゃないんだ」とかさんざん言われた――の突進に気を付けていれば問題ない。


 恐怖心さえ捨てて、集中すれば勝てない相手ではないのはわかっていた。


 攻略法を自分の体で再現できるように何度も挑戦し、体力が少しでも危険域になったら撤退を繰り返した。


 そうして挑戦するうち、体の動かし方もわかってきた。

 この体は、俺本人ではなく、シグマという戦士のものだ。


 だから、クロスが最初に大ジャンプして現れたように、現実の人間の限界は大きく超えた動きができる。筋力も、敏捷性も、耐久力も、スーパーヒーローとはいかないまでも、トップアスリート以上の超人的なものだ。


 この身体能力を上手く使いこなせるようになったとき、攻略が劇的に楽になった。

 プレイ感覚に近い精度で、攻撃や回避出来るようになったわけだから、あとは慣れたもの。


 ゲームプレイのおかげか、自分を俯瞰して見ているような感覚。

 この俯瞰のスイッチを入れると、ゲーム攻略と全く同じ攻略が可能になる。


 いわば、自分をプレイヤーキャラとして自分で操作しているわけだ。


 もちろん実際にオカルト能力として意識を自分の上空に飛ばしているわけではない。一流のサッカー選手などがやっているような、視野の広いプレイングに当たるものだと思うが、脳内のイメージとしてはゲーム画面が一番近い。


 こんなことが出来るだなんて自分でも思っていなかったし、この世界に来た副作用みたいなものなのかもしれない。

 難点を上げるなら、相当脳が無茶しているのか、頭痛や疲労が激しいことくらいか。


 脳が別の光景をシミュレーションして再現しているわけだから、消耗も激しいだろうし、このくらいのデメリットがあるのは当然かもしれない。


 何にせよ、視野狭窄せずに戦えるので、大貫き丸の即死攻撃を余裕もってかわせるようになった。


フレーム単位で攻撃の予備動作を覚えているのもあるし、仮に忘れていたとしても自分ならこう設定すると考えて動けばいいから、即死以外はシンプルなコイツに手間取る理由もない。


 そうして、首狩りサンシャインを討伐。

 結果的に、俺はここ1か月ほど停滞していた局面を打ち破ったらしい。


 正直、あまり他のプレイヤーを死地に送りたくないので、ソロプレイに徹していた。会話も教会にいるリュウズくらいとしかしていない。


 だから他プレイヤーの状況はよく理解していなかったのだが――

 討伐から帰ってきた酒場は大騒ぎになっていた。

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