第13話 本当にヴィクトリア嬢は!~ディーノ視点~

そんな僕を見たヴィクトリア嬢が


「あら、人間らしい一面もあるのですね。ずっと作り笑いを浮かべていたので、この人は感情がないのかしら?と思っておりましたのよ」


そう言って笑っていた。そんな彼女についムキになってしまい


「僕だって感情くらいあるよ。でも…僕は王太子だから、自分の感情で動く事は出来ないよ…」


そう叫んでしまった。僕は嘘つきだ、今まで感情すら持ち合わせていなかったのに。でも…僕の心は死んでいなかったのだな。だって今、僕は感情を露わにしているのだから。


「王太子殿下とは、窮屈なのですね。私は自分の生きたいように生きますわ。だって、私の人生は私の物ですもの。誰のものでもありませんわ」


そう呟いたのだ。


“私の人生は私の物、誰のものでもない”


当たり前の様にそう言い切るヴィクトリア嬢。彼女は侯爵令嬢で、高貴な身分。貴族社会も王族程ではないが、自分の意思ではどうにもならない事も多い。それなのに彼女は…


ヴィクトリア嬢は、僕と違って自分の意思を持って生きているのだな…


なぜだろう、ずっと僕は王太子として恥ずかしくない様に生きなければならないと思っていた。王太子という呪縛にずっと囚われていたのだ。でも、彼女を見ているとなぜかそんな呪縛に囚われていた自分が、バカバカしくなってくる。


僕も彼女の様に、自分の意思で生きられたら…そんな事を考えてしまう。それに僕、もっと彼女と一緒にいたい、彼女の事が知りたい。今までに感じた事のない感情が、溢れ出す。


僕は一体どうしてしまったのだろう…


そんな僕の思いとは裏腹に、面会時間が終わってしまった。しびれを切らした騎士が木に登って来て、ヴィクトリア嬢を抱えたのだ。


その瞬間、今までに感じた事のない怒りがふつふつと湧いて来た。彼女は僕のお妃候補だ。気安く触らないで欲しい!そんな思いから、騎士を1人で降ろし、僕が先におり、下でヴィクトリア嬢を支えた。


ただ、それが気に入らなかったのか、頬を膨らませて怒っている。その姿もまた可愛いな…


美しいカーテシーを決めると、急いで騎士と一緒に去って行った。そんな彼女に向かって、姿が見えなくなるまで手を振った。


ただ、やっぱり僕がヴィクトリア嬢を送りたかったな。たとえ護衛とはいえ、他の男にヴィクトリア嬢を送らせてしまうだなんて。僕は何をしているのだろう!


「殿下、そろそろ日が暮れます。お部屋に戻りましょう」


護衛たちに促されて、部屋に戻ってきた。部屋に戻っても、思い出すのはヴィクトリア嬢の姿だ。まさかドレスで木に登るだなんて。それにあの笑顔、可愛かったな…体も柔らかくて温かくて…ダメだ、興奮してきたぞ。


そういえばこの後は、父上や母上、お妃候補者たちとの食事会だったな。またヴィクトリア嬢に会えるだなんて。こうしちゃいられない、急いで着替えを済ませ、食堂へと向かった。すると、既にお妃候補者たちが来ていた。


どうやらヴィクトリア嬢に暴言を吐いている様だ。ただ、ヴィクトリア嬢も黙っていない様で、言い返していた。さすがヴィクトリア嬢だ。それも本人に向かって“茹でダコ”と言っている。確かに茹でダコみたいだな。改めて彼女たちの顔を見たら、僕まで笑いが込みあげてきた。


でも次の瞬間、あろう事かヴィクトリア嬢を叩こうとしているではないか。急いで止めに入った。すかさず令嬢に注意をする。すると、何を思ったのか、ヴィクトリア嬢がポロポロと涙を流し、自分が悪かったと言って、床に座り込んでしまったのだ。


私は体が弱いのです!と言わんばかりに、座り込む姿に、母上が慌てて駆け付け、抱き起している。母上に、必死に自分はお妃候補には向いていないと訴えていたヴィクトリア嬢。そんなヴィクトリア嬢を母上が宥めていた。どうやら母上は、ヴィクトリア嬢を気に入っている様だ。


ただ、体調が悪そうだから、今日は部屋で休むことになったヴィクトリア嬢。その時だった、ヴィクトリア嬢がニヤリと笑ったのだ。それもとても悪そうな顔をして。


もしかしてこの子、体が弱いふりをしていたのか?よく考えてみれば、さっきまで木登りをするくらい元気だった。ヴィクトリア嬢め、まさかこの場であんな迫真の演技をするだなんて。


本当にこの子は、見ていて飽きないな。


笑いがこみ上げてくるのを必死に堪えた。


ふとヴィクトリア嬢の方を見ると、護衛に連れられて行こうとしている。その姿を見た瞬間、再び怒りが沸き上がる。ヴィクトリア嬢は、僕が部屋まで送るんだ!そんな思いで、彼女を抱き掛かえ部屋まで連れて行く。


ヴィクトリア嬢の体は、柔らかくて温かいな。それにいい匂いもするし。ずっと抱えていたい。ふとヴィクトリア嬢を見ると、僕の体を興味津々で見つめていた。この子、分かりやすい性格をしているな。そんな所もまた可愛い!


「僕の体に興味があるのかい?それにしても、随分と迫真の演技だったね」


ちょっと意地悪だったかな?そう思いながらも、ヴィクトリア嬢に問いかけた。すると、首をコテンとかしげ、何の事でしょうか?と、とぼけている。そんな可愛い顔をしてとぼけても無駄だよ。


全て分かっていると伝えると、舌をペロリと出しておどけていた。どうやら領地が大好きで、元気になってからも体の弱いふりをしていたらしい。


きっと侯爵や夫人の前でもあの様な演技をして、領地に居座っていたのだろう。この子ならやりかねない。本当に見ていて飽きない子だな…

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