深炎のオーバーリンク
ニア・アルミナート
第1話 深淵
悔しいが、才能による差というものは存在する。俺は恵まれない、才能を持たない側の人間だった。
才能というものは残酷だ。人の価値というものを固定化してしまう。人は平等にはなれないのだ。
俺は才能がなくて、皆から避けられてきた。
◇◇◇
世界にダンジョンが突如として出現し世界の常識が変わった事件から8年。当時の俺は9歳だったがあの事件当時の事を昨日のことのように覚えている。
当時の西暦は2025年。まだ二酸化炭素やら温暖化やらが世界の課題だった。その時世界中で大きな地震が同時に起きて、その数日後に初めてのダンジョンがアメリカで確認された。初めてアメリカからゴブリンの姿がネットに公開されたときは陰謀だのデマだの噂話が絶えなかった。
そして2つ目のダンジョンが見つかった中国はろくな調査もせずにダンジョンを封鎖してしまい、歴史最大の悲劇が起きた。封鎖されていたダンジョンから突如として白銀の狼が出現し、辺りの街すべてを凍らせつくし、その際の犠牲者は2000万人にも上るとされている。
ダンジョンを軍で調査し続けていたアメリカでこのようなことが起きていないことから、一定以上人が入らないとダンジョンから魔物が出てくるという認識が広まり、それは実験によって証明された。
ここからさらに各国にダンジョンが生まれ、さらに調査が進み、一定以上の強さを持った迷ダンジョンの生物は殺害するとなにかの力を持った石を落とすことが分かった。その石は魔石と名付けられ、さらなる調査の対象となった。
調査の結果この魔石は一切のデメリットなくエネルギーを生み出すことのできる文字通り魔の石であったことが判明した。これによって世界のエネルギー転換は急速に進み、今では二酸化炭素排出量は工業的な観点からすると0に近くなった。詳しいエネルギーの取り出し方は俺にもよくわからないが、特殊な装置を使うと魔石が縮小するかわりに高熱を発するそうだ。
そしてこの魔石を売って稼ごうとするのが俺たち探索者だ。探索者はダンジョンに存在する生物、魔物を狩って魔石を入手し、それを売ることで生計を立てる。もちろん強さも必要だし、命の危険もあるが、魔石は1個だけで必ず1万円を超える。場合によっては億を超えたこともあった。強さに関しては、迷宮が出現してから、人は【スキル】という才能が与えられた。どうやって芽生えたものなのかはわからないがダンジョンの加護だというものが大多数を占めている。それに人は魔物を倒せば倒すほどレベルが上がる。レベルが上がると基礎の身体能力も向上する。だから命の危険があれども探索者を志す人は多い。かくいう俺もその1人だった。
「俺に才能はなかった」
俺はどれだけレベルを上げても基礎の身体能力が上昇しなかった。加えてレベル5でもらえるはずのスキルも無し。もう少しレベルを上げればスキルがもらえるかと思ってレベルを上げ続けて今のレベルは9。しかしそのステータスはレべル1から一切変化のないものだ。もう一度見比べてみよう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
名前:神宮寺 悠斗
レベル:1
ステータス:攻撃力 10
守備力 10
魔力 10
知力 10
精神力 10
速度 10
スキル:なし
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ステータスは成人男性の平均が10とされている。俺は17歳で全ステータスが成人男性並みだあったから少し喜んでいたのだが。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
名前:神宮寺 悠斗
レベル:9
ステータス:攻撃力 10
守備力 10
魔力 10
知力 10
精神力 10
速度 10
スキル:該当なし
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
この通りレベルが上がっても何の変化もなかった。先ほどの話の通り魔石を手に入れるにはDランクに格付けされる魔物を倒さなければいけない。そしてDランクの魔物を討伐するには全ステータスが50~100ほどは必要になる。
普通の人であればレベル10~15で達している数値になる。だが俺は見ての通りだ。圧倒的にステータスが足りない。そしてスキルもない。こんな類の才能のなさは見たことがない。
俺は高校でもパッとしたタイプではない。誰一人、話しかけてくれる友だっていない。勉強だって中の中だ。この世はなぜこんなにも格差というものが存在するのだろう。家族に恵まれていなければ俺は……。
さて、腹いせにゴブリンを1匹葬ってから帰ろう。ゴブリンのステータスはオール8程度といわれているから武芸を割とかじってる俺なら無傷で倒すことができる。
「……見つけた」
俺は今札幌の地下大迷宮にいるから曲がり角を曲がればすぐにゴブリンを見つけることができる。俺は気配を殺しながらゴブリンに近付き、これ以上近ずくとばれるというところまで近づいた。そして勢いをつけて飛び出す。
「ゲギャッ!?」
驚くゴブリンの顔面に拳を叩き込み、そして体を翻し回し蹴りを打ち込む。一年ほど休日にゴブリンを狩り続けた俺の必勝パターンだ。吹き飛んで壁に当たったゴブリンはそのまま空気に溶けるように消えていった。Fランクのゴブリンには何のドロップもないから当然だ。
ん? ゴブリンが完全に消滅した後、少しの違和感を感じた。レベルが上がったか?
