俺の作ったゲームに転生したら殺意が高すぎる誰が作ったんだ
がっかり亭
第1話 自作召喚
広島県尾道市。
風光明媚な瀬戸内の街。
寺社仏閣が多く、若者にはやや渋すぎるきらいはあるが、のんびりしたところだ。
俺、
山に沿って長い階段が続き、そのまま頂上の千光寺公園まで通っているのだが、その脇にある古民家がマイホームだ。借家だけど。
俺はそこで一人、ずっとゲームをいじっている。
遊んでいるわけじゃない。
いや、遊んではいるが仕事だ。いわゆるテストプレイというやつだな。
対象は俺自身が作ったゲーム『ソードガーデン』、通称『ガーデン』だ。最初『ソガ』とか言われていたので、公式から略称を出したけど。
ジャンルとしては3Dアクションであり、RPGでもある。
ファンタジーな世界で怪物を倒していくシンプルなゲームだ。
いわゆるインディーゲームというやつで、ゲーム会社ではなく俺個人で作ったもの。
と言っても、俺にできるのはゲームデザインとプログラミングの一部だけ。
もともとは汎用のフリーのゲームエンジンでゲームの基礎部分を、3Dのキャラクターや背景などのアート素材やサウンド素材はフリーのものを使い、ver.1.00を作った。
それを配布サイトで公開していたんだが、思いのほか好評で、クラウドファンディングで資金を調達し、そのお金でアート素材、サウンド素材を差し替え、更にサーバーをレンタルしてネット対応をしたのがver.2.00だ。
これは正直、自分の想像をはるかに超えるヒットになって、日本製インディーゲームとしては破格の300万本の売り上げになっている。
狙ったことではなく、本当にまぐれとしか言えないが。
ver.2.00の公開に合わせて1.55(ver.1の最終アップデート)を無料配布したのがよかったかもしれない。これがかなり話題になってたくさんの人が遊んでくれたのだ。
実際には体験版を作るだけの余力がなかったので、過去バージョンを無料配布しただけだったのだが……まぁ結果オーライだ。
そして、今プレイしているのがver.3.00。
一般にはまだ流通していないどころか、制作者の自分しか触れたことのないものだ。
制作者特権ともいえるが、実際にはバグを見つけて潰すデバッグにすぎない。
と言っても、もうここまで大きなゲームになっているからデバッグはその専門会社に依頼する予定なので、自分で回しているのは自己満足に近い。
もはや一人で管理できる規模では本当はないんだけど、苦労して作ったものをどこかの会社に売るのも嫌だし、自分でパラメータを調整するのが好きなので、少なくともこのver.3.00のうちは自分でやりたい。
もう2年もかかりきりで、アラサーになってしまったが……まぁそれはいいだろう。
失敗だらけの人生で青春らしい青春はなかった俺だが、このゲームがヒットしたおかげで、少なくとも今後食いっぱぐれる心配だけは無くなった。
ところで、このゲームのウリは、「死に覚え」のバランスにある。
死んで死んで、その中で攻略法を見つけていき、あるいは体で覚え、突破していく。
だから、敵や仕掛けに歯ごたえが必要だが、理不尽ではいけない。
事故みたいなやられ方や、避けられない攻撃がないようにしつつも、楽勝にならないようにバランス調整する。
上手く調整できた時の脳汁の出るあの感じはやめられない。
それは、難しい敵を倒せた時の達成感とよく似ている。
つまり、この脳汁が出る感覚を、プレイヤーが味わってくれるかと思うと嬉しいのだ。
「ふへ……」
変な笑いがこみ上げる。
考えてみれば、俺と他人の繋がりはこのゲームにしかないのかもしれない。
素材発注先とはメールとチャットツールだし、プレイヤーたちとは直接のコミュニケーションは取らない。
そもそもベタベタした人付き合いがイヤで、このゲームには協力プレイはあっても、チャットやボイスチャットは入れていない。
身振り手振りで教えるしかないシステムだ。
でも、それが自分にとって一番都合がいいと思ったし、それが受け入れられたってことは需要もあるんだろう。
だから、直接人と会って話すのも、今はほとんどない。
虚しさがないと言えば嘘になる。
いい年した成人男性だ。彼女だってほしい。
でも、それはそう思うだけだ。
結局、目が回るくらい考えても、ゲームを作る以外、自分にはできない。
だったら開き直って、自分の全部をこのゲームにブッ込んでやる。
そう決めて、走り続けてきた。
ある意味、ver.3.00はその集大成だ。
デバッグにも力が入る。
力みすぎて、コントローラーを握る手が汗ばんでいた。
今回のテスト用にエディットしたプレイヤーキャラは、ジョブは鎧剣士の男性。
黒髪長身の細マッチョというベタな姿にしているが、これはフラットにテストしたいので敢えてそうしている。
趣味に振るなら、女性アバターにする。なぜかって、そりゃ、カスタマイズはそのほうが楽しいからだ。
そうだな、例えば金髪巨乳ツインテールなんてベタ中のベタのほうが楽しそうだ。
……とそんなことはいい。
とにかく、我が分身、シグマを駆り、何度やったかわからない開始時のチュートリアルを進めていく。
世界観からボタン操作まで、軽めのチュートリアルが終わると、いよいよ『ガーデン』の本編が始まる。
セーブポイントを兼ねた少女・リュウズがそれを導いてくれる。
リュウズは真っ白いワンピースに、巨大な麦わら帽子、その帽子のつばは歯車になっているという見た目で、名前をver.1.12で公開するまで「ギア娘」、「ギア子」、「麦ギア」なんて呼ばれていた最初期からいるキャラだ。Ver.1.02からいるので最古参NPCと言っていい。
それだけに、何度会っても愛着は消えない。
『ガーデン』の始まりは、どのバージョンもいつもリュウズからだ。
リュウズは、ver.2.00からボイスつきになり、自分が大ファンの声優・
あの「ようこそ」を今日も聞くのだ。
モニタの中のリュウズがプレイヤーに向かい、口を開く。
「助けて……!」
え?
違う。ここは「ようこそ」だ。
バグか?
それも違う。
だって、「そんなボイス収録していない」のだ。
素材として存在しないものが、出るはずが――
「げ、幻聴か……?」
次の瞬間、猛烈な光に、俺の意識は刈り取られた。
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