第575話 335『【アムリタ】完成!』

「……やっと、できた」


 アンナリーナの原点、ツリーハウスの調薬室で今、ガラスの小瓶に入った液体を見つめている。

 吐息をひとつ、改めて鑑定して『アムリタ』と提示されているのを確かめて、机に突っ伏した。


 苦節10年……

 まず、ベースとなるポーションを作るのに苦心した。

 その基礎となる素材から吟味し、各地のダンジョンを、魔の森を駆け回り、白草石ひとつから吟味した。

 そして最もネックとなったのは、古文書のレシピに載っていた【アスビュルディルデ】を探す事だ。

 これは文献に名前が載っているだけで、一体どのようなものかさっぱりわからなかったのだ。

 アンナリーナは各地の大学や学院を巡り、しらみ潰しに探していった。

 ようやく小さな情報を見つけたのは、この世界で3つ目の大陸【ダンバルドイヤ】での事だった。


 この【ダンバルドイヤ】は古代エレメント国があった場所の候補に上がっている大陸だ。

 それを証明するように【アスビュルディルデ】という鉱物が採掘出来ると言う言い伝えのある鉱山跡があり、アンナリーナは見事そこで発掘する事に成功したのだ。

 これはいくつかある【アムリタ】の素材のうち、一番難関だったもので、これを機に作成は一気に進んだ。



「長かったな」


 机には合計10本の小瓶が並んでいる。

 素材的にもこれから先はもう二度と作る事がないだろうこの薬は、世に出せば恐ろしいほどの値がつくだろうが、アンナリーナは流通させるつもりはない。

【アムリタ】は、その効果が素晴らしすぎて問題がありすぎるのだ。



 10年経っても、アンナリーナは14才当時のまま、ほとんど成長していない。

 だがこの10年で、彼女はその縁を結んだ人物を何人も失くしていた。

 懇意にしていた冒険者などは、無事引退できた人間の方が少ないほどだ。

【疾風の凶刃】もテオドールがパーティーを組んでいた盾職を失っていた。

 冒険者稼業など別れが常だとは言うが、その度に送ってきたテオドールはどうしていたのか。

 実はテオドールは、膨大なアンナリーナの魔力に曝されているからなのか、その老化はゆっくりになっていた。

 現在、もう50も近いというのに、10年前とほとんど変わっていない。


「おめでとう、やっと完成したんだな」


「ありがとう。

 ……久しぶりに旅がしてみたいな。

 ねえ、行ってみない?」


 アンナリーナたちに準備は必要ない。

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