第21話 そんな嫌がらせなんて問題ありません

アマリリス様と別れた後


「ヴィクトリア、アマリリス嬢と何を話していたのだい?そう言えば彼女、お妃候補を事実上辞退したのだったね。彼女は物分かりが良くて助かったよ」


嬉しそうにこちらにやってくるのは、殿下だ。


「アマリリス様は王妃教育も殿下との面会も免除されたと聞きました。ぜひ私も…」


「ヴィクトリア、今日も美味しいお菓子を準備したよ。隣国から取り寄せた珍しいお菓子だ」


「まあ、今日も珍しいお菓子を準備してくださったのですか?それは嬉しいですわ」


殿下が準備してくれるお菓子は、非常に珍しく、そしてものすごく美味しいのだ。我が領地で採れたサツマイモで作ったスイートポテトが一番美味しいと思っていたが、世界にはもっと美味しいものがある様だ。


殿下と一緒に面会の行われる部屋へと向かうと、そこにはたくさんの見た事のないお菓子が並んでいた。何なの、この美味しそうなお菓子たちは。


早速頂く。どれも美味しいわ。こんなおいしいお菓子、初めて食べた。本当に美味しい。


「どうだい?美味しいだろう?でも、もし君が僕との面会を拒否するなら、このお菓子たちはもう二度と食べられなくなるよ。それから、クリーにも乗せてあげられなくなるな。王宮騎士たちとの稽古も無しになるね」


何ですって!お菓子だけでなく、クリーや王宮騎士団もダメなの?私の頭の中で、天秤が浮かぶ。揺れ動く天秤だが、次の瞬間、お菓子やクリーたちが乗った天秤が勝ったのだ。


「分かりましたわ。それでは今まで通り、面会も致しますわ」


よく考えると殿下がいらっしゃらないときは、なぜかクリーにも乗せてもらえないし、王宮騎士団も手配してもらえないのだ。まあ、殿下も別に物凄く嫌いなわけではないから、別にいいか。でも、そのせいで私がお妃最有力候補だなんて、迷惑な噂が流れているのが気になるが…


まあいいか。


甘くて美味しい時間を過ごした後は、2人で丘に向かい乗馬を楽しんだ。そしていつものように、最後は木に登る。今日も王都の街は、綺麗に夕焼けに染まっている。この景色を見るのが日課になっているのだ。


「本当に綺麗な夕焼けだね。君がお妃候補としてここに来てくれなかったら、こんなに美しい景色がある事に気が付けずにいたよ。ヴィクトリア、僕の傍に来てくれてありがとう。これからもずっと一緒にいて欲しい」


私の肩を抱きながら、殿下がまた変な事を呟いている。なぜか最近、訳の分からない事をよく呟いているのだ。


「殿下、私は後4ヶ月もすれば、王宮から去る身ですので、ずっとは一緒にいられませんよ。さあ、そろそろ日も落ちて暗くなってきました。戻りましょう」


笑顔で殿下に伝えると、そのままスルスルと木から降りる。


「待って、ヴィクトリア。一緒に戻ろう」


相変わらず殿下がギュッと手を握って来るのだ。殿下に送られ部屋に戻ってきた後、皆で夕食を食べるため、食堂へと向かう。正直夕食も1人で食べたいのだが、それは許されないらしい。


私が食堂へと向かうと、カルティア様がこちらを睨んでいた。そして、私が彼女の横を通る寸前、スッと足を出してきたのだ。足を引っかけて転ばせようとしているのかしら?もちろん、そんな事はさせない。どさくさに紛れて、カルティア様の足を思いっきり踏んだ。


「きゃぁぁ、痛い!ちょっと、私の足を踏むだなんてどういう事よ」


「あら、申し訳ございません。でもまさか、通路に足が出ているだなんて思わなくて…もしかして令嬢なのに、足を開いてお座りになっているのですか?」


「まあ、ヴィクトリア様ったら。確かに通路に足が出ているのはおかしいですわね。カルティア様は、一体どんな座り方をなされていたのかしら?」


アマリリス様がクスクス笑っている。この人、本当に私の味方なのかしら?


「カルティア嬢、あなたはお妃候補なのですよ。あろう事か通路に足が出る様な座り方は、いかがなものかと思います。気を付けて下さいね」


さらに王妃様にも注意され、小さくなってしまったカルティア様。こんな露骨な嫌がらせなんて、無駄な事は止めたらいいのに…


食事が始まると、何やら視線を感じる。視線の先を見ると、カルティア様が物凄い形相で睨んでいた。その顔が、昔絵本で読んだ鬼婆に似ていて、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。ダメだ…このままだと吹き出してしまうわ。


急いで食事を済ませ、その場を去ろうとしたのだが…


「まって、ヴィクトリア。もう食べないのかい?今日は君の好きなスイートポテトを食後に沢山準備しているのだよ」


「ええ、ちょっとおやつを食べすぎてしまいまして。今日はもうお部屋に戻りますわ」


すかさず殿下が話しかけて来たので、適当にあしらっておく。すると


「まあ、ヴィクトリア様はおやつを食べすぎたのですか?令嬢たるもの、食事の管理はしっかりしないと。ねえ、マーリン様」


鬼の首を取ったかのように、嬉しそうにカルティア様がマーリン様に話しかけている。


「おやつくらい好きに食べてもよろしいのではなくって?それよりもカルティア様、ヴィクトリア様に見苦しく突っかかるのはいかがなものかと。見ていて気持ちのいいものではありませんわよ」


何とマーリン様からも反撃をくらったカルティア様は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。味方だと思っていたマーリン様にも見捨てられて、さすがにショックを受けたのかしら?これを機に、もう私に絡んでこなくなればいいのだけれど…

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