お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

第3話 王都に帰ってきました

翌日、朝早くたたき起こされた私は、そのまま馬車に押し込められ、慣れ親しんだ領地を後にした。使用人たちには、半年後必ず戻って来ると約束して。

いや、もしかしたら半年もたたないうちに、王宮から追い出され領地に帰ってくるかもしれないわ。そうよ、私が王太子殿下に嫌われてしまえば、さっさとお妃候補から離脱できるかもしれないわ。

お母様も、途中で辞退できると言っていたし。こうなったら、さっさと王太子殿下に嫌われて、お妃候補から離脱しましょう。

「ヴィクトリア、何を企んでいるのだい？顔がにやけているよ…」

前に座っていたお父様が、ポツリと呟いた。しまった、私としたことが、顔に出ていただなんて。

「いいえ、何でもありませんわ。久しぶりに我が家に帰れると思うと、嬉しくて」

本当はごちゃごちゃした王都になんて行きたくないが、とりあえずごまかしておく。

「それならいいのだが…ヴィクトリア、王都に戻ったらすぐに王宮に行かないといけない。すまないが、よろしく頼む。いくら元気になったとはいえ、こんな過密スケジュールになってしまった事、本当にすまないと思っているのだよ」

お父様が申し訳なさそうに呟いている。

「確かに少しハードですが、私は大丈夫ですわ。お父様、半年間私は誰も知らない場所で、１人お妃候補の面々と熾烈な争いを繰り広げないといけないのです…きっとボロボロになって帰って来るでしょう。どうか…どうか王宮から無事戻って来られた暁には、静かに領地で暮させてください」

目に涙をいっぱい浮かべ、必死にお父様に訴えた。

「ああ、私の可愛いヴィクトリア。すまない、どうしてもお妃候補を辞退する事が出来なくて…ああ、分かっている。ヴィクトリアがゆっくり療養できる様、王宮での半年間の生活が終わったら、ずっと領地で暮らせるように手配しよう」

「あなた、やっぱりこんなか弱いヴィクトリアが、いくら出来レースとはいえ、あの熾烈なお妃候補争いの中、生き抜くなんて無理ですわ。やはり陛下や王妃殿下に、娘には無理とお話下さい。それで侯爵家が潰れても、本望ですわ」

なぜかお母様までも、涙ながらにお父様に訴えている。あら？もしかしてこのまま、お妃候補辞退という、美味しい流れかしら？そう思っていたのだが…

「旦那様、奥様。落ち着いて下さい。これはお嬢様の演技です。お嬢様は日々体を鍛えていらっしゃいます。そこらの護衛より強いですし、馬も乗りこなします。もちろん、要領もよく、人に取り入るのも天才的。きっと王宮でも、それなりにうまく生きていくでしょう。そんなにご心配なら、もう一度お嬢様のお元気な映像をご覧になられますか？」

すかさずクロハが携帯式モニターを取り出した。それにしてもクロハったら、こんなものまで持っていただなんて。

「クロハの言う通りだな。またヴィクトリアの作戦に引っかかるところだった。クロハにはヴィクトリアに付いて王宮に一緒に行ってもらおうと思っている。ヴィクトリアの事、どうかよろしく頼む」

正気に戻ったお父様とお母様が、スッと私から離れると、真顔でそんなふざけたことを言っている。もう、クロハったら、もう少しだったのに。

ジト目でクロハを睨むが、あちらの方向を見つめているクロハ。私の視線を完全にシャットアウトするつもりね。本当にクロハったら。

その後、休憩を挟みながら王都を目指す。それにしても馬車の中って暇ね。今日はクロハに朝早くたたき起こされたから、剣の稽古も乗馬も出来ていないわ。王宮でも遠慮なく剣の稽古や乗馬を楽しませてもらおう。

それから…

「…トリア、ヴィクトリア、起きてくれ。ヴィクトリア」

う～ん、うるさいわね。今日は早くたたき起こされたから、眠いのよ。眠い目をこすり、辺りを見渡す。

「やっと起きたか。王都の侯爵家に着いたぞ。それにしても、よくもまあ、あれほどまでグーグー寝れるものだな」

「馬車であれだけ寝られたら、きっと大丈夫ね。さあ、ヴィクトリア、降りましょう」

お父様とお母様が呆れていた。確かに目の前には、我が家が。久しぶりの我が家。そのまま眠い目をこすり、馬車から降りると

「ヴィクトリア、おかえりなさい、会いたかったわ」

「元気そうでよかった。まさかヴィクトリアがお妃候補に選ばれるだなんて。さすが俺の妹だ」

「お兄様、お姉様も。一体どうされたのですか？」

私を待っていてくれたのは、お兄様とお姉様だ。さらに２人の家族もいる。

「あなたがお妃候補になり、王都に戻ってくると聞いて駆け付けたのよ。お妃候補に選ばれるという事は、本当に名誉な事なのよ」

「そうだぞ、我がシーディス侯爵家も、貴族界で注目の的だよ。既にマーリン嬢がお妃になる事は決まっている様だが、それでも候補に選らわれることは我が家にとってメリットでしかない。よくやったぞ、ヴィクトリア」

なんだかよくわからないが、お妃候補に選ばれると言う事は、非常に名誉な事らしい。そう言えば、お妃候補に選ばれた令嬢の家は、王家から何やら色々ともらえると聞いたことがある。さらに貴族界での発言権も強力になると聞いたことがあるし。

なるほど、それでお父様やお母様も必死で私を説得したのね。

「さあ、疲れたでしょう？今日はお妃候補に選ばれたヴィクトリアのお祝いをするために、皆集まっているのよ。中に入って」

お祝いの宴を開くですって。勘弁して欲しいわ。私は疲れているのよ！そう言おうと思ったのだが、どうやら私の好物ばかりを準備してくれていた為、仕方なく宴に参加する事にした。

結局この日は、夜遅くまで、家族と一緒に話しに花を咲かせたのだった。