私刑

クソみたいな人生



眩しい日光が暗い明日が今日になったことを知らせる。

いつも通りの素晴らしい絶望の朝だ。


朝飯は食べずに家を出る・・・・いや、正確には違う。

食べたいが食べられずに静かに家を出る。

″いってきます"と心で呟いて。







俺にはルーティンがある。

朝早く高校に登校し、″トモダチ"の机にジュースを置く。

もちろん自腹で買った物だ。

前にコーヒーを置くのを忘れたことがあった。

その時の事は鮮明に頭と体で憶えている。


あぁまた嫌なことを思い出したな。

体の奥の傷が痛む。

おかしいな、前の傷なら治ったはずなのに。




ガラガラガラ


ドアが開いた音がした。

一人、また一人とぞろぞろと教室にクラスメイトが入ってくる。

俺の″トモダチ"のA 、B、C

3人も入ってきた。

″トモダチ"達は席に着き、こっちを見て鼻で笑いコーヒーを飲んでいる。

まぁ金が減るだけなら楽なんだがな。


それから少したった後にいつものように寝た振りをしていると、肩を叩かれた。

肩を叩かれた方に顔を向けると、目の前が突然暗くなった。

ヒリヒリとする痛みもある。




″キャハハハハハハハハハハハハハハ"

"こいつwもろくらったやんw″

″あぁ~スッキリしたーありがとな矢野w"