とすれば、ついに俺のレベルが10になったわけだ。どうせ変化はないと思うが、レベル10というのも節目。一応見に行ってみるか。先ほど見たステータスはメモに残しておいたもので、リアルタイムのステータスの確認はダンジョンの入り口にあるステータスボードで可能だ。
物思いにふけっているうちに割と入り口から割と離れていたみたいで入り口まで20分かかった。さて、本題のステータスの確認と行こう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
名前:神宮寺 悠斗
レベル:10
ステータス:攻撃力 10
守備力 10
魔力 10
知力 10
精神力 10
速度 10
スキル:<深淵魔法>
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なんだこれ……」
スキル欄に見たこともないスキルが追加されていた。他に例のない、珍しいスキルだったりするか? 珍しいスキルの例とすると、重力操作や、雷の幻想者が思い浮かぶな。
重力操作は石川県の大学に所属するBクラス探索者が、雷の幻想者はSクラス探索者、雪花 竜二が所持している。ちなみにだがBクラス以下の探索者は全て普通探索者とされる。Bクラス以上になるためには試験をパスする必要があるが……。これがまた厳しい試験だからな。
まぁいい。今は一旦家に帰ろう。これ以上遅くなると家族が心配するからな。第一、今日は土曜日だ。深淵魔法の実験なら明日でもできる。
ダンジョン入り口の改札に探索者証をかざしてダンジョンからでる。昔はこの機能は駅で主に使われていたらしいな。まぁどうでもいい話か。
10分ほどして家についた。うちはそこそこの一軒家に両親、俺、妹の4人で暮らしている。鍵を開けて中に入ると、どたどたと足音がして妹が玄関まで勢いよく飛びこんできた。
「遅いよお兄ちゃん!!」
「ごめんよ、きらら。ちょっといいことがあってな」
妹の神宮司 きららだ。もう14歳になるんだがいまだに俺にべったりで将来が少し心配だ。
「言い訳無用だよ!! お母さんも心配してたんだから!」
「母さん今日休みだったか?」
うちの両親は共働きでほとんど家にいないはずだったが。
「今日はお母さん半休なんだって~」
なるほど。リビングに行くと母さんがコーヒーを飲んでくつろいでいた。いま午後八時なんだけどな?
「母さん、ただいま」
「遅かったわね~。なにかいいことでもあったの~?」
「ああ、あったよ。それでだけど母さん、俺、ダンジョンの奥に挑んで俺も稼げるようにするよ」
そういったら母さんの表情が真剣なものに変わった。普段はほんわかしている母さんだが、こうなるとやはり貫禄がある。
「悠斗、あなたの気持ちはうれしいわ。でも無理して怪我したりだとか、そういうことは一切しないってちゃんと約束して頂戴ね?」
「わかってるよ、母さん。絶対に無理はしない。心配してくれてありがとう」
「いい子ね。ほら、ご飯作ってあるから、食べておいで~」
やっぱり俺はこの家に生まれてよかった。
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