第37話 煌めく星々
「だからこそ、私は貴女を止めます」
私は懐に潜り込み、武装解除とバイザーの破壊を優先して攻撃を仕掛けます。
「だったら殺してみなさい!」
目元を狙い剣を突き立てますが、紅羽さんの双剣によって剣の軌道を変えられてしまいます。そして、追撃と言わんばかりに大剣が私の後方から薙ぎ払われ、私は前へと回避します。
「剣の軌道が少し鈍い?」
紅羽さんの近くにいると、あの大剣たちは自傷しないように軌道が少し躊躇ったような軌道を描いていることに気づきました。だからといって、紅羽さんの間合いは私が到底防ぎきれない攻撃量であり、紅羽さんの奥義が飛んでくるとなるとまた話が別になってきます。
全距離隙のない攻撃が私に躊躇なく突き立てられ、私の体力もそろそろ限界に近くなっていました。
「ら、埒があきません!」
切り札は制御の効かない、ただ人を殺すためだけに動くマシーンになるのみです。確実に殺すことを目的としてはいないこの状況下ではリスクがありすぎます。しかし、切り札を切らなければ私がやられてしまいます。
「ッ!!」
「貴女のその甘さが命を落とす理由よ」
ほんの僅か、頭の片隅に気を取られた私の隙を見逃さず、紅羽さんは私の全方位に攻撃を配置していました。
「
私は足裏から魔法を放出し、地面スレスレを滑走しながら紅羽さんの股から全方位の攻撃を掻い潜ります。
「いいでしょう。そこまで私にモノを言うんです。覚悟してくださいね」
私は剣を地面に突き立て、剣に宿る炉心の光を白く白く練っていきます。
「
私の周囲に白い幕を形成し、私と紅羽さんしかいない舞台を作り上げます。
「覚悟…して…」
私は剣を紅羽さんへと突き立て、高速で接近します。周囲の大剣すらも反応できずに私を素通りできるくらいの速さで間合いを詰めます。
「やっと正体を現したわね」
紅羽さんは私の姿をみてニヤリと口角を上げて私の攻撃に向かい打ってきます。私の一撃一撃は大剣も合わさり確実に重いものとなっていると思います。しかし、細身の剣で私の攻撃を防いで私に甘い考えをさせない、堅実ながら攻撃性の高い戦術で私はいよいよ後がなくなります。
「なぜそこまで…」
近づく大剣の一つを身を翻しながら斬りつけ、腕ごと大剣をバラバラに切り落としました。
「今の貴女を倒さないと、アタシは絶対にこの先に進めない!アタシの強さの糧となって散れッ!!月下向日葵!!!」
どちらも一歩も退けない状況で刃がぶつかり合う音と立ち位置が目まぐるしく入れ替わります。
「ようやく…分かった…」
忙しく動かされる手足とは裏腹に私の思考は至って冷静でした。
私は紅羽さんの中にあるものが真の弱点だと思いました。紅羽さんは弱い自分を酷く嫌っています。それは自分が強くあろうとする裏の顔であり、自分より強い人間に対しての嫉妬と畏怖、恐怖。紅羽さんの弱さを大きく助長する存在は例外なく恐怖の対象になり得るのでしょう。だからこそ私は紅羽さんの真の強さが好きなのです。
「私は貴女の恐怖や嫉妬を肯定します。そして私は貴女に赦しが訪れること願います」
またすぐにもう一方の大剣へと狙いを定め、再起不能に陥るまでズタズタに切り裂いていきます。
「小細工は効かないって話でしょ!」
切り裂いた鉄屑から紅羽さんが私に対して大きく踏み込んで間合いを詰めてきます。
「
複数に分裂した斬撃が私を逃げ場を無くすよう囲い放たれます。しかし、私だって対策しないはずがありません。分裂した斬撃がちょうど重なる瞬間を狙って剣で防ぎ、私は難を逃れます。
防いだ衝撃と一旦間合いを取るために後ろへと大きく下がります。
「もうこの姿はいい…でしょう?」
そう言いながら私は白の舞台に幕を引きます。
「余計なことしないで!貴女のその姿に勝たないと意味はないの!」
私がこれ以上あの姿で戦わないことに対して憤り、紅羽さんはまたすぎに私へと刃を振います。私はその刃を受け止め、私はまた紅羽さんにしっかりと向き合います。
「あの姿は私自身です。しかし、人を殺すために生み出された偽りの私なんです。あれを殺したとして、貴女の恐る私を超えることができるのですか?」
「何を!」
紅羽さんは鍔迫り合いの状態を振り払い、一度体勢を立て直します。
「今の私こそが貴女の恐れた私です。一切の迷いのない、剣を首へと向けることに躊躇いのない私は強いですよ」
私はいつもの調子に戻り、剣を祈るように掲げます。
「さ、私はまだ負けてませんよ。全力で貴女を叩き潰してあげます」
「やれるものならね!」
純粋な試合のように剣をぶつけ合っていきます。それは先ほどまで殺し合いをしていたとは思えないほどに純粋でした。ただ、相手に参ったと言わせるために。
私は今までとはまた違う、一撃一撃を重要とした戦い方ではなく、流れる連撃を駆使したスタイルで応戦していきます。
横一閃、袈裟斬り、上下段二連。紅羽さんの戦い方についていくため流れるように剣を振います。
「ぐ、さっきよりもッ!」
私の戦闘スタイルが変化し、紅羽さんも私のペースに少しずつ押され始めています。それに、これは殺し合いじゃありません。だからこそ私は勝つことを迷いなく選ぶことができます。
「私は貴女の強さを知っています。私は私の強さを知っています。だからこそ」
私は懐へと潜り込み、柄を畳んで殴るように刃を切り込んでいきます。
「こ、殺す気!?」
私があれだけ殺さないと豪語し命を狙ったわけは、紅羽さんならこの攻撃は防ぐと思い、実際私の刃をしっかり防いでいました。信頼の成せることなのです。
「ご冗談を!」
私は刃を振るった勢いのまま紅羽さんのバイザーを一刀両断し破壊に成功しました。
「なっ!」
そうした後に勢いを殺すために一回転して紅羽さんに刃を突き立てました。
「これで終わりですよ」
「アタシの負けね」
私のこの戦いですべきこと全てを成して、完全勝利を掴み取りました。
「貴女は誰かを守ろうとする強さがあるんです。それに他にもいっぱい。だからこそ力に呑まれないでください」
「そうね。アタシとしたことがどうかしてたわ。ありがとう向日葵」
たとえあのバイザーで紅羽さんの心を掌握していたとして、行ったのが自分自身であるために、少し紅羽さんの中で今回の出来事が残ってしまいそうです。しかし、紅羽さんはそれすら超えていける強さがあります。
「私は貴女を信じていますよ」
「だからってガチで斬りに来なくてもいいんじゃない?」
「それはそれです」
「まったくだわ」
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