第24話 <タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦 ⑪

ブン!と音が響き、また一体<N-ELHH>が細切れになった。


「ラアッ!!」


怪物を切り刻んだ光の刃の主は、勢いを止めることなく駆け、次の獲物を容赦なく刈り取っていく。


際限なく閃く紅い光はその動きを目で捉えることすら難しい。

気づいたときには敵の体が刻まれてボトボトと地面に落ちている。


「ハァァァァァアアアアアア!!!!!」


いっそ何も考えてないんじゃないかと思うほどの速度で繰り出される矢継ぎ早の斬撃。巻き込まれた敵から死んでいく。彼が通った後に怪物は一体たりとて残りはしない。

突き進んでいく大鎌の使い手は、光刃の色も相まって血風の具現と呼ぶに相応しい有様と化していた。


「に、人間技じゃねぇ……」


敵地真っただ中だというのに銃を構えることすら忘れ、茫然とつぶやく。味方でいてくれて本当に良かった。


「隣で戦ってる女もなんか変だぞ!?見ろよ!!」




同僚が指さした先には流麗な身のこなしで戦う女がいた。<黒服>ってことは新兵か?確かに新兵にしちゃ動きがめちゃくちゃにいいし、ドローンとは珍しい武器を使っているが……


「———は?」


気づいて愕然とした。

女の周囲の<N-ELHH>は一向にその女に襲い掛からないばかりか、『共食い』をしているのだ。しかも女はそいつらを盾としたり、敵の視界をふさぐ様に投げ飛ばしたりと戦闘の補助として便利に扱っている。

<N-ELHH>が人間のそばにいて襲い掛かって来ない、何なら人間の味方をしたなどという話、戦場の与太話ですら聞いたことがない。


近衛兵ドローン奴隷共<N-ELHH>を意のままに操り戦うその様は、女王にも似て。


「なんなんだよ、アイツら……」


俄に動き出した戦線の真っ只中、修羅二人の狂演に、俺は静かに恐怖した。









迫る最後の砲撃を前に、本部は一段と慌ただしさを増していた。


「82cm輸送式重装光子砲台、再組み上げ完了しました!」


「了解。基地正面に輸送せよ!」


「周辺待機EN残量、一射換算で180%オーバー!問題有りません!」


「エネルギー配線モジュール、取り付け急げ!」


「周囲に敵影なし!射手の安全は担保されるかと!」


「配線モジュール、接続完了!反動軽減パイルショット式バイポッド敷設完了!」


「システム起動!!」


Gigantic

Authority

Zillion

Energy-type

Rayweapon launch assist system



<G.A.Z.E.R>


文字がモニターに表示され、司令室のシステムが砲撃体制に移行する。


「射手はどうする?」


……ふむ。


「私が行こう」


「総司令官自らが!?」


「私は前線からの成り上がり組だぜ?ましてや当時はSR担いでバカスカ撃ち落としてたんだ、あんなデカブツが相手だったら標的が目玉でも余裕で撃ち抜けるさ」


「では……お任せしてもよろしいでしょうか」


「任せ給えよ」


後ろを見ぬまま手を振り、立ち上がる。

気密音と共に開いた扉を潜り、基地の正面ゲートへと向かう。


「<Ex-MUEB>、全体展開」


唱える。

刹那、紫色の光芒に包まれた体は、<Ex-MUEB>の頼もしい感触に覆われていた。

随分と久しぶりだ。


そして、


「君が今日の相棒か?短い間だが、頼むよ」


砲塔の前に、立った。


各種キーが付いたハンドルを両手で握り、体重をかけて引き込む。

機械音と共に折りたたまれていたバレルパーツが前面に展開。排熱ウィングパーツ解放。バイポット設地。機体側面ENタービン待機状態に移行。


インコムを繋げる。


「準備完了だ、いつでも行けるぞ」


『了解!機関始動!EN充填開始!』


「EN出力、10%……20%……第一第二ENタービン解放、直ちに始動!」


ハンドルに取り付けられたトリガーの内の一つを引く。

ジャキン!と金属質な音が鳴り、蒸気と共に機体側面の出っ張りが左右一つづつ突き出す。それと同時に内部構造が赤雷を放ちながら回転を開始。余剰ENの排出と砲身全体のエネルギー循環の補助を行う。


