シルバー・ブラッド ~『災禍の化身とその眷族』~

白黒椋士

序 独白

 眷族が欲しかった。

 別に人間をうらやましいと思ったわけじゃない――ただ、もう独りは嫌だったから。あの日々をもう一度味わいたいと思ったから。

 楽しいことを一緒にしてくれて、嫌なことも一緒にしてくれて、儂とずっと一緒におってくれる眷族が欲しいと思ったから。

 じゃからあの人間の口車に乗った。

 正直、期待など全然しておらんかった。だって儂は人間じゃないし、人間はみんな儂が化物じゃと知っておるから。

 あの時、あそこにいた誰もが、そんな目で儂を見た。人以外の者を見る目。化物を見る目。異物を見る目。恐怖を見る目――みんなみんなそんな目を向けて、怯えて、泣いて、気味悪がって、睨み付けて、目をそらして、そして逃げて離れて行った。

 でも、かなめだけは違った。

 誰も彼もが遠くから見る中、かなめだけが儂に近付いて来てくれた。姉らしき女の子と繋いでいた手を振り解いて、儂の目の前まで駆けよって来て、顔をまっすぐ見た。

 そして、笑って手を差し伸ばしてくれた。

 じゃからあの時、儂はかなめを眷族にすると決めた。

 だってかなめは受け入れてくれたから。かなめだけが受け入れてくれたから――かなめは他の人間とは違う。人間とわかっていても怖くなかったから。気持ち悪くなかったから。嬉しいと思ったから――だから眷族にした。

 首筋に咬み付いて――儂と同じにした。

 ……でも、どうなんじゃろう。

 確かにあの日、あの時、かなめは儂を受け入れてくれた。

 でも、今はどうなんじゃろう?

 久しぶりに会っても、かなめは儂から逃げなかった。儂が人間じゃないと知っても、儂の傍から離れようとしなかった。

 ……でも、更に儂を知った時、かなめはどうする?

 ――化物め。

 ――君は生きてていい存在じゃない!

 ……違う、違う、違う。

 ――死ね、化物。

 ――人の世にお前の居場所はない。

 かなめはそんなことを思わない。思うはずがない。

 かなめはあやつらとは違う。かなめは儂を怖がらないのだから。

 ――まあ、お前は化物……根本的に人とは相成れない存在だからな。

 ――怖がられて嫌われて避けられて……そして逃げるのが、普通の人間の反応だ。

 人間。

 かなめも――人間。

 頭が痛い。

 嫌だ。苦しい。痛い。怖い。

 もうあの日々に戻りたくない。もうあの時みたいに生きたくない。

 でも……どうしたらいい?

 かなめが儂の元を離れないようにするには。

 儂は一体――どうしたらいい?

 

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