第40話 ストーリーテラー_2

ミーナには不思議な力があった。


発動条件は耳に触れること。


そうするとわからないこともなぜか全部わかるようになったし、今知りたいことが全部わかった。どうすればいいか分かるという特殊な魔法の様だった。

ミーナはなんとなく響きが良かったのでこの力を「ストーリーテラー」と呼んでいた。


例えばシルフィード広場でレヴィアナに説明した内容も、もともとミーナが全部知っていたことではない。その瞬間、その瞬間で「ストーリーテラー」で知ったことだった。


【貴族と平民の平等】をレヴィアナさんに聞かれた時もこの「ストーリーテラー」を使った。ミーナ自身、この学園に来るまで【貴族と平民の平等】なんてモノ存在すら知らなかった。


小さい頃得意げに両親に話したらとても気持ち悪がられた。悪魔の申し子とも呼ばれたこともある。

それ以来このスキルの事について人に話すのはやめた。


そして最近は使う事自体少し控えていた。

答えが分かってしまうのはなんだかずるい気もしたし、みんなと一緒に悩む時間もが好きだった。

時々【貴族と平民の平等】の様にずるして使ったこともある。この能力おかげで生徒会のメンバーとも、レヴィアナやナタリーとも仲良くなることができたとも思っている。


この学園に来てからこの能力はどんどん強くなっていった。


昔は耳に触らないとわからなかった能力だったのに何もしなくても頭の中に言葉が勝手に浮かんでくるのは少し怖かった。


さっきみんなに披露した「村に伝わるディスペアリアム・オベリスクの唄」も突然頭に流れてきた単語をそのまま口にしたに過ぎない。


そして、先程からずっと続いているこの嫌な予感も、もしかしたら「ストーリーテラー」なのかもしれない。


「ナタリーさん、少しの間、10秒くらいミーナ動かなくなるので、少しだけ守ってくださいです」


ミーナは久しぶりに自分の意志で耳に触れ発動させた。

ミーナはこのモンスターたちの、そしてこのイベントの目的を理解した。

――――ミーナかナタリー、どちらか1人をこのイベントで殺すこと。


***


ナタリーさんの手を取りながら話している間、あれほどまでにミーナたちを追って来ていたモンスターの攻撃が止んでいた。もしかしたら2人とも殺してしまうという事態を避けるためだったのかもしれない。

それでも絶対に逃がすものかという意志が伝わってくるほど、四方八方から刺すような殺気が伝わってきていた。


「ナタリーさんはうまい事生徒会メンバーと合流出来たですかね?」


誰ともなく、強いて言えば世界に話しかける。

ナタリーさんを逃がした方向は合っているはずだ。それに未来を願ってしまった事で新しく覚えたこの嵐魔法で、生徒会メンバーまでのモンスターも一掃できているはず。


「そんなことしなくてもミーナは逃げないですよ」


ナタリーさんが去ったのを見届けても、モンスターたちはナタリーを追うことをせずにミーナの周りを取り囲み始める。飛行するモンスターは空が見えない程の覆い隠す徹底っぷりだった。


クラスメイトもきっと全員無事だろう。

生徒会メンバーも全員無事なはずだ。

ナタリーさんもここでミーナが死ねばこれ以上このイベントで襲われることも無い。

それに誰かを守って死ぬんだから、きっとこれは絶対に良い死のはずだった。


「でもやっぱり少しだけ怖いですね……」


先ほどまで止まっていた体の震えが戻ってくる。ナタリーさんといるときはあんなに暖かかったのにあたりが冷たくなっていく。

何も後悔はない。それに仕方がない。これはそういうものだ。


「でも、大丈夫、怖くない、だって、ミーナは強い子です。いい事をしたのですから」


何度も唱える。自分に言い聞かせるように、自分を騙すように。

そうしないと、怖くて、寂しくて、悲しくて、涙がこぼれてしまいそうだったから。


この後の文化祭も、舞踏会も、シルフィード広場での買い物も、もっともっとみんなと楽しい時間を過ごしたかった。もっと、みんなで笑い合いたかった。


「だめです、弱気になったら、ミーナは悪い子です、悪いことをしたら、永遠の成長の機会が途切れてしまう……です」


何度も何度も言い聞かせる。


「またみんなと仲良くおしゃべりしたかったです。みんなとご飯が食べたかったです」


どれだけ感情を押さえつけようとしても一言喋るごとに感情が抑えられなくなる。溢れる涙をぬぐうことも忘れて1人しゃべり続ける。

魔法を使えばモンスターはこのモンスターは一掃できる。この嵐魔法はそれくらいの力はある。でも、ここでミーナが居なくならないともっと悲しい事が起きてしまう。


「もっと、もっともっとみんなと仲良くなりたかったです」


辺りを囲ったモンスターが一斉に魔法を唱え始める。自分たちも一緒に爆発するくらいにマナを練り込んでいる。こんな至近距離で受けたら絶対に助からない。

みんなとのお別れがゆっくりと近づいてくるのがわかる。


(なんで、ミーナなんだろうなぁ……)


最後の泣き言は声に出さなかった。誰にも届かない嘆きを心の中にこぼす。


ミーナは目を閉じ、耳をふさいだ。

モンスターたちが一斉に魔法とも言えないただの破壊のための塊を放とうとする。


もう恐怖はない。ただ、最後に、みんなに会いたかった。

ただそれだけを願い、最後の時を待った。

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