ああ殴られたのか。

俺は周りの笑い声でわかった。

俺もすぐに笑う。

笑わないと殴られるから。

そして、笑わないとやっていけないから。


「なあ、今日もサボらね授業。また屋上きてよ。あれやるから。」


トモダチAが俺に言う。


「うん。わかった。」

すぐに笑顔で俺は答えた。

そう言うと、喜んだA、B、Cは笑いながら屋上に向かった。





ドンドンドン




殴られる。

腹とかを思いっきり

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

顔とかが少し腫れて、大衆が見てわかるような傷ができた。

ああ痛い。

でも、体の外より内が痛い。


周りには殴っているABC以外に数人が囲んでる。

周りの笑い声も、雑音になってきた。

すべてを催すような腹の痛みの後に雑音が聞こえてきてまた痛みがくる。

それの繰り返し。



これをABCはスパーリングというが、俺は集団リンチだと思う。

でもいじめとは思わない。

そう思ったら負けだと思うから。

アホらしいと笑うか、それとも"かっこいいw"と内心馬鹿にするのかな。

それでも自分の最後のプライドはいじめを認めないことだけなんだよ。








***









帰り道は少し楽だ。

”トモダチ”のみんなはここまでは来ない。

理由は部活にみんな入っているからだと思う。

みんな楽しそうで何よりだ。



俺の帰り道にはアーケード街を通る。

帰るのが夕時ぐらいだからか、そこそこ人通りがある。

死んだ顔のサラリーマンに変な格好している奇人。

田舎だがいろんな奴らのいるこの通りはすごいなと思う。



今日も同じように歩いていると、ガラの悪そうな三人が高校生にナンパしているのが見えた。

少し近づき携帯をいじっているふりをして、周りをみると

少し細身で制服を着た女子高校生。

その子の腕を掴んでいる大柄の男。

後ろに赤髪のチビに青髪のチビ。

よく見ると大柄の男の腕にはタトゥーが入っている。


「なあ〜いいじゃんかよ〜。少し遊ぼうぜ。」

「いや・・・ちょっと用事があって。」

「え、断るの?俺の誘いを。」


大柄な男はそう言い、後ろを向きチビ達を見る。

チビ達は焦り出したように口を開いた。


「オイココハオオグマサンノシマナンダゾ。ナメタクチキイテンジャネーゾコノアマ。」

青髪がとても高い声でそう言った。

正直笑いそうになる。

「ソウダソウダ。アノトウリュウカイノヒトトマブナンダゾ。スッゲーンダゾ。」

今度は赤髪がそう言った。

ちなみに闘龍会とはここらへんのヤクザのことだ。

また高い声だ。

こいつら地声がこのソプラノボイスwなのか・・・



ドヤ顔の大熊と呼ばれていた大柄の男。

しかし、jkはドン引きしており、青ざめた顔で大熊を見ている。


「さあ嬢ちゃん。俺等とあ〜そぼ。」

「・・・」

「うん。どうしたかな。」

「・・・いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「えぇ・・」


jkは急に発狂してその場から逃げた。

大熊は絶望した顔をしており、周りからはクスクスと笑われている。

このちょっとしたコントを見て俺は笑いがこらえきれずに



「ブッフw」 


と笑ってしまった。


少し声が大きかったか、大熊がこちらを向く。

「おい、何笑ってんだ!!殺すぞ!!」

俺の周りから人が離れていく。

こちらに近づいてくる大熊と赤髪と青髪。

”あ、やばい”と本能でわかるが、行動ができない。

そもそも行動ができたら、今のような姿にはなってない。

大熊が俺の制服の襟を掴み、体を宙に浮かす。


「なに笑ってんだあ!!てめえ誰馬鹿にしたかわかってんのか!!」

「すいません!まじすいません!少し調子乗って・・」

ドン

っと顔を殴られる。何発も。

「チョウシノッタバツダバカヤロウ」

「ソウダソウダ」

赤青髪のチビどもが鼻で笑っているのが気に食わない。

体格とか体重の関係なのかは分からないが、一発一発がいつものじゃれ合いが比にならないくらいに痛い。

体の芯に響く感じ、、、前にバットで殴られた時の感覚に近い。




少し殴った後に大熊は襟を握るのをやめ、今度は首を締めてきた。

「ゔっ」

酸素が脳にだんだんと運ばれていかなくなるのが意識的にわかる。

だんだんと苦しさからか視界がぼやける。

息が詰まる・・・




ジョボボボボボボ




「うわっこいつ漏らした。きったねーよ!クソが!」

咄嗟に大熊は締めていた俺の首を離した。

そこで俺は初めて自分が漏らした事に気づいた。


「っ、、、」


声が出せない。

逃げようとしても腰が抜けて逃げられない。

すぐさま土下座の形を取り、謝罪をする。

しかし許してくれるわけもなく、大熊からはサッカボールキックをプレゼントされる。

もうここまで来ると痛みよりも悲しみが来ている。

いつも通りの最悪な日が忘れられない1日になりそうだ。





「イジメ!!!!!ダメ!!!!!」

ボコボコにされているとこに声が聞こえてくる。

慣れていないような日本語。

それとともにこちらに向かってくる足音も聞こえてきた。

俺は反射的に顔を上げる。


「あ?なんか用か?この俺に。」

大熊は自信に溢れたように言った。

この声や今までの行動や体格でいままで肉体的いじめを経験していないのがわかる。

生まれ持ったクソフィジカルエリート。

クソが、くたばれ。



「オレ!! ボウリョク!! キライ!!」

ガチガチの体をした黒人の男が近づきながら言った。

金属バットを持ちながら走っている。

近づいてくるまで分からなかったが、身長がとてつもなく高い。

大熊も180はあったが、黒人はそれ以上だ。

なんかラップも上手そうだ。


「お、おい!こいつどうにかしろ!」

大熊は仲間をもとめて周りを見て赤青髪を探すが、すでに姿を消していた。

大熊はそれを把握した瞬間逃げようとするがすぐに黒人に捕まった。

首を掴まれている。





「イキテ カエレル オモウナヨ」





バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!バゴォン!!


