第489話 249『首都到着』
ドゥンケルスを出発してひと月あまり。
当時はまだ秋口で、昼間などはまだ暑いくらいであったのだが、たった1ヶ月ほどで季節は劇的に移行していた。
もう木枯らしに近い風が吹き、木々の葉は限られた種を残し落葉していた。
「熊さん、寒くない?」
御者台にいるテオドールに、アンナリーナは小窓から声をかけた。
この馬車はエピオルスがかなりの速度で駆けているので、風除けに軽く結界を張ってあるのだが。
「大丈夫だ。
真冬の事を思ったら、こんなのは多少涼しいだけだ」
「わかった。
次の休憩でイジと交代してね」
小窓を閉じて、アンナリーナは引っ込んでしまう。
その気配を背中で感じて、テオドールはここひと月ほどの事を思い出していた。
ドゥンケルスから首都まで、馬車で向かっても通常ふた月ほどかかる。
それでももちろん年内には余裕で到着するが、アンナリーナたちの馬車は高速で走行出来た。だがアンナリーナは時系列のアリバイの為に調整しながら進んでいた。
「まったく……
あいつにかかったら根こそぎだな」
常時、弱く探査をかけた状態でいるアンナリーナは、魔獣を見つけると馬車を止め、森に突っ込んでいく。
旅の前には、自分のスキルが使用出来るかすべて確認していたので躊躇いなく【飛行】で進む。
そうしてこの大陸特有の魔獣を狩りながら首都を目指していた。
その首都はアンナリーナが今世に転生して初めて見るような、壮大な【都市】だった。
今、アンナリーナたちは首都へと巡る道、最後の丘の頂上にいる。
そこからはこのブエルネギア大陸でも有数の大都市、魔人領の首都【クラウヘルト】の全容が見て取れた。
「これは……凄いね」
都市を取り巻く防壁は、他に類を見ない高さで、それが各町をはさんで幾重にもめぐらせてある。
「一体、どのくらいの人が住んでいるんだろう」
『10年前の統計ですが、およそ50万。この世界でもかなりの規模の都市です』
久々のナビである。
前世日本でも50万都市とは岡山市や静岡市と言った県庁所在地が多い。
それほどの大都市の食料事情などはどうなっているのか、興味は尽きない。
丘から見たときは気づかなかったが、ごていねいにも堀まで切ってある防壁の外。
そこに架けられた跳ね橋を渡り、兵士の審査を受けてようやく首都の中に入る事が出来る。
アンナリーナたちは馬車用の門で兵士からの審査を受けていた。
首都でも滅多に見ない大型の馬車に乗った見慣れぬ一行。
全員の身分証は冒険者ギルドカードで、うち1人は召喚獣であると言う。
そして全員の代表は見るからに年若い少女で、領都ドゥンケルスのギルドマスターより紹介状をもらっていた。
「はい、結構です。
他に何か申請することはありませんか?」
「召喚獣を増やす場合はどうすれば?」
「その場合は冒険者ギルドで登録してくれればいい。
……あなたたちは遠方からのお客のようだから、冒険者ギルドの他に役所に行って話を通しておいた方がいい」
「ありがとうございます」
「では、気をつけて」
アンナリーナに自覚はないが、この門は一番外郭の門。
彼女らが向かう教育特区までは、まだまだ遠い。
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