第1話 首都でスカウト
――西暦1405年 ヘガドル国 首都ベリーサ
世界最強魔法兵という肩書きを捨て、旅に出たはいいものの、特に進展もないまま3年という月日が経っていた。
3年間も目的もなくブラブラするというのは飽きるもんだ。
「変わったな……」
今日だけでも4度目となる言葉を吐く。
しかし3年ぶりに首都ベリーサに来てみたけど、この3年間でかなり華やかになっている。損害賠償やもらった土地の恩恵かな。
ていうか、俺が歩いていても誰も気づかないんだな……
ま、まあ勿論、パレードの場からそそくさといなくなり、国から出た事を後悔してる訳ではないのだが……
とは言っても、ここ3年というものの、莫大な魔素の影響なのか、身長は全く伸びず150センチ弱の見窄らしい体つき……自分で言うのもなんだが、決して男らしいとも言えない中性的な顔つき……いっそ女として生まれた方が良かったのかな。なんて
ううう
なーんて事を考えているうちに図らずとも目的地である、終戦記念博物館前広場に到着。
正直な話、空を飛び回っていた頃やパレード中何を考えていたのか、終戦をよく思っていたのか等の記憶はかなり薄まっている。3年間という短い期間で失うには早すぎると思う。
自分のしたことが国としては正義だったのだろうが、人としての行動として正義、あるいは悪魔だったのだろうか……
その時、
「そこのお姉ちゃん」
思わずビクッとしてしまった。恥ずかしい。
「うちのアップルパイ美味しいよ! 食べてきな!」
「え、俺ですか? ありがとうございます」
「今日は終戦記念日なんだからそんな顔してちゃ変に怪しまれるよ」
自分より一回りは年上であろう婦人はそう言ってがははっと笑った。
一応男なんですけど
と思ったが、まあいいやと思いつつその場を後にした
俺は頂いたアップルパイを片手に立派な噴水が見えるベンチに腰掛ける。
ていうかこうして見ると
酒を飲んでうたた寝をしている人、手を叩いて笑っている人、ボールで遊んでいる子供達……
どれも戦争中じゃ見られなかった光景だよなあ なーんて柄にもないことを考えながらアップルパイをかじる。これがめちゃくちゃうまい。いやほんと。
単純かもしれないが、今の俺にはこう言った美味しいものを食べるだとか、楽しそうな人々をみて満足するとか、些細な幸せが嬉しいのだ。
さてさて、お腹も膨れた事だし、俺の英雄談でも見にいこうかな!
正直、あの頃とは考え方もかなり変わっているだろうし、今となっては誇らしいエピソードの1つや2つくらいあるでしょう!
噴水の広場をそそくさと抜けた俺は、終戦記念博物館に到着!
入るとこれはすごい。
お城の様な内装で、警備員もわんさか、これは悪いことできないね。しないけど。
辺りには思念結晶や記録符備結晶が並んでいる。近代戦争……これだ。間違いない
俺は、青色の思念結晶にタッチし最新情報まで下げていく。
――さてさて、俺のことは、、あれ?
何にも書かれてなくない!?え?
そんな事あるの?
思わず思念結晶を何度もタッチする。
鮮明に覚えている訳ではないが、幾分か貢献したことくらいは覚えている。
でも、いくら探してもない!ないもんはない!と、思いきや 奥に不気味に赤く光っている思念結晶を発見。ふむふむ。こっちに記録されているのかな。
赤は縁起がいいしね!多分
そんな事を考えながら赤い思念結晶に手を伸ばす、ん?今魔素が吸い取られた気が…その瞬間
ブブーーーーーーーーーー!!
とてつもないブザーと俺を囲むように展開される結界 付加魔法もたっぷり!こいつはまずい。
なーんて焦った表情を一瞬してみたが、幸いこの世界には俺以上の魔法使いは存在しないすぐに壊して……ってあれ?
その結界はあくまで俺に危害を加えると言うものではなくここに待機を強制させる結界だった。
「まあ、壊そうと思ったら壊せると思うけど、この大音量のアラームに突然現れた結界魔法…人が集まってるのは間違いないし…」
そう、これをぶち壊すのは簡単だが、出た後の押し問答が面倒なのだ。
まあ、1番早いのはこの結界魔法を張った魔法使いを待って、外の人や警備員に謝罪と説明をさせよう!
幸いここは国家施設。この施設自体にも、呆れるくらいの結界魔法や付加魔法が張られている、それなりの重役様が張ったとみて間違いないだろう!
なんて事を考えながら待っていると。
ピピシャーーーン!
結界が割れた。
さて、こんな面倒な事をしたのは誰だ。その面拝んでやる!
