第5話  オノ 1



 夏休みにはいる一週間前。


 コミネに告白したのは、夕暮れの商店街だった。


 


***


 


 帰りに地元の駅のホームでコミネを待つ。


 ワイヤレスのイヤホンからは、最近よく聴いているバンドのギターソロが流れてくる。

 ホームに止まる電車の扉がひらくたびに、スマートフォンから顔を上げた。

 何本かをやり過ごしたあと。


 開いた扉から降りてきたのは見慣れた制服。半袖の白いワイシャツにスカートと同じ紺色のベスト。皆と同じように腰で長さを調節したスカートは膝上で、くるぶしまでの白い靴下。黒いローファー。スカートは服装検査の朝には、一斉に長くなる。


 夏のまだ高い夕暮れの光に、コミネの髪はオレンジ色によく目立った。


 ふと視界に入った俺を見留めると、いつも通りに片手を少しあげる。それに合図を返す。「話があるから、一緒に帰ろう」と言うと、不思議そうな表情かおをして肯いた。




 地元の商店街はそれなりに賑わっている。


 この地域にも数年前に大型スーパーが来襲した。

 そのせいでシャッターを閉じてしまった店もある。

 そんな逆境のなかで、古い店舗を中心として商店街は団結した。地元密着を謳い文句にした方針と、駅の改札を抜けるとすぐに商店街通りに繋がる利便性が功を奏したのか、「スーパーへ行くよりも近いし、なんかいいのよね」とは、母さんの言葉。


 今夜の夕食の買い物をする客の気を引くためなのだろう。それぞれの店の換気扇は、揚げものや惣菜の匂いを景気よく辺りに振り撒いていた。店のオヤジは、今すべてを売り切ろうと呼び込みに威勢のよい声を上げている。


 コミネと歩いたそんな帰り道。


 店舗と店舗の間のちょっとした区画。遊具がおいてあるわけでもないが、狭い公園になっている場所。


 ちょうど、人が途切れた。

 そのつもりだったとはいえ、気負いもなく口からでた「好きだ」という言葉。


 コミネは……驚いたんだと思う。

 一瞬、立ち止まり、それから小さく「ありがとう」と言った。


 


***




 コミネは小学校の頃から目立つ存在ではあった。


 本人の性格とかじゃなくて、主に容姿……特に髪色のせいだ。じいちゃんが外国の人だとかで髪の色素が薄く、かなり茶色かった。陽に透けると燃えているオレンジ色のようにも見えて、キレイだと思った。


 家はわりと近所。小学校の通学班は違う。クラスは一緒になったこともあったが、違うことのほうが多かった。幼馴染と呼ぶのにはためらわれて、でも友達と言えないわけでもない。微妙な距離。


 中学校は近隣の三つの小学校から集まってくる。


 コミネは入学すると、派手な感じの女子たちから目をつけられた。仲間に誘われていたようだが、それを断ったらしい。すると嫌がらせが始まった。


 露骨なことはしない。裏で陰口をたたくとか、ありもしない噂をSNSで流すとか、コミネを見てくすくすと笑うとか、そんな陰湿なやつだ。違うクラスの俺さえ、それを知っていた。


 コミネは気にしていないように見えた。同じクラスの女子がさりげなくコミネを庇っていたが、そいつらはそんなことは気にもせずに、自分たちの気の済むすべてを試しているようだった。


 ある休み時間に、見かねた学級委員のタケダがそいつらに、「いいかげんにしろよ」と注意をしたところを偶然に見かけた。そいつらはじろりとタケダを睨んで、「はあ? なに? あんたたち付き合ってんの?」「タケダってコミネのこと好きだったんだ?」そう大声で騒ぎ始めた。


 タケダが黙ってしまうと、コミネがさっと席を立って、そいつらのリーダーみたいな奴に近づいた。


 「なに?」と、見上げたリーダーの頬を、コミネの平手が思いっきり張った。






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