黒人の男は聞いてるだけでヤバそうな音を立てながらバットで大熊を殴っている。

最初の数発で大熊をフラフラにさせて、土下座の体制を作り壁に背中をもたれさせる。

そこに全力のフルスイング。

手慣れたようにやる黒人に違和感を持ちながら俺は黙って見ている。

血がエグい量出ている。

周りの見て見ぬふりだった人も通報を始めた。


俺は咄嗟に黒人の肩を叩き、通報している人を指差した。

すると、指を差された女性はしていた行動をやめて一目散に逃げ出した。

黒人の方は


「・・・・・イクゾ」

それだけつぶやき、俺の手を掴んだ。

そしてありえないスピードで走り出した。








アーケード街を抜けてそこそこ走り、田んぼしか見えないような所に出る。

周りの景色が歪んで見える。

そんな状況の中黒人は俺に話しかける。


「スコシ ハシル ジカン カカル ゴメン 」

「いや走る前に言ってよ。」

「・・・・・・ゴメン」

黒人の少し悲しそうな声が聞こえた。

つか俺声もう出せたんだ。





***





「ここどこ?」

「・・・」

やっと止まったと思えば、周りが田んぼの中にポツンと一軒家。

築何年だ・・・少なくても新築ではないことはわかる。

少しボロい事を気にしなければ、ただの二階建ての家だ。

誰が住んでいるのか、そもそもなんでこんな所まではしらされたのか・・・ 

疑問しか無いが黒人は答える気配はないし、手を離しそうもない。


「え、入るんすか?」

「・・・」


手を引かれるまま二人で一軒家の中に入っていく。

鍵もかかってなく本当に不気味な家だと思う。




「お!おつかれっす〜レビン。・・・・・え、誰すかそいつ?」

家に入り少し奥の方にあったリビングに向かうと、二人の男がいた。


一人はこの黒人ほどではないが筋肉があり肩幅が広い。

身長は170ちょっとぐらいで、首に十字架のネックレスをしており、黒い革ジャンを着ている。

眼力が怖く強面な顔だ。

こっちをじっと見つめてきて怖い・・・


もう一人の方は、細身でスラッとしている。

身長は160ちょっとぐらいで、金髪だ。

さっき、黒人をレビンと呼んでいるのはこいつだ。


「コイツ ナカマ ナレソウ」

「え、いや、話が見えないんですけど・・」


何を言っているんだこいつら?勝手に仲間って・・・状況が全く掴めない。


「つかレビン、また何も説明しないで連れてきたんすか?」

「ア・・・・・ゴメン。」

「はあ〜またっすか。」


少し小柄な男が俺に近づき、頭を下げてきた。


「まじすんません。困りましたよね急にこんな所に連れてこられて・・

僕は柳勇斗。こっちの黒人がレビン。あっちのいるのが加藤高貴。俺たちはね・・・・ちょっとした社会貢献活動をしているっす。レビンにとあったときまでの事少し話してくれる嬉しいっす。」

「・・・・・まあ、わかりました。」

俺はレビンに助けられたことを話した。





「なるほど・・・だいたいわかったっす。つか時間とか大丈夫すか?下校中襲われたんすよね?」

「あ、時間とかは大丈夫です。今日は親家にいないんで。」

「あ、なるほど。ならさっそく本題っすけど・・・学校でいじめられてますか?もしそうならいじめてくる奴にちょっとした復讐したくないっすか・・・」






柳とかいう奴が慈愛の目でこちらを見つめる。

さっきの発言と相まってかイライラしてきた。


なんでこいつらは会ったばかりの俺を弱者認定できるんだ?

こいつらに俺の何がわかるんだ?

そんな哀れみの目でこっちを見て、人の気持ちとかわからないのか?


さっき助けてもらった恩はあるが、ここは帰ろう。

・・・ったくついてこなければよかった。


「復讐って、、、ていうか俺いじめられたりしてないんで。もう帰っていいですか。」

「あ〜すいません。少し急だったっすね。実は僕たちも元はいじめられっ子で、そんな子を一人でも救えたらな・・・と思いこんな事しているんすよ。いじめっ子に少しだけ天誅を下すサービス的な。もちろん金は取らないんで少し利用しないっすか?」

そう言って柳は頭を下げた。

少し意外だったが、俺の気持ちに変化はない。



「いや、いじめられてないんで。」

「・・・」

柳が少し黙ると、レビンが口を開いた。


「バッグ ナカ ムシノシガイ・・・」

「え・・・うわっ!?」


俺はすぐさま自分のスクールバックの中を確認する。

すると、そこにはカマキリやバッタなどの死骸が大量に入っていた。

 

「ナグッテルトキ スコシ ナカミエタ バラシテ ゴメン。」

「なら先に言ってよ・・・」


柳が近づきバックの中を確認しにくる。

もう一人の加藤?だっけな・・そいつは携帯に夢中そうだ。


「・・・これはひどいっすね。」













「もうほっといてくれよ!!」

俺はそれだけを言って、家を飛び出した。

知らない道をがむしゃらに走る。

後ろなんて見ないし見たくもない。

そして、ボロい家から少し離れた公園のブランコに俺は座った。


 

”もうほっといてくれ”

これが俺の口からでるとは・・・自分のことながら笑えてくる。

今まで散々助けてくれなかった周りをあんだけ恨んで結局これかよ。

ろくに助けを求めずに、差し伸べられた手すら自分のプライドが邪魔して拒絶する。

馬鹿すぎだろ、俺。

・・・今何時だろ。


俺はバックの中の携帯を探そうとしたときに気づいた。

あ、バック忘れた。


「あー!!!!くそが!!!」

口からは情けない言葉しか出ない。

だんだんと怒りに頭の中を支配されていく。

くそが。

脳がバグりそうだ。

変な輩に絡まれて、助かったと思ったらまた変な絡まれ方をされて・・・

目に見える奴全員殺したい気分だ。

最悪だ。

しかも外もなんか寒い。



落ち着くためにブランコでも漕いでいると、きれいな夕焼けが目に入る。

少し見惚れてしまった後に、周りに目を遣ると部活帰りの見慣れた学生服の学生の姿が見えた。

もう、そんな時間なのか。

結構たったんだな。


無心になるように努めながら、ブランコを漕ぐ。

周りからの視線が少し痛いが、気にしない。

所詮は自分の意識の問題だ。

笑われたってところでただの雑音でしかない。








「あ、サンドバック君元気?ひとりで何してるのwww」

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