「え、」
鬼のような形相、長い髪を後ろで束ねたナイスバディの女が立っていた。
周りには一般客はおろか、警備員まで姿を消していた。
恐る恐る声をかける。
「どちら様でしょうか……」
取り敢えず反応を伺う。
すると、その女性は軽くため息をついたかと思うと、不気味な笑みを浮かべ
「君が逃げた魔法部隊の大隊長だった者、と言えばわかるかな? 無比のイブ・レッドパール君」
え――
思わず言葉を失った。
そういえば、言葉こそ交わした事は無いものの見た事ある気がする!
これはまずい…
この女性は俺を咎めに来たのだ!
取り敢えず当たり障りのない事を言おうと
「す、すみません。あの戦争が自分の中でかなり衝撃的な出来事で、そこら辺の記憶は少々跳び気味でして……」
嘘はついていない!現に軍隊では上官、それも直属の大隊長の顔を忘れる等もってのほか、はっきり言って論外なのだ!
勿論俺が3年前のパレードから逃げ出さなければ、覚えたてたよ!多分ね……
「嘘をつくな! 君が私の顔を見た時、表情が変わっただろう!」
ええ、それは貴方があまりにもナイスバディだったから……
こちらが困った顔をしていると、悟ったように
「本当に覚えていないのか」
呆れた顔をしながら女性は続けた
「元124魔法大隊 大隊長のアレフ・プレイス、あの時は大佐だったが、今は准将をやっている」
わおっすっごい上司!
ていうか絶対聞いたことあったわ……
大丈夫、この3年間で俺はコミュニケーション能力が爆上がりしている!
さっきの広場での焦りはたまたまさ!
「それは大変失礼致しました。准将閣下、パレード後突如いなくなった件どうかご容赦くだ、、あ」
アレフ准将の眉間がピクピク動く。
やばい、やってしまった――
アレフ准将はふぅと再度軽く息を吐いて、冷静な顔で
「まあ、当時13歳という若さで、あれだけの血を見て、賛美されると言うのも辛いことだと分かっている。現に今の君は、ただ命令を受けていた抜け殻のような雰囲気ではなく、年相応の生き生きした表情に変わっている」
俺はきょとんとして、
「は、はい」
「どうだ? 久しぶりのベリーサは」
「かなり変わってて驚いています」
「いつ帰ってきたんだ?」
「昨日の晩には着いていました」
「ずっとヘガドルにいると見てもいいのか?」
「そのつもりです」
なーんて淡々な会話を続けていると
アレフ准将はふぅーーと長い息を吐いた。
間違いない。本題だ。
わざわざ世間話をする為にこんな大掛かりな結界を張ったり、中にいる一般客、あまつさえ警備員まで退館させる必要などないのだ。俺はギリギリまでアレフ准将の口を凝視した。
処分か はたまた罰金か……
「軍に戻ってこないか?」
ええーーー!思わずびっくり
まさかのお咎めなしだ!
「とは言っても!」
おっと、そりゃそうだお咎めなしとはいかないか。
「君には3年のブランク 軍からの突然の脱柵 再度一から再教育が必要という訳で、オースティン魔法学校へ編入し2年間勉強する事を命ずる」
んん?すごいいい条件じゃない。
「幸い君の情報を軍から出した事はない。記者にもな。加えて君は軍学校を1年で強制卒業となっている。編入という形であれば問題ないだろう。」
問題ありまくりな気がするけど、、
そう思いながら俺は疑問点を問う
「准将閣下、それはつまりイヴ・トゥワイスとしてではなく、また新しい人物としてという事でしょうか」
「在学中は勿論その情報は隠す。生徒は勿論教員にもな。君は基本的に表舞台に立ってこなかったいわば暗部のようなものだ。軍の上層部以外が知っている内容なんて、無比 という二つ名を持った幼い女 くらいのものだろう」
さらっと酷いこと言うなこの人。確かに在軍時は散髪に行く暇なんて殆どなく、女性で言うところのロングヘアーではあったけども………
「さて」
アレフ准将が再び口を開く。
「勿論君は、今半分軍人ではあるが、ほぼほぼ除隊扱いと言ってもいい。命令ではなくあくまで提案だ。ゆっくり考えて決断してくれていい」
ははっ笑わせてくれる。ゆっくりだって?
そんな暇は要らない。
3年前軍から逃げた。
でもそれは、自分が分からなくなってしまったからだ。
今日再確認した、自分の守りたいもの。やるべきこと。
少なくとも学校に行けば 明日 の事が沢山考えられる。
上等だ。答えは決まってる。
俺は再度アレフ准将の顔を向き全力の敬礼をした
「よろしくお願いします!」
3年前止まった歯車が再度動き出した気がした。
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