第31話 自分は自分のため
「カリム、攻めて」
メルカのこの一声で散った意識が幹部の首へと剣を向ける。
「思い上がらないことね!」
依然として幹部の攻撃は激しく僕が間合いに入ったところであまり変わらないように見えた。しかし、同時に遠近でのレンジか、二人とも近距離のレンジかでは幹部の調子を崩すことができているようで、形勢はかなり持ち直したと言える。
「メルカ、右だ!」
「分かってる。カリムそのままお願い」
このくらいの距離ならばメルカとの連携は少しの声掛けで合わせられる。メルカの高速動いて的確に貫いていく戦い方と僕のヘイトを稼ぎながら肉薄する戦い方はお互いの弱点を補って戦える。
僕が幹部の攻撃に対して確実に止めることを意識して動いているため、メルカが自由に攻撃を仕掛けることができている。若干僕の方は盾がない分、劣勢だけれどこの距離ならまだ剣で攻撃は受け止められる。
「さっきの調子はないみたいだね!」
幹部と剣が鍔迫り合い、金属が擦れる音が鳴り響く。
「油断しすぎね」
幹部を押さえ込ませようと力押しで詰めていく。性別的能力差では僕の方が有利だ。こういった場面では僕に有利がつく。しかし、まだまだ余裕そうな幹部の顔を見るとどこか胸騒ぎがする。
「ハァッ!」
メルカの放った一撃は確実に致命傷を狙う一撃であり、これが決まれば一旦は落ち着くと油断してしまった。
「これだからお子ちゃまは甘い」
刹那、幹部の身体から無数の鋭利な骨が飛び出した。まるでハリネズミのように連なる骨はより鋭利で、動物の防御装置としてのソレとは違うもっと攻撃的な装置として機能していると言える。
僕とメルカは防御体勢をとりながら後ろへ下がろうとする。しかし、反応が遅れたばかりに何本か当たってしまった。
「嘘でしょ…」
「なんてこと…だ」
痛い。普段SRSで痛みは感じているが、実戦、という状況下での負傷はSRS普及前でしか味わわなかった。だからより痛みに反応してしまう。
「言ったでしょ?油断しすぎだって」
そう言いながら幹部は展開した無数の骨を身体に戻す。
創作物とかでみる異能力者は聞こえはいいかもしれないが、こう目の前に出てくるとこれは別の生き物だと思わざるを得ない。
しかし、それでもここで倒れるわけにはいかない。痛くて動けそうになくとも、今動かなければこの感覚もなくなる。
「あなたも油断しすぎだ」
剣を地面に突き立て身体の状態を起こす。
まだ僕の身体は全然動きそうだ。
「僕は普通よりも幾分か頑丈でね。倒した気になってもらっては困る!」
僕は大きな声で叫ぶ。自身を奮い立たせるため、相手への威圧、痛みの恐怖を紛らわすために僕は吠える。
「そう、さっさと倒れてくれたら助かるのに」
お互いダメージを負っている状態ではあるものの、まだまだ動けなくなる程ではないと言った状況だ。それなら僕はこれからどうする?メルカはまだ復帰できそうにない。
「そう簡単にはいかないさ」
数発の骨が飛んでくる。それを剣で弾きながら進んでいく。幸い威力は低く牽制用としてのものだったため簡単に弾けた。
「思い上がりもいいところね」
剣を構えて向かう僕とは対称的に、幹部は僕を迎え討つように骨を無数に生やして構えていた。
無数の骨を掻き分けて最終的に本体を叩かなければいけないということを頭の隅に置いているのだが、解決策がまるで見つからない。
「グ…ヌゥ!」
剣で骨を刈り取ろうとしてもうまくいけば数本程度しか斬れず、しかもすぐに元の形へと戻ろうとする。硬い上に再生までするとなるといよいよ抜け道なんてないように思える。
「全然歯が立たない。これじゃあいつまで経っても埒があかない」
