第12話 鎮魂歌

 月の光に照らされながら、俺たちはオースティン魔法学校から3キロほど離れたところにある オースティン特別演習場 へと到着した。


 タイムリミットは一時間ほどだろう。

 まずやらなきゃいけないことをすぐに終わらせる。


 俺はまず、演習場内のあらゆる結界魔法を書き換える。

 学校内と違い、機密情報や常に生徒がいると言うわけでもないため俺でも簡単に書き換えることができる。


 それを終えるとすぐに魔力障壁と魔力感知妨害を結界へと捩じ込む。


 アリアは淡々と事を進める俺の事を凝視しながらも、まだ目には涙を浮かべ不安そうな顔をしていた。


 俺は地面へと浮かべた召喚魔法の中央に丸い円を浮かべ、準備を完成させた。


 丸い円を浮かべることにより、今回は取引召喚魔法へと定義を変える。


 召喚魔法っていうのは、その場所に待ち人を呼べるという便利な魔法ではあるのだが、勝手に呼べるわけではない。呼ばれた側は断ることもできるのだ。そうさせないために今回は条件付きといったものにさせて貰う。


 これで準備は完了だ。

 あとは……


「アリア、 まだ不安?」


 アリアは声にはせず小さく頷いた。

 俺はアリアの近くへといき、頭をポンと叩いた。


「目が覚めたら全部終わってるよ。約束だ」


 というと、アリアの目から再び涙が溢れる。


 そのままアリアの手を引き召喚魔法の中央へと連れて行く。

 学校から演習場までの時間の中で、アリアと手を握ってたのはもう一つ理由があった。彼女の中を蝕む呪いの残穢を探していたのだ。


 アリアの介入と、呪いの残穢を媒体として魔法が完成する。


 眩い光と共になる爆音。随分な登場の仕方だ。


 悪魔の名前は レクイエム 最上級魔獣。


 レクイエムは召喚されるとすぐにこちらに気付き笑いながら話しかけてくる。


「ぐぶぶぶぶ、馬鹿な人間だ。この女など放置して居れば、あと十数年は生きれただろうに」

「驚いたな。何の警戒なしに召喚させてくれるとは。意外と馬鹿な悪魔さんなのかな?」

「ぐぶっっ馬鹿なのはどちらだ? 師団クラスの魔法使いが集まっているのならまだしも童1人。多少腕は立つようだが、その程度のリスク取るに足らぬぞ」

「ははっまあその程度だよねお前は。1年間この子の中にいて父親の声と記憶を借りないと堕とすことも出来ない雑魚さんだろ」

「ぐぶぶぶこいつの父親は家族のことしか考えていなかった。家族をどう守るのかとかな。自分がどうなってもいいなんて甘い言葉を吐く様な奴と10数年暮らしてたということはこいつの細胞や精神は甘い空気に蝕まられているだろう? だから本当に父親の呪いだと勘違いさせた方が話が早かっ」


「もういいよ」


 話を遮った俺は耳から抑魔結晶を外し、魔力を高める。

 レクイエムの表情は分からないが、驚いた様な反応であるのは間違い無いだろう。


 格納魔法から7年ものの剣を取り出す。

 使うことになるかは分からないが、腰にあるだけで少し気持ちも入るといったところかな。


 剣を使う意味は、固有魔法との相性が良いためである。

 固有魔法は媒体なしで繰り出してしまうと、空気中と自分の間にオーブのロスが発生してしまい、効果範囲は広がるが必要以上に広がってしまうこともあるため少し効率が悪いのだ。