「出力40%オーバー!第三第四タービン始動!」


先程とは別のトリガーを引く。

再びタービンが二つ伸長。


「50……60……第五第六タービン始動……70……80……第七第八タービン始動……」


トリガーを引いていく。タービンの開放と始動のタイミングを間違えれば内部に充填されているENと熱量は暴走し、盛大に弾けるだろう。<Ex-MUEB>の防御力を以てしても、受け止めきれるかどうか。冷や汗がグローブを付けた手を湿らせ、

緊張が操作を続ける私の指を強張らせる。


「90%オーバー!第九タービン始動!」


左手でトリガーを更に引き込む。


「90……95……100%!第十タービン始動!全タービン始動完了!」


照準装置とハンドルの両側につけられている一回りサイズの大きい発射用トリガーのロックが解除される。

砲口は莫大な熱量を抱え、圧倒的な光量と大地を揺るがす轟音を齎す。


「EN充填を続けろ!どうせこの一発でお終いなのだ!耐久限界までつぎ込んでやれ!」


『マージンを除けば計算上、砲身はざっと130%のEN貯蔵に耐えうる仕様になっています!しかしそれ以上は熱暴走や発射を待たずに砲身が溶融する可能性があります!どうかお気をつけて!』


「分かった!100……105……110%!」


カウントを続けながら、砲塔に体重を掛けて旋回させ、照準を開始する。


砲塔は<G.A.Z.E.R>システムを積んでいる。直訳で「超巨大威力を保持するエネルギー型光線兵器発射補助システム」。

基本原理としては<Ex-MUEB>に積載されている「エイムアシスト機能」の光線兵器版なのだが、その性能は桁違いだ。

「エイムアシスト」は<Ex-MUEB>内臓のコンピューターによりシュミレーションされた予測結果のうち、最も可能性の高いものに合わせて照準に補正をかけて正確性を向上させるが、<G.A.Z.E.R>は、基地全体にある全てのコンピューターを一時的に統括、並列CPUとして扱うことにより、産出される全ての予測結果を統合。実質的な未来予知として提供し、それに合わせて照準補正をかける。照準の補正だけでなく、余波による二次被害などの射撃にまつわる物事の全ての予知すら可能である。


数多の予測を掛け合わせ、確定的な一つの未来を導き出す「ラプラスの電脳魔」。

故にその名を『観測者』GAZER。観測者の心眼によって導かれた一射は、決して外れることはなく。


「115……全タービン最大駆動。」


『砲身内温度急激に上昇!!危険域突入!!』


「120。」


『砲身赤熱!!想定上耐久値を大幅に超過!!』


「125。」


『排熱システムエラー発生!!』


「130。ロックオン。」


足を動かし地面をしっかりと踏みしめる。

体を支えるべく重心を後ろに置き……


「FIRE。」


引き金を両の手で引き抜いた。


人機一体。放たれた紫色の光芒は、発射直前でその太さを激しく損ね収縮。

一条の流れ星となり怪物に突き刺さる。


青い雷描が行く手を阻み、流れ星を受け止めるものの、高々一瞬。次の瞬間には貫徹し、その巨躯を貫いた。そのまま紫色の流星は進み続け、旧時代の遺産である海上の塔をドロドロに溶かしてのち、消滅した。


『<タイタニア型>周辺の電磁反応消滅!!生成器官を破壊したとみられます!!射撃成功です!!』


正面を見れば役目を果たしたかのように、溶融し、朽ち果て行く砲台の姿があった。


「お疲れ。」


一時だけとは言え、確かに相棒だったモノに静かに告げ、私は地面に倒れこんだ。


ここからできる手は尽くした。

ここから先は……


「ぶちかませ。」


今正にミニマップ内の敵陣を突破しようとする、マーカー達の出番だろう。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る