第570話 330『滅びの行軍』
「得心できたか?」
さっさと歩き出したアンナリーナに並んだテオドールが、大きな身体を曲げ覗き込んで言う。
「元々、もうそんなに気にしてないし。
そう……これはけじめかな。最後の」
アンナリーナの横顔は厳しい。
それは彼女が納得しようとしているのだろう。
「それならいいんだ。
悪いな、余計な気を回して」
「ううん、ありがと」
アンナリーナの小さな手が、隣を歩くテオドールの大きな手に重ねられる。
そして、そっと指を握った。
それからしばらく、村を出るまでふたりは無言だった。
村の外をしばらく歩いて拓けた土地を見つけると、セトが竜化して黒光りする羽を広げた。
「ちょっと時間がかかるから “ 箱部屋 “を出すね」
これは複数でセトでの移動をする場合、快適に過ごすために作られた、馬車の乗車部分のようなものである。
それをセトの身体に吊るし、飛ぶのだ。
「セト、いつもあなただけに負担をかけてごめんなさい。
これからは移動用のドラゴンも増やすつもりでいるわ」
「俺は主人を乗せて飛ぶのが心底嬉しいのだ。
これからも主人の騎竜の座は誰にも渡さん」
「うんうん、これからもよろしく!」
男心の複雑さを理解できないアンナリーナを、セトが気の毒だとテオドールは思う。
テオドールは同じ女を愛する男として、セトの苦しい胸のうちは十分理解していた。
彼は決してその心のうちを明らかにしないだろうが、その想いはひしひしと伝わってくる。
だからこそテオドールは何も言わない。
隣国サンジェラスを引き裂いているスタンピードの先端に至るまで半日、そこからは月のない暗闇のなか夜空を飛び続け、ようやく大元のダンジョンにたどり着いたのは夜明け近くだった。
「しかし凄いね。
今までいくつもスタンピードは見てきたけど、確かにこれは最大規模だよ。
いったいどれだけ湧き続けるんだろう」
スタンピードは、最初は浅層の弱い魔獣から溢れ出し、それが徐々に強い魔獣に移り変わっていく。
それなのにまだホブゴブリンやオーク、オーガなどの亜種が湧いているのだ。これまでどれほどの量が湧いたのか計り知れない、恐ろしいダンジョンだ。
「これは……
一匹ずつは大した脅威ではないが、圧倒的な物量に任した行軍だ。
これでは小国などひとたまりもなかっただろう」
うねる大蛇のような、生き物を呑み込みそれらを自分たちの糧に変え、進んでいく魔獣たち。
テオドールはそれを見て総毛立っていた。
「さて、始めましょうか」
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