第26話 作戦報告

―――記録。


2082/10/25から2082/10/26にかけて実行された『<タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦』コードネーム:<オペレーション・レイズドフラッグ>(旧コードネーム:<オペレーション・フラッグ>)の推移とその結果、またその後の経過に付いて記す。


作戦時刻一二:五五に<オペレーション・レイズドフラッグ>が発令、遂行された。


作戦内容としては「NT-67タンク部隊」(以下タンク部隊と呼称)「<ロンギヌス>級戦艦」(以下<ロンギヌス>と呼称)による、<タイタニア型>出現ポイントの挟撃での先制打撃とその後の総攻撃が想定されていた。


しかし、<タイタニア型>は未知の能力である電磁的フィールドの展開―平たく言うのであればバリアを発動。両者の砲撃を高倍率で減衰し、ダメージを最小限にとどめた。


更に<タイタニア型>は筋肉で形成された繊維状の器官、通称「触手」を測定不能数展開。上面からの攻撃に対処法がないという<ロンギヌス>の弱点を突き、その船体を上方から絡め取り、力のままにへし折ることで沈没せしめた。


<ロンギヌス>の眼の前での轟沈という衝撃的な光景が繰り広げられたことで、前線兵士にパニック症状が見られた。それはタンク部隊、並びに護衛を担当する随伴部隊にあっても例外ではなく、一時的に防衛ラインが機能不全に陥ったことでバリケードが突破される。


「総司令官直属特務実証部隊」の沢渡京中尉と天音雨衣一等兵の二名が敵勢力域を突破してタンク部隊の救援に駆けつけるという目覚ましい活躍を見せるものの、奮戦虚しくタンク部隊も殲滅。「総司令官直属特務実証部隊」の二名も撤退を余儀なくされた。


<ロンギヌス>の轟沈とタンク部隊の殲滅により、<オペレーション・レイズドフラッグ>のプランB以降の予備作戦の遂行が不能となる。これが齎した影響は重大であり、作戦本部が敵能力の解析と状況に応じた新たなる作戦の立案にリソースを裂かざるを得なくなったことで、前線兵士の指揮が不十分となり、敵勢力圏内を侵攻していた部隊が押し下げられてしまう。一時は最終防衛ライン寸前という窮地に陥るも、ここで各員が未曾有の奮戦を見せ、作戦終了時まで攻め入る大群をしのぎ続けた。


タンク部隊の壊滅から約三時間後、<タイタニア型>の解析が終了。<タイタニア型>の能力が状況に応じたゲノム改竄と常軌を逸した速度の細胞分裂による「適応能力」であることが推定された。その性質上、生成された適応器官を潰せば、一時的に得た能力を無力化出来るのではないかという推論の元、旧作戦である<オペレーション・フラッグ>の内容を一部引き継いだ総攻撃プランが立案。

その嚆矢たる「82cm輸送式重装光子砲台:収束砲撃改修仕様」による砲撃が、作戦時刻一八:二五より実行される手はずとなった。


<UN-E>総司令官であり作戦本部長の奏栞自らの狙撃により、バリア生成器官を破壊。攻撃が通るようになった。

その後、「総司令官直属特務実証部隊」と「J-51地区陸上普通科部隊第3中隊」が敵陣の包囲を突破。再び<タイタニア型>に攻撃を開始。

「総司令官直属特務実証部隊」所属の沢渡京中尉が周囲の援護を受けながらも<タイタニア型>を撃破。<タイタニア型>の生体反応消失が作戦時刻一九:〇五に確認された。これは、人類史上初である。



「総司令官直属特務実証部隊」と「J-51地区陸上普通科部隊第3中隊」は再び陣中を突破した後、これ以上の作戦続行は不可能であるとして本部へ帰投。この作戦での作戦行動を終えた。


<タイタニア型>の生体反応消失確認より30分後、J-51地区境界線を封鎖していた部隊に包囲の幅を狭め、未だ残る<N-ELHH>の掃討命令が下された。

殲滅戦は深夜まで掛かり、作戦時間二六:三〇に掃討完了、J-51地区の奪還が報告された。


この報告を以て『<タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦』<オペレーション・レイズドフラッグ>の終結宣言が発令。J-51地区が指揮権が奏栞からJ-51地区基地基地長に有田中佐に返還された。同時に対<タイタニア型>作戦本部も解体。

この事後処理を以て、本案件は完結した。


総括としてであるが、この作戦に伴いKIA、MIAとなった人員の総数は3500人を超え、<ロンギヌス>の轟沈、タンク部隊の殲滅など、失った物は大きい。指揮系統の乱れも各所に見られ、満点の作戦行動であったかと言われるとかなり疑問が残る側面もある。しかし、<タイタニア型>という<N-ELHH>の規格外の力、起こった多々のイレギュラーを考慮すると、作戦本部の指揮に格別重大な瑕疵は見られない所か、作戦行動終盤のプラン立て直し、そこから先の迅速な実践展開はむしろ称賛に値するだろうと考える。


何より、<タイタニア型>の討滅と旧時代の居住エリアの奪回は共に初の偉業である。これは今後の人類の戦いにおいて、凄まじい影響を与える事は間違い無いだろう。


よってこの戦いは、概ね<UN-E>の完全勝利であると認定しても問題ない、というのが当作戦での総括である。


また、当作戦の事後処理、作戦後経過についても記述をしておくこととする。


作戦終了後のJ-51地区の処遇であるが、現在は<UN-E>が占拠、所持という形になっている。いずれ民間への解放を行うのも吝かではないが、その話題性などの諸々の都合から、みだりに解放する事は市井の人々に要らぬ混乱を招きかねないが故に、奪還したばかりの今現在では民間への解放は時期尚早であるという判断がなされた。

よって、今後暫くは<UN-E>による管理がなされると考えられている。

現在はJ-51地区と他の<N-ELHH>支配地区との境界線上に侵攻を防ぐ壁が建築中である。各銃器などの搬入も含めた施工終了は本年度中を予定している。


本作戦に参加した兵士における賞罰であるが、KIAやMIAになった者の処理は通常通り二階級特進であるとする。遺族の要望によっては<UN-E>戦没者共同墓地への埋葬もこれまでと同様に可能ではあるが、作戦の規模感から一度に行うと墓地のパンクも十分に考えられるために要相談であるとする。遺族の方と接する際に細心の注意を以ての対応の徹底と周知を各事務担当員に指令。


「総司令官直属特務実証部隊」と「J-51地区陸上普通科部隊第3中隊」にはその功績の多大なるを鑑み、メンバーを全員1階級進級させた上で「特別褒賞手当」を支給する。


作戦に参加した全前線兵士、全オペレーターに「乙種危険任務遂行完了手当」を支給する。これは「戦没遺族慰労手当」「特別褒賞手当」とは別口の手当であり、全て重複しうることとする。


これらの記録を以て、当報告書を締め括らさせて戴く。


最後に、当作戦に関わった関係者全てに、多大なる感謝と盛大なる祝福を。


(2082/11/04:初版作成 2082/11/04:最終更新)

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