嫉妬で煮詰めたカラメルソース
ラティは真昼間の草原を、ガルムの背中に乗って移動する。
相変わらずの荒っぽい動きで、胸に抱える籠を落としてしまわないように、しっかりと抱え直す。
籠の中に入っているのは、ナーテの魂だ。
多頭の水蛇を倒した次の日に、ラティは世界樹の自分の喫茶店に帰った。
そこで待っていてくれたナーテに、ようやく彼女の願い事を聞くことが出来た。
彼女の願い。それはもう一度だけラウルとの時間がほしいとのことだった。
しかし人間の魂というのは脆弱で、人間界にそのままの状態で留めておいたなら、数日で消失してしまう。そうでないなら、ゴースト系のモンスターになってしまう。
それでも、今のラティには容易く叶えられる。
ちょうど人魚たちから、魂を入れておける籠を預かったところなのだ。
それをオーディンに渡してしまう前に、ミズガルズでのナーテの移動のために使うことにした。
「ガルム、ニヴルヘルムに空いた穴はどうなった?」
「ヘルに言って、急遽塞ぐための作業が行われてるよ。全く、あんなところにいつ穴が空いたんだよ。面倒臭いなぁ」
「早く塞がるといいね」
確かに、ニヴルヘルムに空いた穴についてはしっかり調べておいたほうがいいだろう。ニヴルヘルムでモンスターになった奴のせいか、はたまた神のせいなのか、なんとなく嫌な予感がする。
適当な会話をしている間に、パステイト市内の研究所に辿り着く。
それなりの広さの研究所の中の一階に目的地はある。
ラウルの研究所に入ると、部屋の主は驚いたような表情で振り返った。
「……驚いた。ラティとガルムか。急にこの街から消えるから驚いたよ」
「ごめんごめん! 世界樹の喫茶店にナーテを待たせてたなって、思い出したんだ」
「あ、ああ。彼女か」
俯くラウルの横顔は、まだ悲しげだ。
そんな彼を元気付けるべく、ラティは手に持つ籠を彼の目の高さまで掲げる。
「見て! これがナーテの魂だよ! この籠の中に入れて、運んできたんだ」
「え……、ナーテが、これ?」
日中だから、魂が発する暗い紫色の光はほとんど見えない。
もしかすると騙されたように思ってしまうかもしれない。
だからラティはこの魂がナーテの物だと証明すべく、籠から魂を出し、その魂に一滴だけ世界樹の雫をこぼした。
すると、ナーテの魂が活性化し、人の形になった。
その姿を見たラウルは目を見開き、ナーテを抱きしめようとする。
当然うまくいかず、ナーテの逆側に倒れ込むが、彼は倒れた姿勢のまま、ボロボロと涙を流す。
「ナーテ、ナーテ……。また会えるだなんて」
「ラウ……ル」
ナーテの声も、涙に滲んでいる。
この場にラティが居座り続けても邪魔でしかないだろうから、「ごゆっくりー」と言い残し、ガウルと共に研究室を後にする。
「あいつらの最後の会話を待っている間、僕たちは何してる? 暇なのは嫌だよ」
「これからパステイト侯爵の邸宅に行って、侯爵と話をするよ。ガルムには暇かもしれないねー」
「うげ。まーいいや」
今日世界樹の喫茶店から、ミズガルズの喫茶店に移動した時、喫茶店のポストにパステイト侯爵からの手紙が入っていた。
侯爵とは第一王子をもてなすためのパーティで一度だけ会話したくらいだったので、ラティの記憶にはあまり残っていないのだが、向こうはしっかりと覚えてくれていたようだ。
ラティとしても、第一王子からナイトの称号を与えられた立場として、苗字や領地についての説明をしてほしいところ。
その辺の話があるとのことなので、ナーテの件のついでにお呼ばれすることにしたのだった。
「パステイト侯爵の手紙の返事が彼に届くよりも前に、邸宅に到着しちゃうなぁ。突然の訪問みたいに思われそう」
「まぁいいんじゃないか。お前はこの街を救った英雄みたいな存在みたいだし」
パステイト侯爵家の正門に着くと、侯爵の私兵があっさりと門を開けてくれる。パステイト侯爵の手紙が招待状がわりとなっているようだ。
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