わんにゃんだーフルLIFE! 〜異世界転移した野良猫🐱と野良犬🐺の物語🌈〜
ほしのしずく
第1話 知らない空
ここはエルフやドワーフ、獣人に竜人。
そして、人族。
さまざま種族が共存している異世界。
世界の中心には、世界樹が存在し。
空気中には、マナと呼ばれる魔力が漂い。
ステータスオープンと言えば、当然のように自身のステータスとレベルやスキルが開示され、そこから個人の才覚を見出すことで、生きる方向性を決めていく。
魔法のない世界に住む人間なら、誰しも憧れる場所。
そして、西暦2023年――。
日本の路地裏で行われていた犬との戦い最中。
幸か不幸か、そんな世界に猫は転移してきた。
でも、猫はまだ何も知らない。
自身が魔法を使えることを。
想像もつかない猫生を送ることを。
猫だから――。
◇◇◇
広大な草原の中で、1匹のメス猫が仰向けになっていた。
「にゃ……? にゃあ……にゃ?」
(アタイは一体……? 確かアイツとの一騎討ちをしていて……そっから、どうなった?)
猫は野に放たれ、過酷な生存競争の世界を生きてきたメス猫。
つまり、野良猫である。
ただ、野良猫といってもそんじょそこらの猫ではない。
耳は綺麗な三角形。
毛並みは、すべすべした短毛で。
毛色は、白ベースで日光が当たると輝く白銀に光り。
瞳の色は、オッドアイで左がロイヤルブルー、右がワインレッドをしていた。
それだけでも、十分珍しいのだが。
なによりも、凄いのは。
自身がアイツと呼ぶ、同じく野に放たれた犬と、日本を東西に分ける熾烈な縄張り争いを繰り広げてきた、野良猫界のトップオブトップ。
クイーンオブザクイーンということだ。
またの名を、真紅のざくろ。
戦った相手の返り血を浴び、真っ白な毛並みをざくろ色に染めた姿を恐れた者たちが、いつしかそう呼んでいた。
それが、猫の名の由来。
ざくろの頭上には、知らない空が広がっており。
まん丸で蜜柑みたいな色をした月が1つと、その横を太陽が寄り添うように存在していた。
そこを、「ピゲェェェー」と鳴く、7色を体をした大きな鳥が飛んでいる。
「にゃはっ……!? にゃあー?! シャァァァッ!」
(太陽と月が一緒に……?! てか、あの空に飛んでいる馬鹿でかい鳥、な、なんなんだよー?! 見ているだけで毛が自然と逆立っちまうよ!)
彼女は混乱していた。
一緒に存在することのない太陽と月を目にし。
それどころか、日本で見てみきたどの生物よりも大きな奇々怪々な生物を前にして。
それでも、今まで積み重ねてきた大きな相手との戦いがざくろを奮い立たせる。
(大丈夫、大丈夫だ。たかだか太陽と月が一緒にいるだけだ。それに空を飛んでいる鳥もデカいだけのただの鳥。アタイだっていくつもの死線を乗り越えてきただろう。正気を失うなアタイ。アタイは吠える犬も黙る、真紅のざくろだ)
それから、しばらくして――。
◇◇◇
――奇々怪々な7色の鳥は、地平線の彼方へ消えていった。
「ふにゃぁ……にゃぁぁ」
(何とか、取り乱さずに済んだ……危なかった。そのまま大きな声をあげていたら、命の危機に繋がっていたかもしれねぇ……)
叫ばずとも、反射的に毛玉のようになってしまった体をくるりと回転させて、体勢を整えた。
「にゃっ、にゃにゃ? にゃふん――」
(そういや、あんのっ、憎たらしい犬っころは、一体どこに行きやがった? アタイとの決着は済んでいないのに――)
九死に一生を得たはずの頭の中は、野良犬クロ。
またの名を、常闇のクロ。
闇の中から、突如現れ敵を咥えて消えていく姿が、名の由来。
そんな彼のことでいっぱいになっていた。
それもそのはずで。
度重なる戦いの果てに野良猫の中で、ざくろに意見をする者も居なくなってしまっていた。
そんな猫生の中で、野良犬クロの存在は、対等にものを言い合える最高の好敵手だったからだ。
種族は違えど、お互いに同族から、畏怖される存在。
西を統一する猫のトップ。
東を取り纏める犬のボス。
もちろん、出逢った頃は、本気で殺し合っていた。
彼女は鋭く尖った爪で、彼の皮膚を抉り。
対する彼も大きな牙で噛みつき肉を裂く。
それは、お互いの群れを種族を存続させる為の仁義なき戦い。
だが、その関係は縄張り争いをするたびに、爪と牙ではなく、肉球との肉球で語り合い。
顔を会わせれば憎まれ口をたたくことは、変わらないが、時が流れるに連れて、心の奥底では通じ合うようになり。
いつしかざくろが本当にピンチの時は、クロが颯爽と現れ。
また、彼がピンチの時も彼女もまた駆けつけるような不思議な関係となっていた。
そのクロの外見は、ピンと立った耳に長めの鼻先。
毛並みは、ふさふさとしており、その外見的特徴は、狼に近く。
毛色は漆黒で、太陽に照らされると艶のある漆黒が際立つ。
瞳の色は、海のようなコバルトブルー色をしていた。
「……なぉーん。うにゃん」
(……大丈夫だ、アタイ。あいつなら心配ないだろう。まずは、ここが安全かどうかの確認だ)
落ち着きを取り戻す為、毛繕いをした。
ぺろぺろ。こしこし。
すると、突如、顔を青白くしえずき始めた。
「ッング。グッ、グッ……グウッ」
(く、くるしっ)
◇◇◇
―――数分後。
「にゃ……にゃあ……」
(こんな時に限って……毛玉を吐いちまった……)
広大な草原の中に、モザイク処理が必要となる自身の分身を生み出していた。
魔法ではなく、猫の生理現象によりだ。
分身を横目に状況を整理する為、周囲を確認する。
「に、にゃ……にゃあ、にゃ――」
(や、やっちまったもんは仕方ねぇ……それよりもだ――)
目の前には、青々とした芝生らしき植物が一面に生えており。
その先には、3つの頭に鈍く光る金属の首輪。瞳は赤黒く、猫3匹は余裕で入る大きな口。
肉を引き裂く為に発達したであろう鋭い牙のある、どす黒い大きな犬らしきものがおり。
そいつは、不機嫌そうな顔で鼻をひくひくと動かして、涎を垂らし続けていた。
地面に垂れた涎は、ジュゥゥと音を立てて草を溶かしている。
「グルルルルゥ! ガルルルルゥ! ヴルルルルゥ!」
「ふにゃ……うにゃ?! にゃ……」
(ちょっと待ってくれ……あれが犬なのか?! あのデカさは、アタイでも厳しい……)
3つの頭は別々の方向を向き。
常に周囲の様子を確認している。
動作からして、狩りの最中だ。
(まずい……ここはさっきと同じように、息を潜めてやり過ごすしかなさそうだな……ったく、情けねぇ……これじゃアタイを慕ってついてきてくれた子分たちにも、誇れやしない)
自分の不甲斐なさに打ちひしがれながらも、この場は自分の本能に従うことにし、少し離れた背が高い草むらへと、身を隠すことにした――。
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