第55話
待ち合わせ場所に向かうと楓はもうきていた。
「お待たせ。待たせちゃったかな?」
「ううん。私が早く来すぎただけだから」
今日の楓はフリルのついたワンピースを着ていた。
「その・・・。似合ってるよ」
「ありがとう」
楓はそっぽを向きつつお礼を言ってくる。
お互いにこういうことに慣れていない。
しばらく無言の時間が続いた。
「行こうか・・・」
「うん・・・」
俊達は公共交通機関を乗り継ぎ、目的地のテーマパークに向かった。
その間、他愛無い昔話などで盛り上がった。
テーマパークは平日ということもあり、空いていた。
普段なら長蛇の列ができる、人気アトラクションを思う存分楽しむ。
楓はきゃーきゃーいいながらも楽しんでいて来てよかったと思う。
少し疲れたので飲み物を買って、ベンチに腰掛ける。
「今日は誘ってくれてありがとね」
楓がポツリとそう言ってくる。
「いや、僕も来たかったから」
宇宙に1人で放りだされた時はどうなることかと思った。
だが、こうして地球に戻ってきて、楓と過ごして・・・。
幸せだなと思う。
いつまでもこうしていたい。
だが、そういうわけにもいかないのだろう。
少しの期間で様々な人に出会い、責任も生まれて。
自分は少しは成長できているのだろうか。
「あっ~。なんか難しいこと考えてるでしょ?」
「そんなことないよ・・・」
「嘘だぁ。俊はすぐ顔に出るんだからね」
「えっ・・・?」
「どうせ、今の状況のことを考えてたんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「認めたわね・・・。まぁ、私が同じ立場なら悩むだろうけど・・・」
「僕はどうしたらいいんだろ?」
「ハルカちゃん達のことは嫌い?」
「嫌いじゃないよ。他の子達もいい子ばかりだし」
「なら、守らなきゃね。私も協力するから」
「ありがと・・・」
「さぁ。今日はとことん遊ぶわよ」
大きな声で楓がそう叫ぶ。
そんな楓に元気をもらい、遊び通すことにした。
暗くなってきたが、まだ帰らない。
夜のパレードを楓が見たがったからだ。
マスコットキャラが練り歩き、少し離れた位置には花火があがる。
俊は楓の横顔を盗み見る。
楽しそうに笑っている楓はすごく綺麗だった。
心臓がドキリと跳ねる。
自分は楓のことが好きなのだろう。
少し前は距離をとられ、見ないようにしていた気持ち。
それを改めて実感する。
「あのさ・・・。楓」
「んっ?」
楓は不思議そうな顔をする。
「僕は、楓のことが好きだ」
「ありがとう。でも、今はその気持ちに応えられないかな」
「どうして?」
「私も、俊のことは好きだよ。でも、フェアじゃない気がするから」
「フェアじゃないって・・・?」
「それは自分で考えてね」
楓はそう言って何も言ってくれなかった。
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