結局のところ僕は攻める以外に方法がないのだ。ならば僕がするべきことは、不慣れで猿真似だったとしても、いつも近くにいた彼女の剣の太刀筋を再現することだ。
「もう諦めなさい」
いくつもの骨が僕に向かって進んでくる。盾はもうない。あるのはこの一本の使い古したロングソードのみ。だけど、目と脳に焼き付いた剣の閃きは僕をどうしようもなく動かす。
「ッ!」
僕に向かってくる骨に向けて刃を突き立てる。面ではなく点で打ち抜くメルカの剣の型はさっきまで文字通り歯が立たなかった骨に対してかなり有効打となった。
実際に思い出してみるとメルカは一人で戦っていた時でも攻防共に余裕があった。僕が今戦っている相手は攻撃型だけど、守ることも視野に入れている戦い方だから積極的な攻撃に対しては明確に遅れが出る。
「さっきと動きが違う?いや違う」
幹部も僕の攻撃の姿勢が変わったことに気付いたようで、攻撃の仕方を変えようとリズムが崩れる。
「僕の身は!」
守りに入ろうとする幹部に対して前のめりになって剣を一心不乱に突き立てる。
「僕の剣は!」
少しと経たぬうちに僕が確実に攻撃の当てられる間合いへと近づいていた。
「僕は!」
しかし、幹部も負けじとカウンターとしてさっきもしてきたハリネズミ嬢の全方位攻撃を仕掛けてくる。
そんなことは当に分かっていたことだ。これは身を捧げて討ち取る攻撃じゃない。僕の武器は剣だけじゃない。
「僕自身が誰かの盾なんだ!!!」
突き立てた剣は無数の骨のなかの一筋へと貫き、幹部の脇腹へと届いた。
「まだわたしの身体は動くわ!」
深傷を負った状態で骨を手に取り僕へと刃を振り落とす。僕も負けじとそれを防ぎジリジリと刃を擦り合わせ鍔迫り合いをする。
「ぬかったわね。わたしもアナタも!」
一瞬でも勝ったと思った上でまだ動くなんて思わない。幹部の口から血が垂れている。まさか自分の肉の中を裂いてまで剣を止めたっていうのか?
「まさか!」
「そのまさかよ!」
僕をここで仕留めんとばかりに骨を僕の方へと無数に向け、僕へと突き出してくる。
もう間に合わない、という寸前に幹部の攻撃の手が止まる。
「ッく、まさかアナタがねぇ」
「まさか忘れられてるなんて、私そんなに存在感なかった?」
ガラ空きになった背中から貫かれたメルカのエストックが赤色の光を反射していた。
「安心して、死にはしない。今は大丈夫かもだけど、少なからず死ぬほど痛くなるだけ」
そう言って貫いた刃を抜き取り鞘へと納める。僕も一旦は終わりだと思って剣を納めた。
「ありがとうメルカ。危機一髪だった」
「カリムも私を信じてくれてありがとう」
そう、僕は誰かの盾でありたい。そう公言した時にはメルカがすでに意識があることに気付いていたのだ。それでも僕はなんとかしようとしていたわけでこの有様なんだけど。
「メルカ、多分そろそろアドレナリンが切れるから動けなくなるよ」
「そうね。耐えられる?」
「さっきまでに比べればなんてことないさ」
「やっとここまで来れましたね」
「モタモタしてた訳じゃないのにここまで差ができるなんてね」
因縁の相手ビアンカ・マトグレスを殺し、ここまで登ってきました。途中、ベルナールさんにお会いしましたけど、これ以上戦闘継続することは難しそうでした。
「そうですね。これ以上彼らの思い通りにはさせません」
薫さんの安否も未だ不明。それなのにまだまだここの攻略は程遠いと思うと少し心がザワザワします。
「そこのお二人!大丈夫だったかい?」
ちょうど次の階へ到着した時に私たちに声がかかりました。
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