 そこで剣を介してやることにより、効果範囲を抑え、魔法の効率をあげるといったことだ。


 レクイエムは再び口を開く。


「少しはできそうだな。どれ、70年ぶりの実践と行こうか。興を削ぐなよ童」

「ワルツでも踊らせてやるよ。間抜けな悪魔」


 両者ほぼ同時に固有魔法を展開させる。

 俺には最強の味方天啓があるため、発動は俺の方が早い。


 俺の固有魔法は雷で、効果範囲が広いため魔力切れを引き起こしやすいと言われている。

 固有魔法 雷 に付加魔法 威力増大 効果範囲減少 速度増進を付与する。

 比率は固有魔法3の付加魔法が7 概念を変えられた 固有魔法は 蒼い雷 へと姿を変える。


 レクイエムの固有魔法 幻影 の影響によりあたり一面が薄くぼやける。ぼやけが一つのモヤとして現れたと思いきや、鋭い槍の様な形へと変わる。


 一合目はお互いの固有魔法のぶつけ合いといったところか。


 俺は凝縮された雷を中指の先へと乗せ親指で支えながら引っ張る。

 レクイエムの魔法も完成したらしく空気を咲く様な凄まじい音を奏でている。


 あえて相手の発射を待った俺は相手の魔法が完成したのを確認してお互いに繰り出す。


「刹那」


「縫合投影烈破」


 二つの魔法がぶつかり、青白い光と共に爆ぜる。

 威力は数段こっちの方が上ということもあり、衝撃はすべて向こう負担の着払いって奴だ。


 今のでやれたら楽なんだが……

 取り引き転移魔法っていうのはお互いに条件を出し合う。


 向こうは当然 勝利=アリア獲得 

 俺の条件は  勝利=レクイエムの消滅


 なのだ。まだアリアが解放されていないということは終わっていない。


 爆風から舞い上がった砂塵が徐々に晴れてきた時


 ぼっっっ


 暗闇から無数の影でできた槍


 俺は地面に線を引き同時に指から雷を流す。

 地面にも、付加魔法 性質変化を流し たちまち地面が蒼く光り、虹の様な雷が無数の槍を相殺させる。


 うぉぉぉぉぉぉぉぉ


 という咆哮と共に、レクイエムは手を合わせ魔力を高める。

 俺の目にも、辺り色んな面に黒いモヤが映る。

 周りのオーブや魔素ですらあいつの増大な魔力に書き換えられているという事だ。


 俺は大きな声で


「おいおい。張り切りすぎじゃ無いの?それ外れたら終わっちゃうんじゃ無い?」


 返答はない。


 俺はあえて腰から剣を前へと回し、剣を抜く。


 天啓を使い、奴の付加魔法と相殺条件を確認。

 すぐに自分の剣に 空間斬消 を付与した。


 そして、固有魔法 雷を流し、俺の剣から蒼い雷と共にバチバチと音が鳴る。


 魔力を貯め終えたレクイエムは魔法を発動させる。


「縫合黒烈投影」


 先ほどより、強度も威力も洗練された強力魔法。

 あたりを切り裂く様な音と共にこちらに向かってくる。


 俺は抜いた剣を下から上へと振り上げる


「白銀」


 先ほどまでの爆音から一転嘘の様な静寂へと変わった。

 威力を同程度に定義して、相殺する瞬間に空間斬消の効果により存在した痕跡ごと消したのだ。

 ついでに


「かっかはっっ」


 同一直線上にあったレクイエムの右半身も一緒に。


「ば、馬鹿な!! 今何を」

「消したんだよ。文字通りね。」

「そんな芸当……!!!」

「気づいた? 治癒魔法でも回復できないよそれ」

「ぐっっ……貴様何者だ」

「いまさら何者かなんて知ったところで無利益じゃない?」


 俺がそう答えると、レクイエムは黒いザラザラの左手をこちらへ突き出し、大気中の魔素とオーブに自分の魔法を組み込もうとする。

 驚いた。まだ勝つ気でいるらしい。


 俺も右手の中指を突き出し、魔素とオーブをコントロールしようと動く。お互いの魔力に染められた魔素やオーブは綱引き状態となり、ほとんどが千切れて消滅してしまった。


 ズズズズズズズズズズズズズズズズ!!


 俺の足元から何かが上がってくる様な音がする。

 下を向くと、月に照らされて出来ていた俺の影が3倍ほどの大きさに変わっており、俺の足のくるぶしあたりまで飲み込んでぴたりと止まった。

 その理由は。


「がっがあ!!! ば、馬鹿な綱引きは互角だったはずっ!!」

「オーブは千切れると消滅するけど、魔素はそうじゃ無いんだよ。微小なオーブへと変わる。そのオーブに魔力を注いであげる事で魔素へと進化するんだよ」


 魔素に俺の固有魔法を付与して、レクイエムの体を四方八方から貫かせた。

 レクイエムは、自分の魔法に精一杯だったのと、大気中の魔素とオーブが消えた事で、大気への感知を疎かにしていたのだ。


「そろそろ幕引きと行こうか」


 レクイエムを貫いていた雷が蒸気を発しそのまま大きな円となり奴を包む。

 体を貫いているため、動けないレクイエムは


「我を殺しても意味なんかない!!お前のことも呪ってやる!!!」


 最後まで騒がしい悪魔だ。


「お前の呪いは今日で終わりだよ。そしてもう誰も呪われることはない。お前の残穢一つすらこの世には残さない」


 俺はそのモヤに魔力を込める。


「御終舞」


 空気中に花火の様な巨大な火花が散り、アリアを囲んでいた結界が崩壊していった。


 結界が崩壊する=レクイエムの死。


「さようなら。愚かな悪魔」


 時刻は21時15分。ミッションコンプリートだ。

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