お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

@karamimi

第1話 面倒な話を両親が持ってきました

「お嬢様、また木になんて登って!万が一落ちて怪我をなされたら、どうするおつもりですか?すぐに降りて来てください」


今日も専属メイドのクロハが、顔を真っ赤にして怒っている。相変わらずね。


「分かったわ、すぐに降りるから、少し待っていて」


スルスルと木から降りる。


「お嬢様は侯爵令嬢でございますよ。どうか令嬢らしくなさって下さいませ。もし今のお嬢様の姿を旦那様や奥様がご覧になられたら、どんなにショックを受けられるか…」


クロハがシクシクと泣きまねをしている。


「大丈夫よ。きっと元気になった私の姿を見たら、涙を流して喜ぶわ」


クロハに向かってにっこりとほほ笑んだ。


私、ヴィクトリア・シーディス、13歳。侯爵家の次女で、7歳上の姉と、5歳上の兄がいる。そんな私は、子供の頃から体が弱く、空気が綺麗な領地で療養という名目で暮らしている。最初は家族に会えなくて悲しかったが、今は固苦しい王都よりも、自然豊かな領地で伸び伸びと暮らしている方が幸せだ。


「全くお嬢様は。もうすっかりお元気になられたのに、旦那様や奥様をうまく丸め込んで、貴族学院に入学する14歳まで領地でゆっくり暮らしたいだなんておっしゃって」


「あら、私が体が弱かったのは本当なのだから、別にいいじゃない。それに、王都に戻った時に困らない様に、きちんと侯爵令嬢としてのお勉強やマナーは全てマスターしているわ」


一応私は侯爵令嬢、それなりのレッスンは受けて来たのだ。文句を言われる筋合いはない。


「確かにお嬢様のマナーは完璧ですが…だからって木登りはお止めください!それに乗馬や剣の扱いまでマスターするだなんて…て、こんな話をしている暇はなかったのでしたわ。急遽旦那様と奥様が、今夜いらっしゃるとの連絡が入りました。すぐにお着替えを」


「今日お父様とお母様が?ちょっと急すぎない?王都から領地までは、半日以上かかるのよ」


「ええ、ですから今朝早く王都を出られたとか…とにかく急いでお着替えを」


クロハに促され、急いで部屋と向かい着替えを済ます。


「それで、お父様とお母様は一体何をしに来るの?」


「それは私にも分かりかねます。ただ、使いの者の話では、かなり急を要する様でして…」


クロハも分からないらしい。ただ、両親が急いで来るだなんて、ろくな話ではないのだろう。とにかく、適当に対応して、早く王都に帰ってもらおう。


そんな事を考えているうちに、日が沈んだ。


「お嬢様、旦那様と奥様が間もなく到着するそうです」


「分かったわ。適当にあしらって、さっさと追い返しましょう」


「お嬢様!なんて事をおっしゃるのですか?本当にあなた様は」


隣でクロハが怒っているが、はっきり言って私は、この快適な領地生活を奪われるなんて御免なのだ。急ぎ足で玄関まで向かい、両親が来るのを待つ。しばらく待っていると、両親の乗った馬車が入って来た。


「私の可愛いヴィクトリア!会いたかったよ」


「また一段と美しくなって!可愛いヴィクトリア」


馬車から降りるや否や、ギューギュー私を抱きしめてくる両親。相変わらず熱烈ね。


「お父様、お母様、お久しぶりですわ。長旅でお疲れになったでしょう?どうぞこちらへ」


貴族令嬢らしく、微笑を浮かべ両親を中に通す。


「それで、今日はどのようなご用件でいらしたのですか?」


「それがだな、実は先日王太子殿下が、13歳のお誕生日を迎えられたのだよ。それで、本格的にお妃候補者を決めると言う話になって。その候補者に、ヴィクトリアが選ばれたんだ」


何ですって?私が王太子殿下のお妃候補にですって!なんて迷惑な話なの!


「お父様、私は王都にはずっとおりませんでした。そんな私が、なぜ?それに王宮で半年間、別の候補者たちと一緒に王宮で暮らさないといけないと伺っております。私は体が弱く、王都の、それも王宮で熾烈なお妃候補の戦いになんて参加させられたら、命が持ちませんわ…」


我が国では、王太子殿下が13歳になると、殿下と歳の近い侯爵以上の爵位を持った令嬢の中から、より優れた令嬢がお妃候補として選ばれる。そして選ばれたお妃候補者たちは、半年間王宮で生活をしながら、王妃教育を受ける事になっている。


そして半年後、お妃候補者の中から正式に王太子殿下の婚約者が選ばれることになっているのだ。


そんな面倒な世界に、誰が好き好んで入るものですか?何が何でも断らないと!そんな思いで、ポロポロと涙を流し、ゴホゴホと咳をして必死に訴えた。体が弱く、今にも消えてしまいそうな儚い令嬢を演じれば、両親は大体私の言う事を聞いてくれるのだ。


案の定


「可哀そうに。そうよね。あなた、ヴィクトリアにはお妃候補なんて、やっぱり無理よ。この子はただでさえ、体が弱いのだから。お妃候補になんてさせられたら、私たちの可愛いヴィクトリアが本当に死んでしまうわ」


ギュッと私を抱きしめ、必死にお父様に訴えているお母様。よしよし、いい流れね。このままうまく丸め込んで、両親には帰ってもらおう。



~あとがき~

皆さま、お久しぶりです。

少しサボっておりましたが、また少しずつ稼働し始めました。

今回はラブコメです。

よろしくお願いしますm(__)m

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