第3色 【秘色の二人】

 その次の日の昼休み。茉莉花は今日もクラスの奴らに周囲を囲まれていた。

「あ、ヤバ!あたし先生にお呼ばれしてたんだった!ちょっとごめん、行ってくる!」

そう言って廊下へと駆け出していく茉莉花。左手を握って、小指を立てていた。

  ――「集合!」の合図。

「おい颯汰!話聞いてるのかちゃんと?」

「……悪い。聞いてなかった」

「ひでぇ!人が相談してるってのに……」

「すまん、ちょっとトイレ」

「あ、おい!?」

 青葉をガン無視して、教室から出る。階段を降りて、ほぼ使われることのない視聴覚室の扉を開ける。立て付けも悪く、教師らの怠惰なのか鍵が常に飽きっぱなしになっているフリースペースだ。

「遅い!遅い遅い遅い遅い遅~い!!!」

 扉を開けた途端、キャンキャン声が俺の耳をつんざいた。茉莉花が子犬に見えてくる。

「……で?何の用?」

 誰かに盗み聞きされたりしないように、内側から鍵を閉めながら問いかける。茉莉花は椅子に座り、机に体重をかけて頬杖をした。不服そうな顔をしている。

「流石のあたしでも連日あれじゃ疲れちゃうもの。息抜きついでの充電ついでの……」

「"ついで"が多いな……」

 溶けたみたいにぐで~っと机に体を伸ばす茉莉花の頭をそっと撫でてみる。

「えへへ~♪充電……♪」

 ふにゃ……と笑みをこぼしてはにかむ茉莉花の様子を見て、ついつられて俺まで表情が柔くなってしまう。

「だったら、仲の良い奴の1人でも作ればいい。俺みたいにな」

「あ~、ありだねそれ!確かに颯汰、瀬戸くん以外と話してるとこあんま見たことない……」

「なんか言ったか?」

「なんでもないです!!!……って痛ァ!?」

 軽くデコピンを食らわせる。思ったことをすぐ口にだすのは茉莉花の悪い癖なのだろう。

「あ!そうだ、本題を言うの忘れてた!」

「ん?」

 茉莉花は「ふふっ」と笑みを洩らして、席を立ち、真っ黒な閉められたカーテンを開いて声高らかに言った。


「――ね、あたしの家、来ない?」


「……ん?」

 五時間目の予鈴のチャイムが鳴った。

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